実姉(自称 悲劇のヒロイン)が出戻って来た 〜 なぜか寄り添う「私の」婚約者 〜

恋せよ恋

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孤立無援の夜会

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 数日後、王都で大規模な夜会が開催された。
 本来であれば、私とカイル様が婚約者として手を取り合い、社交界に顔を売るべき場だ。しかし、私は事前の宣言通り「体調不良」を理由に欠席した。

 代わりにその場にいたのは、私のドレスを身に纏い、私の婚約者の腕に縋り付くエレナお姉様だった。

 夜更け前、屋敷に戻ってきた二人の様子を、私は二階のホールから眺めていた。
 カイル様はどこか高揚した様子で、エレナお姉様の肩を抱いている。お姉様はといえば、まるで凱旋した女王のような顔で、手に持った扇で口元を隠しながら笑っていた。

「リリア、今夜の夜会は素晴らしかったよ。君がいなかったのは残念だが、エレナ嬢は多くの貴族から同情と称賛を浴びていた」
 着替えもせず、カイル様は私を見上げると勝ち誇ったように報告する。

「同情、ですか?」
「ああ。彼女がどれほど不当に伯爵家で扱われてきたか、そして実の妹である君にどれほど冷遇されているか……。皆、涙を流して彼女を慰めていたよ。君の悪評は、もう取り返しがつかないところまで来ている」

 お姉様が、カイル様の腕の中でわざとらしく身を縮めて見せた。
「……リリア、ごめんなさい。私、つい本当のことをお話ししてしまったの。あなたが私の宝石を取り上げたことや、食事の席で口も聞いてくれないこと……。でも、皆様は分かってくださったわ。私にはカイル様という騎士がいるから大丈夫だって」

 宝石を取り上げた? 食事で口を聞かない?
 事実は真逆だ。彼女が私の宝石を奪い、私が何を話しかけても「怖い」と泣き出すから食卓が静まり返るのだ。

 しかし、カイル様はそんな嘘を疑いもしない。
「君との婚約について、僕の両親も再考すると言ってくれた。リリア、君のような冷酷な女は、ディードリッヒ家の嫁には相応しくない。エレナさ嬢のような慈悲深い女性こそが、僕の隣にふさわしいんだ」

「……そうですか。それはおめでとうございます、カイル様」
 私が淡々と、感情を殺してそう告げると、カイル様は不満そうに顔を歪めた。もっと私が泣き叫び、縋り付いてくると思っていたのだろう。

「ふん、強がりを。……さあ、エレナ嬢。今夜、ゆっくり休んだら、明日は私の実家へ挨拶行こう。両親も君に会いたがっている」
 二人は睦まじげに去っていった。

 私は、彼らの背中を見送りながら、静かに階下へ降りた。
 サロンでは、母が嬉々としてエレナお姉様のための新しい夜会服のカタログを眺めていた。

「リリア、あなたも少しは見習いなさい。エレナはあんなに皆に愛されているのよ。……ああ、このドレスも素敵ね。あなたの結婚資金として貯めていた分から少し回してもいいわよね? エレナは今、一番輝いているんですもの」

 私は返事もせず、屋敷を出た。
 向かった先は、社交界の喧騒から離れた、ひっそりとした高級クラブの一室だ。

 そこに座っていたのは、銀髪を美しく整えた、冷徹な美貌を持つ青年だった。
「――お待ちしておりましたよ、リリア嬢」
 彼は、王家とも繋がりの深いクリフォード公爵。

 社交界の動向を支配する「情報の王」とも呼ばれる男だ。そして、エレナお姉様の前夫である伯爵の、親友でもあった。
「公爵閣下。お忙しい中、お時間をいただき感謝いたします」

「いいえ。友人を裏切り、泥を塗った不貞の女が、厚顔無恥にもまた別の男を誑かしていると聞いては、黙っていられませんからね」
 クリフォード公爵は、テーブルに置かれた封筒――私が渡した調査資料――を指先で叩いた。

「リリア嬢、君の婚約者は救いようのない馬鹿だ。……だが、君は面白い。実の姉を奈落に突き落とそうというのだから」
「私はただ、返していただきたいだけです。奪われた名誉も、私の物も。……そして、あの二人が望む『真実の愛』とやらの結末を、特等席で見せて差し上げたいだけですわ」

 公爵は、薄く唇を吊り上げた。
「協力しよう。明後日の夜、王宮で開かれる晩餐会。そこが、彼らにとって最高の処刑場になる」
「ありがとうございます、閣下」
 私は深く一礼した。

 カイル様、エレナお姉様。あなたたちは、自分たちが「悲劇のヒロイン」と「救いの騎士」として喝采を浴びていると思っているのでしょう。

 けれど、その舞台の幕を下ろすのは私です。「冷たい妹」と呼ばれた私が、最後に見せる冷徹な結末を楽しみにしていてくださいね。

 私は、公爵から渡された「特別な招待状」を握りしめた。
 そこには、カイル様も、我が家の両親も、決して立ち入ることのできない、真の社交界の入り口が記されていた。
______________

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