氷の令嬢は愛を請わない - 捨て子の『義妹』に愛も家族も奪われたマリーローズの逆襲

恋せよ恋

文字の大きさ
23 / 24
番外編

銀氷の系譜〜受け継がれる意思〜

 月日は流れ、レヴォルタ帝国には黄金の静寂が訪れていた。

 かつて「銀氷の令嬢」と呼ばれたマリーローズが皇后として即位してから、十五年の歳月が流れた。彼女が築き上げた、知性と実力こそが正当に評価される社会は、今や大陸全土の規範となっていた。

 帝立アカデミーの最奥にある、特待生専用の研究室。
 そこでは、美しく成長した少女アリアが、膨大な魔導書と対峙していた。彼女はマリーローズの直弟子として、古語解読と外交実務の両面で「次代の賢者」と目される存在になっていた。

「アリア、また根を詰めすぎだよ」

 柔らかな声と共に部屋に入ってきたのは、銀髪の美少年、第一皇子レオだった。彼は母マリーローズの聡明さと、父リュシアンの武勇を完璧に受け継ぎ、次期皇帝としての風格を漂わせている。

「レオ様。……申し訳ありません。この古文書にある『星の運行と農作の相関』についての記述が、どうしても気になってしまって。お師匠様(マリーローズ)なら、一目で解き明かされるのでしょうけれど」

「母上はいつも言っているよ。『答えを導くまでの苦悩こそが、真の英知を磨く』と。……さあ、少し休憩しましょう。今日はレオナード卿が、辺境の視察から戻られる日ですよ」

 アリアの瞳が明るく輝いた。かつて風の谷で自分を救い出し、マリーローズの元へ連れてきてくれたレオナード。彼は今、帝国国境守備隊の将軍として、そしてアリアの養父として、帝国の安寧を守り続けていた。

 宮殿のバルコニーでは、マリーローズとリュシアンが、戻ってきたレオナードを迎えていた。

 レオナードの髪には白いものが混じり、その顔には幾多の戦場と視察を潜り抜けてきた深い皺が刻まれていた。しかし、その瞳はかつて王国の騎士団にいた頃よりも、ずっと澄み渡り、誇りに満ちている。

「陛下、皇后閣下。ただいま戻りました。北方の民は皆、閣下が贈られた新しい魔導種に感謝しておりました」

「ご苦労様、レオナード。……あなたの献身には、いつも救われていますわ」

 マリーローズの声は、かつての鋭利な氷のようではなく、春の陽光を浴びた雪解け水のように穏やかだった。

 彼女はふと、遠く南の方角を見つめた。
 そこにはかつて自分を排斥した王国があった。今や王国は帝国の庇護下で平穏を取り戻し、レナードという名の一地方として再生している。かつての敵も、裏切りも、流れる時間の中で緩やかに風化し、新しい歴史の土壌となっていた。

「……マリーローズ。あの子たちを見ていると、私たちの闘いは無駄ではなかったと思うよ」

 リュシアンが、研究室から楽しげに歩いてくるレオとアリアの姿を指差した。

「ええ。私がかつて望んでいたのは、ただ自分を肯定してくれる場所でした。けれど、今は違います。……次の世代が、自分たちの力で自分の価値を証明できる世界。それを残すことこそが、私の本当の勝利だったのだと、ようやく気づきましたの」

 その時、アリアがマリーローズの元へ駆け寄ってきた。

「お師匠様! 先ほどの解読、ついに成功しました! 霧の向こう側にあった真実が、やっと見えた気がします!」

 嬉々として語る弟子の姿に、マリーローズはかつての自分を重ねた。孤独に本と向き合い、誰にも理解されない知識を積み上げていたあの日々。
 けれど今、彼女の周りには、その知識を共に分かち合い、喜び合える家族と仲間がいる。

「素晴らしいわ、アリア。……けれど、真実の向こう側には、常に新しい謎が待っています。それを追い求める強さを、これからも持ち続けなさい」

 マリーローズはアリアの頭を優しく撫でた。

 その光景を、レオナードは万感の思いで見つめていた。
 かつて自分が守れなかった「至宝」は、今、自ら光を放つ太陽となり、次代の至宝たちを照らしている。自分が果たせなかった贖罪は、アリアという新しい希望を育むことで、ようやく完結したのだと感じていた。

 夕暮れ時、帝都に鐘の音が響き渡る。それはかつての「悲恋の令嬢」の物語が終わり、永遠に続く「賢者の系譜」が始まった合図のようだった。

 銀の髪。紫の瞳。それはもはや、誰かを呪う色でも、孤独を象徴する色でもない。この大陸を導き、幸福を約束する、最も気高く、愛に満ちた色彩。

 マリーローズ・グラード。彼女の歩んだ軌跡は、この先もずっと、暗闇を照らす月光のように、迷える人々の足元を照らし続けていくのである。

 ハッピーエンド
______________

みんなの幸せに、エール📣いいね❤️お気に入り⭐️応援よろしくお願いします🙇‍♀️

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄に祝砲を。あら、殿下ったらもうご結婚なさるのね? では、祝辞代わりに花嫁ごと吹き飛ばしに伺いますわ。

猫屋敷むぎ
恋愛
王都最古の大聖堂。 ついに幸せいっぱいの結婚式を迎えた、公女リシェル・クレイモア。 しかし、一年前。同じ場所での結婚式では―― 見知らぬ女を連れて現れたセドリック王子が、高らかに宣言した。 「俺は――愛を選ぶ! お前との婚約は……破棄だ!」 確かに愛のない政略結婚だったけれど。 ――やがて、仮面の執事クラウスと共に踏み込む、想像もできなかった真実。 「お嬢様、祝砲は芝居の終幕でと、相場は決まっております――」 仮面が落ちるとき、空を裂いて祝砲が鳴り響く。 シリアスもラブも笑いもまとめて撃ち抜く、“婚約破棄から始まる、公女と執事の逆転ロマンス劇場”、ここに開幕! ――ミステリ仕立ての愛と逆転の物語です。スッキリ逆転、ハピエン保証。 ※「小説家になろう」にも掲載。 ※ アルファポリス完結恋愛13位。応援ありがとうございます。

婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。

待鳥園子
恋愛
伯爵令嬢アイリーンの婚約者であるセシルの隣には『妹のような幼馴染み』愛らしい容姿のデイジーが居て、身分差で結婚出来ない二人が結ばれるためのお飾り妻にされてしまうことが耐えられなかった。 そして、二人がふざけて婚姻届を書いている光景を見て、アイリーンは自分の我慢が限界に達そうとしているのを感じていた……のだけど!?

夫は私を愛していないそうなので、遠慮なく離婚します。今さら引き止められても遅いです

藤原遊
恋愛
王妃付き護衛騎士である夫に、「お前を愛したことはない」と告げられた。 理由は単純。 愛などなくても、仕事に支障はないからだという。 ──そうですか。 それなら、こちらも遠慮する必要はありませんね。 王妃の機嫌、侍女たちとの関係、贈り物の選定。 夫が「当然のように」こなしていたそれらは、すべて私が整えていたもの。 離婚後、少しずつ歯車は狂い始める。 気づいたときにはもう遅い。 積み上げてきた信用は、静かに崩れていく。 一方で私は、王妃のもとへ。 今さら引き止められても、遅いのです。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。

たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。 彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。 『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』 「……『愛している』、ですか」 いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。

結婚式当日に捨てられた私、隣国皇帝に拾われて過保護に溺愛されています~今さら姉を選んだ王子が後悔しても手遅れです~

唯崎りいち
恋愛
結婚式当日、私は“替え玉”として捨てられた。 本物の姉が戻ってきたから、もう必要ないのだと。 けれど—— 私こそが、誰も知らなかった“本物の価値”を持っていた。 世界でただ一人、すべてを癒す力。 そして、その価値を知るただ一人の人が、皇帝となって私を迎えに来る。 これは、すべてを失った少女が、本当に必要とされる場所へ辿り着く物語。

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

【完結】ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望