義妹にすべてを奪われた公爵夫人の回帰、今度は私があなたの居場所を奪う番です

恋せよ恋

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本編 逆襲の幕開け

凍てつく女の凱旋

「エメラルダ……っ! 君、正気か!? 公爵家を破滅させて、君だって無事では済まないんだぞ!」

 床に這いつくばったまま、レオナルドが絞り出すように叫ぶ。その顔は恐怖と屈辱で激しく歪んでいた。かつての傲慢な次期公爵の面影はどこにもない。

「あら、ご心配なく。私は既に『不当な扱いを受けた悲劇の妻』として、王家へ離縁状を提出済みよ。貴方がシャルロットと密会していた証拠、そして公爵家の資産を私的に流用していた帳簿……すべて、貴方の『実印』を押してね」

 エメラルダは、手元に残った実印を、まるで汚物でも捨てるようにレオナルドの足元へ放り投げた。カラン、と虚しい音が響く。

「な……っ! あの印章は、君が管理していたはずだ!」

「ええ。だからこそ、貴方の筆跡を真似て、貴方の指印を盗んで、完璧な『自白調書』を作り上げたの。……貴方がシャルロットに溺れ、寝室へ通い詰めるのを周囲に見せつけたのも、すべてはこのため。誰もが、貴方が妻の義妹への執着ゆえに正気を失い、家産を蕩尽したのだと信じているわ」

 エメラルダは窓を開け放った。冷たい夜風が吹き込み、彼女の銀髪を揺らす。

「結婚前に、貴方とシャルロットの計画を覚えているかしら? ……貴方は言ったわね。『エメラルダの肉片すら残すな』と」

「……っ!? なぜ、それを……。あの計画は、まだ実行して……」

 レオナルドが言葉を失う。そう、今世の彼はまだその命令を下していない。だが、エメラルダの瞳には、前世で刻まれた凍てつく殺意が宿っていた。

「貴方の魂は、既に腐りきっている。……だから、今度は私が、貴方のプライドを、爵位を、人生を、消し去って差し上げるわ」

 夜明けの鐘が鳴り響くと同時に、寝室の扉が勢いよく開かれた。
 入ってきたのは、エメラルダの実家の騎士たち、そして王宮からの使者だった。

「レオナルド・ワーグナー。貴殿には公金横領、及び配偶者への虐待、不貞の疑いがかかっている。直ちに同行願おう」

「待て! 誤解だ! これはエメラルダが仕組んだ罠なんだ!!」

 レオナルドは無様に暴れ、騎士たちに取り押さえられた。引きずられていく彼の視線の先で、エメラルダは静かに、そして誰よりも美しく微笑んでいた。

「……さようなら、レオナルド様。地下牢ではシャルロットが待っているわ。二人で仲良く、永遠に睦み合っていればいい。……底無しの泥沼の中でね」


  数日後。
 王都から遠く離れた、北の果ての別荘。

 エメラルダは、暖炉の火を見つめながら、ゆったりと椅子に身を預けていた。
 公爵家は取り潰され、レオナルドとシャルロットは爵位を剥奪。借金のかたに一生、地下の強制労働施設から出られることはない。

 彼女の手元には、実家へ移した莫大な資産と、手に入れた本当の「自由」があった。

「……やっと、終わったわ」

 エメラルダは自分の白い腕をさすり、大きく息を吐いた。
 もう、あの男の臭いも、偽りの愛の言葉も、彼女を苛むことはない。

 窓の外には、かつて彼女の命を奪った雪が、今は静かに、祝福するように美しく舞い落ちていた。
 エメラルダは、残っていた最後の一杯の紅茶を飲み干すと、二度と過去を振り返ることなく、新しい物語のページをめくった。

 完
___________

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