無自覚人たらしマシュマロ令嬢、王宮で崇拝される ――見た目はぽっちゃり、中身は只者じゃない !

恋せよ恋

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ステメラニー、誕生!

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「私の可愛いマシュマロちゃん。今日はドレスを作りましょうね」
「おう!それはいい!僕らの可愛いマシュマロ姫に、最高のドレスを作るんだぞ!」

 今日も、ステファニーが可愛くて仕方ないオラニエ侯爵夫妻は、笑顔が絶えない。

「お母様、ドレスなら先日も仕立てましたわ。採寸は面倒です」
「あら、でも、エメリーからは『ドレスが小さくなった』と報告が上がっているわよ」
「そうかそうか。マシュマロちゃんは成長期だからな。我が子が成長しているんだな!」

 娘の成長に、感極まって涙を浮かべる侯爵夫妻を見つめる使用人たちは、心の中で思った――
(“大きくなる”方向が違いますわ!旦那様!奥様!
 ……確かに、お嬢様は可愛いですけど。ええ、ええ、最高に可愛いですけど!)

 こうして、ステファニーは家族だけでなく、屋敷中の使用人たちからも愛される存在であった。



「今日は娘のステファニーのお茶会用のドレスを三着ほどお願いね」
 侯爵夫人イザベルの言葉を受け、デザイナーが大きくうなずいた。

「……えっと。それでは、まず、採寸をさせていただきますね」
 オラニエ侯爵家お抱えの洋品店の仕立て屋が、ステファニーと向かい合う。

( なによ、この、まんまるい少女は!侯爵家の依頼だから、張り切って来たのに……)

 シュミーズ一枚になって、採寸を受けるステファニーは、確かに、まん丸だった。
 デザイナーのなすがまま、ステファニーの採寸が進んでいく。

「……ねえ、あなた。お名前は?」
 ステファニーは、採寸する女性に話しかけたのだが、女性からの返事はなかった。
「……ねえ、あなたよ。あなたのお名前を尋ねているのだけど?」

 採寸していた女性は、自分にかけられた声だとは思わず、一瞬、反応が遅れた。
「あっ、私ですか!?失礼いたしました!私は、メラニーと申します」

「そう。メラニーね。覚えたわ。今日は、よろしくね」
 艶々の金髪に、玉のような色白の肌、アメジストの瞳に桃色ぷるぷるの唇。
 第一印象が“ぽっちゃり”だからと、甘く見てかかったメラニーは、己の行いを反省した。

 採寸のデザイナーの名を尋ねてくれた令嬢など、これまで一人としていなかった。
 それが、どうだ。ステファニー様は、名を尋ねた上、挨拶までしてくれた。
 メラニーのやる気に火がついた。絶対に、素敵なドレスを作ってやる!と。

 ぽっちゃり令嬢ステファニーは、少し動くと汗をかく。
 その度に、タオルで乾拭きして、採寸が中断するが、メラニーには、全く苦ではなかった。

 なぜならーーー

「メラニー、待たせちゃってごめんなさいね。次の予約は大丈夫?」
「お茶でも飲んで、少し休んでいてね、メラニー」
「終わったら、軽食を用意させるわ。メラニーも食べていってね」

( この子は、なんなの!? なんで、こんなにも気遣ってくださるのかしら。もう、泣きそう)

 メラニーは、これまでも、貴族家や豪商などへ出向いての仕事をしてきたが、デザイナーへの対応は決して優しいものばかりではなかった。

 予算や日数を値切るくせに、出来上がったドレスにも満足な評価をもらえなかったりもした。
 それでも、次も贔屓にしてもらうためには、とにかく頭を下げなければならない。

 何度、悔し涙を流したことか。
 その辛かった日々が、嘘のように、この場は温かな気遣いに満ちていた。

 メラニーは、ステファニーのために、最高に『着痩せして見える』ドレスを作ろうと決意を固めた!
(絶対に、ステファニーお嬢様を最高に可愛らしいお姿に魅せてみせる!)

 こうして、メラニーの創作意欲は最高潮に燃え上がっていった。

 一方、ステファニーはメラニーのオーラを観察する。
 確かに熱意は強く、鮮やかな赤色に包まれている――だが、ところどころ暗赤色が混ざっているのが気になる。
(ふむ……意欲は認めるけれど、まだ実力がどの程度かは未知ね)

 ステファニーは、少し考え込むように眉を寄せながらも、表情には何の変化もなく、心の中だけで冷静に評価していた。




 やがて、メラニーの情熱と細心の工夫が結実し、ドレスは完成した。
 ステファニーがそれを手に取り、試着してみる――。

 シフォンの柔らかさが身体に優しく馴染み、絶妙なラインでふっくらした体型を美しく見せる。
 鏡に映った自分の姿に、ステファニーは思わず小さく目を見開いた。

「……まあ、わたくし、なんだかスッキリして見えません? すごいわね、メラニー」

 腰のラインから肩のシルエットに至るまで、メラニーの技術の高さが存分に活かされている。
 その姿を目にした使用人一同は、思わず心の中でつぶやいた――(ステファニーお嬢様がお痩せになったら……さぞかし……!)
 使用人たちはお互いに目を合わせ、こっそりと笑みを漏らす。

 エメリーは口元を手で覆いながらも、目を輝かせて「お嬢様、素敵ですわ」と囁き、エリオも「完璧です」と小さな声で同意した。
 黒髪黒目の切れ者の双子は、ステファニーが大好きなのである。

 侯爵夫妻も、微笑みながらステファニーを見つめる。
 優雅で上品、しかしどこかふんわりと愛らしいステファニーの姿に、屋敷中の誰もが心を奪われていた。
 家族も使用人も、思わず頬が緩む――そんな、和やかで微笑ましい瞬間である。

 興奮冷めやらぬステファニーは、次々と要望を口にした。

「メラニー、今度は使用人たちの制服をデザインしてみてちょうだい」
「それから、お母様とお父様には揃いの夜会用の礼服とドレスも必要ね」
「お兄様の礼装も……メアリー、できるかしら?」

 メラニーのオーラは、赤く燃え上がった。その澄んだ色合いに、ステファニーは軽く微笑む――。

 
 メラニーが仕立てた礼服とドレスは、オラニエ侯爵夫妻と兄サイラスに完璧に馴染み、その魅力を一層引き立てていた。三人の姿はまるで絵画のように華やかで、夜会でも人々の視線を釘付けにした。

「まあ、あのオラニエ侯爵夫人のドレス、どこで仕立てたのかしら!」
「サイラス様の礼装も、実に見事ね!まるで舞踏会用に描かれた肖像画のようだわ」

 会場中の人々が、三人の衣装の美しさに口々に感嘆の声を漏らす。

 帰宅した公爵夫妻と兄から、衣装の評判を聞き、ステファニーは、満足そうに微笑んだ。
――さすが、メラニーね。卓越したデザインが、屋敷を超えて王宮でも注目を集める。

 メラニー自身も、少し照れながらも胸を張った。

「ねえ、メラニー。あなた、お店を開きなさい。オラニエ侯爵家が後ろ盾になるわ」

 ステファニーの言葉に、メラニーのオーラはさらに熱を帯び、澄んだ赤い色が燃え上がる。

 メラニーは、目を見開き、大口を開けて固まった。
「えっ!わたしが!? ……わたしの店……わたしの……」

 言葉が続かず、思わず号泣するメラニー。
 ハンカチも用意できず、涙が頬をつたってぽたぽた落ちる。
 ステファニーは、微笑みながらハンカチを差し出した。

 周囲の使用人たちも、メラニーの感情の高まりに目を細め、そっと微笑んで見守った。

 これまで、わがままな貴族に振り回され、才能を安売りさせられてきたメラニーにとって、それは救いの福音だった。
 言葉が続かず、思わず号泣するメラニー。ハンカチも用意できず、涙が頬をつたってぽたぽた落ちる。
 
 ステファニーは、苦笑しながらも自分のふかふかの手でハンカチを差し出した。

「泣かないで。これから忙しくなるわよ。使用人の制服に、孤児院の子たちの育成……あなたにしかできないことがたくさんあるの」

 メラニーは、胸の奥に熱い情熱を抱えながら、ふんわりと笑った。
 赤オーラはさらに明るく燃え上がり、屋敷中にその熱意が伝わる――。
 
 こうして、高級洋裁店は、オラニエ侯爵家の後ろ盾を得て、華やかで温かい未来への第一歩を踏み出すことが決まった。

「ステファニーお嬢様……洋裁店の名前に、お嬢様のお名前をいただいてもよろしいでしょうか? わたしがここまで来られたのは、ひとえにお嬢様のおかげです。ですから、洋裁店には、恩人であるお嬢様のお名前を冠したいのです」

 ステファニーは少し口元に手を当て、考え込むように眉をひそめた。
(……ステファニーとメラニー……ストレートに合体させたら……ステメラニー!?)

 しばらく頭を抱えたあと、ぱっと顔を上げ、にっこり笑った。
「そうですわ、ステメラニー(Ste-melanie)はどうかしら?読みやすいし、親しみやすい……それに、ちょっとコミカルで可愛らしい感じもするわ。」

「ええっ……わたしの名前が……ステファニーお嬢様と一緒に……!?」
 言葉が詰まり、感極まった彼女は、涙をぽろぽろと頬に落とした。

 ステファニーは微笑みながらそっと手を差し出す。
「メラニー、あなたなら絶対に素晴らしいお店にできるわ。貴族も市井の人々も、皆が少しずつ幸せになれる場所にしましょうね」

 メラニーはうなずき、胸に熱い情熱を抱えたまま、頭の中で計画を整理する。
(制服の仕立て、礼服のオーダー、市井向けの既製品……ステメラニーで、誰もが喜ぶお店をつくるんだ!)

 赤いオーラはさらに明るく燃え上がり、屋敷中にその熱意が伝わる。

 こうして、高級洋裁店「ステメラニー」の伝説が幕を開けた。

 数年後、予約一年待ちの超人気店となったその店の入り口には、ふっくらとした幸せそうな少女の肖像画が飾られることになるのだが――それは、また別のお話。
_____________

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