身勝手な王女の騎士様、離縁して差し上げますわ。えっ!なぜ泣きそうな顔で私を抱きしめるのですか?

恋せよ恋

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雨の帰路、初めての口論

  「白磁の庭園」を辞した私の足取りは、鉛のように重かった。
 王宮の回廊を進むと、空はいつの間にか灰色の雲に覆われ、しとしとと冷たい雨が降り始めていた。それはまるで、私の心の内を映し出しているかのようだった。

 背後からは、規則正しい軍靴の音が響く。

 エリック・フォックス。私の夫であり、我がフォックス侯爵家を共に支える伴侶として婿入りした騎士。まだ勤務中である彼は今、馬車が待つ平門まで私に同行していた。

 周囲に人気がなくなった渡り廊下で、私は突然足を止めた。

 次第に雨音が激しさを増し、屋根を叩く音が鼓動のように響く。私は振り返らずに、震える声で問いかけた。

「……満足されましたか、エリック様」

 背後の足音が止まる。エリック様は何も答えない。その沈黙が、今の私には何よりも残酷な拒絶に感じられた。私は堪えきれず、激しい感情のままに彼を振り返った。

「あんな場所に私を呼び出して、殿下との仲睦まじい思い出話を聞かせ……衆人環視の中で私を貶める。それが、望まぬ結婚を強いられた貴方の、私への復讐なのですか?」

「――っ、何を、言っているんだ、ジュリエット」

 エリック様が驚愕に目を見開いた。その瞳には、怒りではなく、深い狼狽が浮かんでいる。彼は一歩踏み出し、私の肩を抱こうと大きな手を伸ばした。

 けれど、私はその手を強く振り払った。

「触らないで!……貴方の手からは、あの百合の香りがしますわ。王女殿下が愛しそうに貴方に触れていた、あの忌まわしい香りが!」

 私の頬を、涙が伝い落ちる。エメラルドの瞳は、悲しみと屈辱で激しく潤んでいた。

 エリック様は、伸ばした手を宙で止めたまま、石像のように固まった。彼の指先が微かに震えている。

「違うんだ、ジュリエット……俺は、あんな話を肯定したつもりは……」

「肯定なさいましたわ!『御意のままに』と!……貴方にとっての真実は、王女殿下の言葉の中にしかないのでしょう? ならば、どうして私の元へ来たのですか。どうして、フォックスの名を継ぐなどと言ったのですか!」

 雨風が回廊に吹き込み、私のドレスの裾を濡らす。けれど、心の寒さに比べれば、そんなものは取るに足らないことだった。

「もう結構です。王女殿下がお待ちですよ。今頃、貴方が戻らないことに痺れを切らして、また『お得意の発作』を起こされているのではないかしら。……早くお戻りになって、あの方を安心させて差し上げなさいな」

 私は吐き捨てるように言うと、駆け出すようにして馬車へと向かった。

 背後で雨音に混じりエリック様が私の名を呼ぶ声が聞こえた気がしたけれど、私は一度も振り返らなかった。
__________

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📢🌹新連載【「君を抱くつもりはない」初夜に拒絶した公爵様、身代わりの後妻(私)が姉の忘れ形見を守り抜く間に、なぜか執着が始まっています?】

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