【完結】「女の子は冷たい男が好き」という幼馴染の嘘を信じた婚約者が、あまりに冷たすぎるので婚約破棄を願い出ます

恋せよ恋

文字の大きさ
11 / 16

断罪と拒絶

「スーザン! スーザン、そこにいるんだろう!? 頼む、話を聞いてくれ!」

 ロイド侯爵家の馬車を飛ばし、なりふり構わずオーチャード伯爵邸へと駆けつけたパトリスは、門前で必死に叫んでいた。かつての端正な容姿は見る影もなく、髪は乱れ、瞳は血走っている。

 だが、重厚な鉄柵が開くことはなかった。代わりに現れたのは、冷徹なまでの怒りを纏った二人の人物――トーマスとイザベラだった。

「……見苦しいぞ、パトリス。近所迷惑だ、さっさと帰れ」

 トーマスの声は、氷点下の風よりも冷たかった。その隣で、イザベラが扇子をきつく握りしめ、パトリスを汚物でも見るような目で見下ろしている。

「トーマス殿! お願いだ、スーザンに合わせてくれ! すべては誤解なんだ、僕はあんな女の言葉を……!」

「誤解? 笑わせるな」

 トーマスが一歩前に踏み出し、パトリスの胸ぐらを掴み上げた。

「お前の口から出た『鬱陶しい』という言葉も、劇場でお前がジェシカと笑いながら妹に投げつけた侮蔑の数々も、すべて『誤解』だと言うのか? お前は自分の意思で、自分の口で、妹の心を切り刻んだんだ」

「それは……っ、僕はただ、彼女に僕を追ってほしくて……!」

 パトリスのあまりに幼稚で独りよがりな告白に、今度はイザベラが冷ややかに言い放った。

「パトリス様。貴方は愛する人を試すために、その尊厳を泥に塗ったというのですか? ……最低ですわね。ラサール侯爵家の名において申し上げます。スーザンは今、お前の名前を聞くだけで震えが止まらなくなるほど、深い傷を負っているのです」

「……え?」

 パトリスの動きが止まる。震えが、止まらない?

「お前は『駆け引き』のつもりだったのかもしれないが、妹にとっては終わりのない『虐待』だったんだよ」

 トーマスはパトリスを突き放すと、懐から一束の書類を取り出し、彼の足元に叩きつけた。

「これは、これまでにお前が妹に行ってきた数々の不当な扱いの記録だ。証人は劇場や学園にいくらでもいる。……いいか、これ以上妹に近づこうとするなら、我々は泥沼の裁判も辞さない。ロイド侯爵家がどれほどの打撃を受けるか、その足りない頭でよく考えるんだな」

「裁判……。そんな、僕たちは婚約者で……」

「婚約? ああ、あれならもう終わったよ。父が正式に解消の手続きを済ませた。お前はもう、スーザンにとって赤の他人だ。……二度と、その汚らわしい口で妹の名前を呼ぶな」

 トーマスとイザベラは、絶望に打ちひしがれるパトリスを置き去りにして、背を向けた。
 閉ざされる大きな門。ガチャン、という非情な金属音が、パトリスの世界が完全に断絶された音に聞こえた。

「スーザン……。スーザン……っ!」

 地面に這いつくばり、自分の名前を呼ぶ資格さえ奪われたことを知ったパトリス。
 彼にできることは、ただ冷たい石畳を涙で濡らすことだけだった。
____________

エール📣いいね❤️お気に入り⭐️応援よろしくお願いします🙇‍♀️

あなたにおすすめの小説

貴方なんて大嫌い

ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。

恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。 キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。 けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。 セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。 キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。 『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』 キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。   そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。 ※ゆるふわ設定 ※ご都合主義 ※一話の長さがバラバラになりがち。 ※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。

『愛されぬ身代わり妻ですが、真実はもう、あの小箱の中に置いてきました』

まさき
恋愛
「サインはいただきました。あとは私が、この屋敷を出るだけです」 五年間の結婚生活。 イリス・フェルナが演じ続けたのは、婚約直前に出奔した異母姉・クローヴィアの「身代わり」という役だった。 辺境大公ヴァルクが愛していたのは、幼い頃に魔物の群れから自分を救ってくれた少女——それがクローヴィアだと信じていた彼は、顔の似た妹イリスを娶りながらも、一度たりとて彼女を「イリス」と呼ぶことはなかった。 冷淡な視線、クローヴィアと比べられる日々。 屋敷にはいまも姉の肖像画が飾られ、食卓には姉の好物が並んだ。 「君はどこまでいっても、クローヴィアにはなれない」 その言葉を最後に、イリスは静かに離縁状を書き、小さな箱をひとつ棚に残して、夜明け前に屋敷を去った。 翌朝、箱を開けたヴァルクが見つけたのは—— 幼い頃、命の恩人の少女に預けたはずの護符と、 少女の手で綴られた、あまりにも小さな真実の手記だった。 ――「雪の森で貴方を抱きしめていたのは、お姉様ではなく、私でした」 真実を知り、はじめて「イリス」という名を叫びながら彼女を追うヴァルク。 だが、すべてを置いて「自分」を取り戻したイリスは、もう二度と、誰かの身代わりとして微笑む妻には戻らない。 これは、名前を奪われた女が自由を掴み、愚かな夫が真実の愛を失うまでの——静かで鮮やかな再生の物語。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

わたしさえいなければ、完璧な王太子だそうです。

ふらり
恋愛
人並外れた美貌・頭脳・スタイル・武勇を持つウィンダリア王国の25歳の王太子は、完璧な王太子だと言われていた。ただし、「婚約者さえいなければ完璧な王太子なのに」と皆が言う。12歳の婚約者、ヴァイオレット・オルトニーは周囲から憐みの目を向けられていた。 「私との婚約は、契約で仕方なくなのかい? もう私に飽きてしまっている? 私は今でも君にこんなに夢中なのに」 13歳年下の婚約者少女に執着溺愛する美貌も能力も人間離れした王太子様と、振り回される周囲のお話です。小説家になろうにて完結しております。少しずつこちらにもあげていくつもりです。ファンタジー要素はちょっぴりです。

元の世界に帰らせていただきます!

にゃみ3
恋愛
淡い夢物語のように、望む全てが叶うとは限らない。 そう分かっていたとしても、私は敵ばかりの世界で妬まれ、嫌われ、疎まれることに、耐えられなかったの。 「ごめんね、バイバイ……」 限界なので、元いた世界に帰らせてもらいます。 ・・・ 数話で完結します、ハピエン!

貴方でなくても良いのです。

豆狸
恋愛
彼が初めて淹れてくれたお茶を口に含むと、舌を刺すような刺激がありました。古い茶葉でもお使いになったのでしょうか。青い瞳に私を映すアントニオ様を傷つけないように、このことは秘密にしておきましょう。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。