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最終章・銀紫の戴冠
数年後。レヴォルタ帝国の帝都グラードは、歴史上類を見ない祝祭の喧騒に包まれていた。
空はどこまでも高く青く澄み渡り、街中の窓辺にはマリーローズの象徴である紫の旗と、帝国の深紅の旗が風にたなびいている。今日は、皇帝の退位に伴い、リュシアン大公が新皇帝として、そしてマリーローズが皇后として戴冠する、新たなる時代の幕開けの日であった。
宮殿の私室で、マリーローズは鏡の前に立っていた。
身に纏うのは、帝国の最高級の魔導シルクで織り上げられた白銀のドレス。かつて冷酷と揶揄された銀髪は、今や知性と慈愛の象徴として、背中まで美しく流れている。
その時、小さな足音が響き、一人の幼い少年が部屋に飛び込んできた。
「お母様! お父様が、もうすぐ準備ができるって!」
銀色の髪に、吸い込まれるような紫の瞳。マリーローズとリュシアンの間に授かった第一皇子、レオである。
マリーローズは屈み込み、愛おしげに我が子の頬を撫でた。
「ええ、レオ。今日からは、お父様とお母様で、もっと素敵な世界を創っていくのよ。あなたも、しっかりと見ていてね」
かつてマリーローズを拒絶した母エリザベスのような歪んだ愛情ではない。マリーローズは、この子を一人の人間として尊重し、その可能性を誰よりも信じている。自分自身の過去を乗り越えたからこそ、彼女は真の母親としての愛を知ることができたのだ。
戴冠式の会場となる大聖堂には、大陸中の指導者が集結していた。
再建を果たした王国の代表として出席した 第二王子で、現君主エドワードは、かつての悲劇を感じさせない穏やかな表情で、壇上の二人を見つめている。
そして、聖堂の隅には、特例で参列を許された、老いた二人の男の姿があった。
父ダニエルと兄フレデリック。
監獄での刑期を終え、今は隠居の身となった彼らは、潤んだ目でマリーローズの姿を追っていた。
「……ああ、マリー。あんなに、あんなに美しく……」
ダニエルの頬を涙が伝う。
彼女は自分たちを見ようとはしなかった。けれど、その存在を消し去ることもなかった。かつての家族に、彼女が築き上げたこの平和な世界を、ただ一人の民として享受することを許したのだ。それこそが、彼女なりの、最も高潔な許しの形であった。
リュシアンがマリーローズの手を取り、二人は祭壇へと進む。
皇帝の冠がリュシアンの頭上に、そして「銀紫の皇后」の冠がマリーローズの頭上に置かれた瞬間、地鳴りのような歓声が帝都中に響き渡った。
マリーローズは、集まった人々を見渡し、凛とした声で宣言した。
「私たちは、血筋や過去に縛られる時代を終わりにします。何を持って生まれたかではなく、何を成し遂げたか。誰に捨てられたかではなく、誰と共に歩むか。……今日から、レヴォルタ帝国は、すべての孤独な魂が己の価値を証明できる光の国となることを誓いましょう」
その言葉は、かつて居場所を失い、すべてを奪われた少女だった彼女にしか言えない、重みのある真実だった。
式典の後、宮殿のバルコニーで、二人は寄り添って夕日を眺めていた。
「……マリーローズ。君を隣国で見つけたあの日、私は確信していた。君こそが、この大陸を導く唯一の至宝だと」
リュシアンがマリーローズの腰を抱き寄せる。
「リュシアン様。私はただ、あなたに愛されたから、ここまで来られたのですわ。孤独だった銀氷を溶かし、温かな泉に変えてくれたのは、あなたです」
マリーローズは、遠く王国の方向を見つめた。そこにはもう、憎しみも未練もない。
捨て子にすべてを奪われたと思っていた少女は、今、世界中の人々の心を勝ち取り、自らの力で幸福という名の玉座を創り上げた。
銀氷の令嬢は愛を請わない。なぜなら、彼女の周りには既に、請う必要のないほどの真実の愛が満ち溢れているから。
物語はここで幕を閉じるが、彼女が拓いた「銀氷の時代」は、その後数百年にわたり、大陸の平和と繁栄の礎として語り継がれることになる。
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空はどこまでも高く青く澄み渡り、街中の窓辺にはマリーローズの象徴である紫の旗と、帝国の深紅の旗が風にたなびいている。今日は、皇帝の退位に伴い、リュシアン大公が新皇帝として、そしてマリーローズが皇后として戴冠する、新たなる時代の幕開けの日であった。
宮殿の私室で、マリーローズは鏡の前に立っていた。
身に纏うのは、帝国の最高級の魔導シルクで織り上げられた白銀のドレス。かつて冷酷と揶揄された銀髪は、今や知性と慈愛の象徴として、背中まで美しく流れている。
その時、小さな足音が響き、一人の幼い少年が部屋に飛び込んできた。
「お母様! お父様が、もうすぐ準備ができるって!」
銀色の髪に、吸い込まれるような紫の瞳。マリーローズとリュシアンの間に授かった第一皇子、レオである。
マリーローズは屈み込み、愛おしげに我が子の頬を撫でた。
「ええ、レオ。今日からは、お父様とお母様で、もっと素敵な世界を創っていくのよ。あなたも、しっかりと見ていてね」
かつてマリーローズを拒絶した母エリザベスのような歪んだ愛情ではない。マリーローズは、この子を一人の人間として尊重し、その可能性を誰よりも信じている。自分自身の過去を乗り越えたからこそ、彼女は真の母親としての愛を知ることができたのだ。
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そして、聖堂の隅には、特例で参列を許された、老いた二人の男の姿があった。
父ダニエルと兄フレデリック。
監獄での刑期を終え、今は隠居の身となった彼らは、潤んだ目でマリーローズの姿を追っていた。
「……ああ、マリー。あんなに、あんなに美しく……」
ダニエルの頬を涙が伝う。
彼女は自分たちを見ようとはしなかった。けれど、その存在を消し去ることもなかった。かつての家族に、彼女が築き上げたこの平和な世界を、ただ一人の民として享受することを許したのだ。それこそが、彼女なりの、最も高潔な許しの形であった。
リュシアンがマリーローズの手を取り、二人は祭壇へと進む。
皇帝の冠がリュシアンの頭上に、そして「銀紫の皇后」の冠がマリーローズの頭上に置かれた瞬間、地鳴りのような歓声が帝都中に響き渡った。
マリーローズは、集まった人々を見渡し、凛とした声で宣言した。
「私たちは、血筋や過去に縛られる時代を終わりにします。何を持って生まれたかではなく、何を成し遂げたか。誰に捨てられたかではなく、誰と共に歩むか。……今日から、レヴォルタ帝国は、すべての孤独な魂が己の価値を証明できる光の国となることを誓いましょう」
その言葉は、かつて居場所を失い、すべてを奪われた少女だった彼女にしか言えない、重みのある真実だった。
式典の後、宮殿のバルコニーで、二人は寄り添って夕日を眺めていた。
「……マリーローズ。君を隣国で見つけたあの日、私は確信していた。君こそが、この大陸を導く唯一の至宝だと」
リュシアンがマリーローズの腰を抱き寄せる。
「リュシアン様。私はただ、あなたに愛されたから、ここまで来られたのですわ。孤独だった銀氷を溶かし、温かな泉に変えてくれたのは、あなたです」
マリーローズは、遠く王国の方向を見つめた。そこにはもう、憎しみも未練もない。
捨て子にすべてを奪われたと思っていた少女は、今、世界中の人々の心を勝ち取り、自らの力で幸福という名の玉座を創り上げた。
銀氷の令嬢は愛を請わない。なぜなら、彼女の周りには既に、請う必要のないほどの真実の愛が満ち溢れているから。
物語はここで幕を閉じるが、彼女が拓いた「銀氷の時代」は、その後数百年にわたり、大陸の平和と繁栄の礎として語り継がれることになる。
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