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侯爵家の怒り
エリック様とすれ違ったまま、私は逃げるように侯爵家の本邸へと向かった。
まだ朝の光が眩しい時間だというのに、私の心は冬の夜のように冷え切っている。
「ジュリーお姉様! おはようございます……って、そのお顔は何事ですの!?」
玄関ホールに足を踏み入れるなり、弾丸のような勢いで駆け寄ってきたのは、次女のメルローズだった。
輝くようなプラチナブロンドをなびかせ、宝石のようなエメラルドの瞳を怒りに燃え上がらせている。彼女は私の自慢の妹だ。成績は常に主席、高位貴族としての品格とカリスマ性を備え、それでいて身分に関わらず誰にでも公平に接する彼女は、教職員からもクラスメートや後輩からも絶大な信頼を寄せられている。
対して、彼女と同じクラスの王女アレクシア殿下はといえば――。
自分の思い通りにいかないとすぐに「息が苦しいわ」と咳き込み、周囲の同情を引こうとする。その人望のなさは、学園内でも周知の事実だった。
「聞きましたわよ、エリック様の不始末! あんな我儘王女の狂言に振り回されて、新婦を置き去りにするなんて……! お姉様が優しすぎるから、あの女は調子に乗るんですのよ!」
「メルローズ、落ち着いて。王女殿下に対して不敬よ。それに、あの方は本当にお加減が悪そうだったわ」
「いいえ! あの女は都合が悪くなるといつでも ああですわ。お姉様、次にあの方が学園や社交界でお姉様に失礼な真似をしたら、私がこの瞳で射殺して差し上げますから!」
メルローズはフンと鼻を鳴らし、まるでジュリエットの騎士にでもなったかのように胸を張る。彼女の真っ直ぐな怒りは、冷え切っていた私の心を温めてくれた。
「……ありがとう、メルローズ」
「礼には及びませんわ。お姉様はフォックス家の誇りなんですもの。あんなお飾りの王女に負けてはなりません!」
妹の激励を受けながら、私は奥の執務室へと足を向けた。そこには、私の帰りを心配そうに待っていた父・リチャードがいた。
父は元公爵家の次男で、母の元へ婿養子として入った人だ。その整った容姿と穏やかで知的な佇まいは、今も多くの貴婦人たちから慕われている。
「ジュリエット、おはよう。……顔色が悪い。無理をして笑わなくていいんだよ」
父の優しい声に、張り詰めていた糸が切れそうになる。父は私の隣に座ると、大きな手で私の頭を撫でてくれた。
「私と君の母上も、始まりは政略結婚だった。最初は言葉も少なくてね、私は婿養子としての重圧に、メリンダは家の維持に必死だった。けれど、時を重ねるうちに、私たちは互いの欠点を補い合える、唯一無二のパートナーになれたんだ」
父は遠い目をして、愛する妻メリンダ――私の母のことを語った。
「エリックくんも、今はまだ自分の立場と義務の狭間で混乱しているだけなのだろう。君たちも、焦る必要はない。少しずつ、信頼を積み重ねていけばいいんだ。ここは君の家だ。いつでも本邸へ羽を休めに来なさい」
父の言葉は、暗闇を照らす灯火のようだった。
エリック様との関係も、いつかは父と母のようになれるのだろうか。今はまだ遠い夢のように思えるけれど、ほんの少しだけ、前を向く勇気が湧いてきた。
_________
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📢短編🌹【「元カノが忘れられないんでしょう?」と身を引いた瞬間、爽やか彼氏の執着スイッチが入りました】
まだ朝の光が眩しい時間だというのに、私の心は冬の夜のように冷え切っている。
「ジュリーお姉様! おはようございます……って、そのお顔は何事ですの!?」
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輝くようなプラチナブロンドをなびかせ、宝石のようなエメラルドの瞳を怒りに燃え上がらせている。彼女は私の自慢の妹だ。成績は常に主席、高位貴族としての品格とカリスマ性を備え、それでいて身分に関わらず誰にでも公平に接する彼女は、教職員からもクラスメートや後輩からも絶大な信頼を寄せられている。
対して、彼女と同じクラスの王女アレクシア殿下はといえば――。
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「聞きましたわよ、エリック様の不始末! あんな我儘王女の狂言に振り回されて、新婦を置き去りにするなんて……! お姉様が優しすぎるから、あの女は調子に乗るんですのよ!」
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「いいえ! あの女は都合が悪くなるといつでも ああですわ。お姉様、次にあの方が学園や社交界でお姉様に失礼な真似をしたら、私がこの瞳で射殺して差し上げますから!」
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「……ありがとう、メルローズ」
「礼には及びませんわ。お姉様はフォックス家の誇りなんですもの。あんなお飾りの王女に負けてはなりません!」
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父の言葉は、暗闇を照らす灯火のようだった。
エリック様との関係も、いつかは父と母のようになれるのだろうか。今はまだ遠い夢のように思えるけれど、ほんの少しだけ、前を向く勇気が湧いてきた。
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