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隣国からの「救済」という名の強制徴用
メラニアが北の塔へと消え、フォドワード侯爵家の野望が完全に潰えた数日後。王宮の謁見の間には、さらなる「宣告」を待つ男の姿があった。
第二王子、エドワード。
彼は、もはや兄アルバートの影に怯えるだけの抜け殻のようになっていたが、国王陛下から下された裁定は、彼の予想を遥かに超える斜め上のものだった。
「エドワード。お前の度重なる不祥事、そして王家の権威を失墜させた罪、到底許されるものではない。……だが、隣国ルナリア王国との同盟を深めるため、お前には『大役』を担ってもらうことにした」
国王陛下の言葉に、エドワードの瞳に微かな希望が宿る。
「大役……。まさか、外交官として華々しく……!」
「いや。ルナリア王国のマグノリア女王陛下への婿入りだ。あちらは昨年、最愛の伴侶を亡くされ、公私ともに支える新たな配偶者を求めておられる」
その瞬間、謁見の間の隅で傍聴していた私の脳裏に、マグノリア女王の肖像が浮かんだ。
三十二歳。エドワードより十四歳年上。若くして王位を継ぎ、鋼の意志で国を立て直した「鉄の女」として知られる女傑だ。既に十歳になる聡明な王太子を育て上げており、彼女が求めているのは「愛」などではなく、王宮を彩る「静かで従順な装飾品」としての夫である。
「……えっ? マグノリア女王……? あの、戦場にも立つという、恐ろしい女王陛下ですか!?」
「失礼なことを言うな。女王陛下は、お前のような軟弱な男を『一から叩き直して差し上げましょう』と快諾してくださったのだ。感謝するがいい」
国王の冷徹な一言に、エドワードは膝から崩れ落ちた。
自由な恋愛を標榜し、自分の感情だけで周囲を振り回してきた彼にとって、厳格な規律と女王の絶対的な支配下に置かれるルナリアの王宮は、監獄よりも恐ろしい場所に違いない。
数刻後、私はアルバート様に連れられ、中庭の回廊を歩いていた。
「……救済、という名目ですが。実質的には『強制徴用』ですわね」
私が小さく呟くと、アルバート様は満足げに目を細めた。
「ああ。マグノリア女王は僕の古い知人でね。彼女に『教育のし甲斐がある、少々夢見がちな弟がいるのだが』と手紙を書いたのは、僕だよ」
「……また、殿下ですか」
「エドワードには『責任』という重圧の中で、一生を終えてもらう。女王には、彼を一歩も王宮から出さず、毎日十八時間の帝王学と礼儀作法の再教育を施すよう頼んである。……もう、二度と君の前に現れて、不快な言葉を吐くことはない」
(……恐ろしい。死罪にするよりも過酷な、一生終わらない『強制更生プログラム』に放り込むなんて)
私は、ルナリアへ送られる馬車の準備を遠目に眺めた。
エドワード殿下は、豪華な装飾が施された馬車――実質的には、内側から開かない頑強な「檻」に押し込まれようとしていた。
「アリステア! アリステア、助けてくれ! 兄上は狂っているんだ! 僕は、僕はルナリアなんて行きたくない!」
窓越しに叫ぶエドワードの声に、私は一歩前に出ると、最高にエレガントなカーテシーを披露した。
「殿下。ルナリアは冬の景色が大変素晴らしいと伺っておりますわ。……マグノリア女王陛下は、医学的にも非常に健康的な生活を重んじる方だとか。……どうぞ、あちらで『本物の愛と責任』を、たっぷりと叩き込まれてくださいまし」
「そんな……! 君まで、僕を見捨てるのか……!」
「見捨てる? いいえ、これは『救済』ですわ。……さようなら、エドワード様。あなたの新しい人生が、女王陛下の鉄拳……失礼、慈愛に満ちたものでありますよう、お祈りしております」
馬車が動き出す。
石畳を叩く馬蹄の音と共に、かつての婚約者の見苦しい叫び声は遠ざかっていった。
私は、隣で私の腰をしっかりと抱き寄せているアルバート様の体温を感じながら、心の底から込み上げてくる「爽快感」を禁じ得なかった。
「……行ってしまわれましたね」
「ああ。邪魔な雑草は根こそぎ抜き取って、隣の厳しい庭師に預けるのが一番だ。……さあ、アリステア。これでようやく、僕たちの『静かな時間』が始まるよ」
エドワードの自業自得な没落を見届けた私は、自分の自由が依然として「この男の掌の上」にあることを再認識しつつも、かつての敵たちが報いを受ける様を、極上のダージリンと共に楽しむことにしたのである。
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第二王子、エドワード。
彼は、もはや兄アルバートの影に怯えるだけの抜け殻のようになっていたが、国王陛下から下された裁定は、彼の予想を遥かに超える斜め上のものだった。
「エドワード。お前の度重なる不祥事、そして王家の権威を失墜させた罪、到底許されるものではない。……だが、隣国ルナリア王国との同盟を深めるため、お前には『大役』を担ってもらうことにした」
国王陛下の言葉に、エドワードの瞳に微かな希望が宿る。
「大役……。まさか、外交官として華々しく……!」
「いや。ルナリア王国のマグノリア女王陛下への婿入りだ。あちらは昨年、最愛の伴侶を亡くされ、公私ともに支える新たな配偶者を求めておられる」
その瞬間、謁見の間の隅で傍聴していた私の脳裏に、マグノリア女王の肖像が浮かんだ。
三十二歳。エドワードより十四歳年上。若くして王位を継ぎ、鋼の意志で国を立て直した「鉄の女」として知られる女傑だ。既に十歳になる聡明な王太子を育て上げており、彼女が求めているのは「愛」などではなく、王宮を彩る「静かで従順な装飾品」としての夫である。
「……えっ? マグノリア女王……? あの、戦場にも立つという、恐ろしい女王陛下ですか!?」
「失礼なことを言うな。女王陛下は、お前のような軟弱な男を『一から叩き直して差し上げましょう』と快諾してくださったのだ。感謝するがいい」
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自由な恋愛を標榜し、自分の感情だけで周囲を振り回してきた彼にとって、厳格な規律と女王の絶対的な支配下に置かれるルナリアの王宮は、監獄よりも恐ろしい場所に違いない。
数刻後、私はアルバート様に連れられ、中庭の回廊を歩いていた。
「……救済、という名目ですが。実質的には『強制徴用』ですわね」
私が小さく呟くと、アルバート様は満足げに目を細めた。
「ああ。マグノリア女王は僕の古い知人でね。彼女に『教育のし甲斐がある、少々夢見がちな弟がいるのだが』と手紙を書いたのは、僕だよ」
「……また、殿下ですか」
「エドワードには『責任』という重圧の中で、一生を終えてもらう。女王には、彼を一歩も王宮から出さず、毎日十八時間の帝王学と礼儀作法の再教育を施すよう頼んである。……もう、二度と君の前に現れて、不快な言葉を吐くことはない」
(……恐ろしい。死罪にするよりも過酷な、一生終わらない『強制更生プログラム』に放り込むなんて)
私は、ルナリアへ送られる馬車の準備を遠目に眺めた。
エドワード殿下は、豪華な装飾が施された馬車――実質的には、内側から開かない頑強な「檻」に押し込まれようとしていた。
「アリステア! アリステア、助けてくれ! 兄上は狂っているんだ! 僕は、僕はルナリアなんて行きたくない!」
窓越しに叫ぶエドワードの声に、私は一歩前に出ると、最高にエレガントなカーテシーを披露した。
「殿下。ルナリアは冬の景色が大変素晴らしいと伺っておりますわ。……マグノリア女王陛下は、医学的にも非常に健康的な生活を重んじる方だとか。……どうぞ、あちらで『本物の愛と責任』を、たっぷりと叩き込まれてくださいまし」
「そんな……! 君まで、僕を見捨てるのか……!」
「見捨てる? いいえ、これは『救済』ですわ。……さようなら、エドワード様。あなたの新しい人生が、女王陛下の鉄拳……失礼、慈愛に満ちたものでありますよう、お祈りしております」
馬車が動き出す。
石畳を叩く馬蹄の音と共に、かつての婚約者の見苦しい叫び声は遠ざかっていった。
私は、隣で私の腰をしっかりと抱き寄せているアルバート様の体温を感じながら、心の底から込み上げてくる「爽快感」を禁じ得なかった。
「……行ってしまわれましたね」
「ああ。邪魔な雑草は根こそぎ抜き取って、隣の厳しい庭師に預けるのが一番だ。……さあ、アリステア。これでようやく、僕たちの『静かな時間』が始まるよ」
エドワードの自業自得な没落を見届けた私は、自分の自由が依然として「この男の掌の上」にあることを再認識しつつも、かつての敵たちが報いを受ける様を、極上のダージリンと共に楽しむことにしたのである。
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