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メラニアの最後の一手
エドワード殿下が「白馬の王子ごっこ」に失敗し、醜態を晒して連行された翌日。王宮の片隅、日の当たらない離宮の一室では、もう一人の「悲劇のヒロイン」が最後の手札を切ろうとしていた。
メラニア・フォドワード。
実家の侯爵家はレオ様の件で完全に失脚し、彼女自身も不敬罪の疑いで監視下に置かれている。かつての愛くるしい笑顔は消え失せ、今やその瞳には、執念と憎悪だけが濁った光を放っていた。
「……アリステア。あんな可愛げのない女が、王太子妃になるなんて許さないわ。彼女さえ、彼女さえいなくなれば、エドワード王太子殿下は私の元へ戻ってきてくださるはず……!」
メラニアは震える手で、小瓶に入った無色の液体を、給仕用のティーポットへと注ぎ込んだ。
それはフォドワード家が闇ルートで入手していた、特殊な薬物。口にすれば意識が混濁し、支離滅裂な言動を繰り返した末に、廃人同様となる禁じられた毒物だ。
「さあ、これをお持ちなさい。アリステア様に『仲直りの印』として届けるのよ」
買収された下働きの侍女が、怯えながらそのトレイを受け取った。
一方その頃、私は公爵家のテラスで、カサンドラお義姉様とティータイムの最中だった。
「アリステア、今のあなたの脈拍は毎分72拍。非常に安定しているわ。昨日の不愉快な侵入者を排除したことで、交感神経の過剰な興奮が抑えられたようね」
「……お義姉様、お茶を飲む時くらい、聴診器を外していただけませんか?」
私が呆れていると、見慣れない侍女が「メラニア様からの献上品です」と、湯気の立つティーポットを運んできた。
本来なら毒見を通すべきだが、その侍女は「メラニア様が最後のお詫びに、アリステア様がお好きだったハーブティーを……」と、涙ながらに訴えた。
「……ふん。最後のお詫び、ねえ」
私がカップを手に取ろうとした瞬間。
カサンドラお義姉様の眼鏡が、キラリと鋭く光った。
「待ちなさい。その蒸気の香りに、わずかながら有機溶剤に似た異臭が混じっているわ。……アリステア、動かないで」
お義姉様は、どこから取り出したのかも分からない試験紙を取り出すと、ポットの中身を少量採取し、テキパキとチェックした。
「……やはりね。アトロピン系の神経毒に、微量の幻覚剤が調合されているわ。これを飲めば、あなたは三十分以内に公衆の面前で全裸で踊り出すか、そのまま脳が焼き切れて廃人になるでしょう。……医学的に見て、非常に悪趣味な調合ね」
「……全裸で踊る? 私が?」
想像しただけで、私は背筋に凍りつくような寒気を感じた。
自由への逃走どころか、人生そのものを強制終了させられるところだった。
「……メラニア様、ついに一線を越えましたわね」
私が冷たく呟くと同時に、テラスの影から近衛騎士たちを連れたアルバート様が現れた。
「聞こえたかい? 全て記録したよ。……メラニア・フォドワードか。彼女の『ヒロインごっこ』は、これで正真正銘、幕引きだ」
アルバート様は私の隣に座ると、震える私の手を優しく、けれど逃がさない強さで握りしめた。
「怖がらなくていい、アリステア。……彼女には、これから死ぬよりも過酷な『静寂』を与えてあげよう。……北の塔。あそこは、話し相手も、鏡も、窓さえない、ただ自分の罪とだけ向き合う場所だ」
数時間後。
王宮の北側にそびえ立つ、霧に包まれた「北の塔」の重い扉が閉ざされた。
「離して! 私は、私は王妃になるはずだったのよ! アリステアが死んでしまえばよかったのに!!」
メラニアの叫び声は、冷たい石壁に吸い込まれ、二度と外に漏れることはなかった。
不敬罪、殺人未遂、そして国家転覆を企てた家門の構成員として、彼女の存在は王国の歴史から完全に抹消されたのだ。
私は、アルバート様が淹れてくれた、安全で芳醇な香りの紅茶を一口飲んだ。
「……スカッとしますわね。本当に」
「だろう? 君を汚そうとするモノは、こうして一つずつ、丁寧に排除していくに限る。……さあ、邪魔者はもういない。次のお茶菓子は何がいいかな?」
メラニアの最後の一手は、私の評価を不本意ながらさらに高め、彼女自身を永遠の闇へと葬り去る結果となった。
__________
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メラニア・フォドワード。
実家の侯爵家はレオ様の件で完全に失脚し、彼女自身も不敬罪の疑いで監視下に置かれている。かつての愛くるしい笑顔は消え失せ、今やその瞳には、執念と憎悪だけが濁った光を放っていた。
「……アリステア。あんな可愛げのない女が、王太子妃になるなんて許さないわ。彼女さえ、彼女さえいなくなれば、エドワード王太子殿下は私の元へ戻ってきてくださるはず……!」
メラニアは震える手で、小瓶に入った無色の液体を、給仕用のティーポットへと注ぎ込んだ。
それはフォドワード家が闇ルートで入手していた、特殊な薬物。口にすれば意識が混濁し、支離滅裂な言動を繰り返した末に、廃人同様となる禁じられた毒物だ。
「さあ、これをお持ちなさい。アリステア様に『仲直りの印』として届けるのよ」
買収された下働きの侍女が、怯えながらそのトレイを受け取った。
一方その頃、私は公爵家のテラスで、カサンドラお義姉様とティータイムの最中だった。
「アリステア、今のあなたの脈拍は毎分72拍。非常に安定しているわ。昨日の不愉快な侵入者を排除したことで、交感神経の過剰な興奮が抑えられたようね」
「……お義姉様、お茶を飲む時くらい、聴診器を外していただけませんか?」
私が呆れていると、見慣れない侍女が「メラニア様からの献上品です」と、湯気の立つティーポットを運んできた。
本来なら毒見を通すべきだが、その侍女は「メラニア様が最後のお詫びに、アリステア様がお好きだったハーブティーを……」と、涙ながらに訴えた。
「……ふん。最後のお詫び、ねえ」
私がカップを手に取ろうとした瞬間。
カサンドラお義姉様の眼鏡が、キラリと鋭く光った。
「待ちなさい。その蒸気の香りに、わずかながら有機溶剤に似た異臭が混じっているわ。……アリステア、動かないで」
お義姉様は、どこから取り出したのかも分からない試験紙を取り出すと、ポットの中身を少量採取し、テキパキとチェックした。
「……やはりね。アトロピン系の神経毒に、微量の幻覚剤が調合されているわ。これを飲めば、あなたは三十分以内に公衆の面前で全裸で踊り出すか、そのまま脳が焼き切れて廃人になるでしょう。……医学的に見て、非常に悪趣味な調合ね」
「……全裸で踊る? 私が?」
想像しただけで、私は背筋に凍りつくような寒気を感じた。
自由への逃走どころか、人生そのものを強制終了させられるところだった。
「……メラニア様、ついに一線を越えましたわね」
私が冷たく呟くと同時に、テラスの影から近衛騎士たちを連れたアルバート様が現れた。
「聞こえたかい? 全て記録したよ。……メラニア・フォドワードか。彼女の『ヒロインごっこ』は、これで正真正銘、幕引きだ」
アルバート様は私の隣に座ると、震える私の手を優しく、けれど逃がさない強さで握りしめた。
「怖がらなくていい、アリステア。……彼女には、これから死ぬよりも過酷な『静寂』を与えてあげよう。……北の塔。あそこは、話し相手も、鏡も、窓さえない、ただ自分の罪とだけ向き合う場所だ」
数時間後。
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「離して! 私は、私は王妃になるはずだったのよ! アリステアが死んでしまえばよかったのに!!」
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不敬罪、殺人未遂、そして国家転覆を企てた家門の構成員として、彼女の存在は王国の歴史から完全に抹消されたのだ。
私は、アルバート様が淹れてくれた、安全で芳醇な香りの紅茶を一口飲んだ。
「……スカッとしますわね。本当に」
「だろう? 君を汚そうとするモノは、こうして一つずつ、丁寧に排除していくに限る。……さあ、邪魔者はもういない。次のお茶菓子は何がいいかな?」
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