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絶対に、同じ轍は踏まないわ!
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クラリッサは書類を胸に抱え、王妃マルグリットの執務室へと足を進める。
回廊を渡る陽射しが、柔らかく衣服に反射してきらめいていた。
「クラリッサ、お疲れ様。フェルナンド団長からの書類かしら?」
王妃は微笑みながら手を伸ばす。
クラリッサは丁寧に一礼し、書類を差し出した。
「はい、王妃殿下。至急の書類をお届けいたしました。」
そこで王妃殿下から、まったく脈絡のない問いが投げかけられた。
「最近、ウィリアム副団長とは交流があるのかしら?」
その言葉に、クラリッサは小さく微笑み、何でもないことのように返事した。
「お心遣いありがとうございます、王妃殿下。“相変わらず”でございます。」
「そう、“相変わらず”ね。ウィリアムは軽口が過ぎるところがあるから…。
でも、きっと彼なりに、婚約者であるあなたと仲良くしたいと思っているのでしょう?」
王妃の言葉に、クラリッサは控えめに、曖昧にうなずいた。
( そもそもウィリアム様、わたしが“婚約者”だって気付いてすらいないんだけど……。
そんな恥ずかしい事実、王妃殿下に言えるわけがないわ。言ったが最後、秒速でお母様に報告されるに決まってる!
それに......魅力的なウィリアム様に惹かれて、”また“距離を詰めすぎて、これ以上嫌われたら――)
脳内で、クラリッサの“黒歴史劇場”が突然開幕した。
「今日もいらっしゃるかしら!」と毎朝庭園に待ち伏せして……
「まあ偶然ですわ!」を一日に三回も言い放って……
挙句の果てに、「お好きなお茶は何ですの?」と詰め寄った、あの恐怖の日々……!!
当時の自分が、遠くで泣きながら土下座している幻覚まで見える。
(あああああーーー!!! もう二度とあんな真似、しません!!)
クラリッサは心の中で地面をバンバン叩いて叫んだ。
(そうよ……あれは人生最大の黒歴史。
わたしは成長したの。あれを繰り返さないためにも、落ち着いて距離感、大事にしましょう……!)
一方、回廊の反対側。副団長室に戻ったウィリアムは、扉の影で腕を組み、少しうつむいていた。
反省の気持ちは確かにある。けれど──先ほどの王妃殿下の補佐官のことが、胸の奥に静かに残り続けていた。
(……あの反応、俺にだけ塩対応が過ぎないか?いや、違う……誰にでもああいう対応をするはずだ)
それでも、心の奥底に小さな想いが芽生えたことに、ウィリアム自身も気づく。
望まぬ好意の視線を女性たちから向けられ続けてきたウィリアムにとって、“あの女官”のもつ雰囲気は新鮮だった。
かつて恋した“初恋の相手“も同じ雰囲気だったが......偽りの顔だった。忘れたいと願った、苦い想いが蘇った。
( 次に会ったら、もう一度、誘ってみよう……)
部屋の窓から差し込む光に照らされ、ウィリアムは少し不器用に拳を握った。
そして、密かに決意する――次は、少しだけ真剣に接してみよう、と。
クラリッサの元には、王妃の手元に置かれた書類と、微笑みの余韻だけが残された。
王妃の執務室を出たクラリッサは、静かな回廊を歩きながら、陽射しに包まれた石畳を見下ろしていた。
今日の業務を無事に終えた安堵感と、少しだけ緊張がほどける心地よさ。
「……さて、次の業務まで少し余裕があるかしら」
そんな思いを胸に歩きながら、角を曲がった瞬間――
「おっと......、補佐官殿じゃないか。」
背後からの軽やかな声に、思わず足を止める。
振り返ると、笑顔のウィリアムが立っていた。
「副団長様……また、お会いするとは......。」
「ふふ、偶然だね。いや、君を見つけるのは、ある意味得意かもしれない。」
ウィリアムの碧眼が、太陽の光にきらめき、軽やかな色気を放つ。
その視線を前にして、クラリッサはほんの少しだけ頬を引き締めた。
(……気を抜かないようにしなければ)
「では、業務の途中でございますので、これで失礼いたします」
「もちろん、君の業務が優先だよ。でも、少しだけ立ち話くらい許してくれるかな?」
ウィリアムは手を軽く差し出し、微笑む。
その動作は無邪気だが、確かに挑戦的でもある。
「……少しだけ、でしたら。」
クラリッサは言葉を選びながら、微かに顔をあげた。
その表情に、ウィリアムは一瞬、驚いたように目を見開く。
「......嬉しいな。やっと君と話せるね。」
ウィリアムは嬉しそうに肩をすくめ、少し近づく。
だが、クラリッサは一歩下がり、距離を保つ。
(……油断はできない。でも、少しだけなら……)
お互いの距離感は微妙に変化している。
軽口と慎重さの狭間で、二人の間に小さな火花が散ったかのような、緊張感のある空気。
「そうだ、補佐官殿。次の夜会に誘っても?……」
ウィリアムが再び口を開こうとした瞬間、クラリッサは軽く手を上げる。
「残念ですが。わたしは夜会へは参加いたしませんわ。」
その言葉に、ウィリアムは表情を引き締め、寂しげに肩をすくめた。
「そう......わかったよ。いつか君の気持ちが変わったら。楽しみにしてるからね。」
二人は軽く会釈を交わすと、それぞれの方向へ歩き出す。
短い時間だったが、回廊に残ったのは、ほんの少し高まった心拍と、密かに再燃した想いの予感だった。
( 気をつけて、クラリッサ……!恋愛体質のあなたは、放っておくとウィリアム様の魅力に溺れて、また全力で追い詰めにいくのよ。
絶対に近づいちゃダメ!)
( だってあの人……どんな女性にとっても“理想のイケメン”じゃない!
誰もが胸をキュンとさせる人よ!
わたしだけのものになるなんて、夢物語もいいところ……!!)
( ああ、可哀想なクラリッサ。
ほらもう、心臓がちょっと跳ねた……深呼吸、深呼吸。
思春期の少女じゃないんだから、落ち着いて!
落ち着けクラリッサ、落ち着けクラリッサ、落ち着けクラリッサ……!)
脳内で同じ言葉を三回リピートしながら、クラリッサは必死に自分を諌めた。
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回廊を渡る陽射しが、柔らかく衣服に反射してきらめいていた。
「クラリッサ、お疲れ様。フェルナンド団長からの書類かしら?」
王妃は微笑みながら手を伸ばす。
クラリッサは丁寧に一礼し、書類を差し出した。
「はい、王妃殿下。至急の書類をお届けいたしました。」
そこで王妃殿下から、まったく脈絡のない問いが投げかけられた。
「最近、ウィリアム副団長とは交流があるのかしら?」
その言葉に、クラリッサは小さく微笑み、何でもないことのように返事した。
「お心遣いありがとうございます、王妃殿下。“相変わらず”でございます。」
「そう、“相変わらず”ね。ウィリアムは軽口が過ぎるところがあるから…。
でも、きっと彼なりに、婚約者であるあなたと仲良くしたいと思っているのでしょう?」
王妃の言葉に、クラリッサは控えめに、曖昧にうなずいた。
( そもそもウィリアム様、わたしが“婚約者”だって気付いてすらいないんだけど……。
そんな恥ずかしい事実、王妃殿下に言えるわけがないわ。言ったが最後、秒速でお母様に報告されるに決まってる!
それに......魅力的なウィリアム様に惹かれて、”また“距離を詰めすぎて、これ以上嫌われたら――)
脳内で、クラリッサの“黒歴史劇場”が突然開幕した。
「今日もいらっしゃるかしら!」と毎朝庭園に待ち伏せして……
「まあ偶然ですわ!」を一日に三回も言い放って……
挙句の果てに、「お好きなお茶は何ですの?」と詰め寄った、あの恐怖の日々……!!
当時の自分が、遠くで泣きながら土下座している幻覚まで見える。
(あああああーーー!!! もう二度とあんな真似、しません!!)
クラリッサは心の中で地面をバンバン叩いて叫んだ。
(そうよ……あれは人生最大の黒歴史。
わたしは成長したの。あれを繰り返さないためにも、落ち着いて距離感、大事にしましょう……!)
一方、回廊の反対側。副団長室に戻ったウィリアムは、扉の影で腕を組み、少しうつむいていた。
反省の気持ちは確かにある。けれど──先ほどの王妃殿下の補佐官のことが、胸の奥に静かに残り続けていた。
(……あの反応、俺にだけ塩対応が過ぎないか?いや、違う……誰にでもああいう対応をするはずだ)
それでも、心の奥底に小さな想いが芽生えたことに、ウィリアム自身も気づく。
望まぬ好意の視線を女性たちから向けられ続けてきたウィリアムにとって、“あの女官”のもつ雰囲気は新鮮だった。
かつて恋した“初恋の相手“も同じ雰囲気だったが......偽りの顔だった。忘れたいと願った、苦い想いが蘇った。
( 次に会ったら、もう一度、誘ってみよう……)
部屋の窓から差し込む光に照らされ、ウィリアムは少し不器用に拳を握った。
そして、密かに決意する――次は、少しだけ真剣に接してみよう、と。
クラリッサの元には、王妃の手元に置かれた書類と、微笑みの余韻だけが残された。
王妃の執務室を出たクラリッサは、静かな回廊を歩きながら、陽射しに包まれた石畳を見下ろしていた。
今日の業務を無事に終えた安堵感と、少しだけ緊張がほどける心地よさ。
「……さて、次の業務まで少し余裕があるかしら」
そんな思いを胸に歩きながら、角を曲がった瞬間――
「おっと......、補佐官殿じゃないか。」
背後からの軽やかな声に、思わず足を止める。
振り返ると、笑顔のウィリアムが立っていた。
「副団長様……また、お会いするとは......。」
「ふふ、偶然だね。いや、君を見つけるのは、ある意味得意かもしれない。」
ウィリアムの碧眼が、太陽の光にきらめき、軽やかな色気を放つ。
その視線を前にして、クラリッサはほんの少しだけ頬を引き締めた。
(……気を抜かないようにしなければ)
「では、業務の途中でございますので、これで失礼いたします」
「もちろん、君の業務が優先だよ。でも、少しだけ立ち話くらい許してくれるかな?」
ウィリアムは手を軽く差し出し、微笑む。
その動作は無邪気だが、確かに挑戦的でもある。
「……少しだけ、でしたら。」
クラリッサは言葉を選びながら、微かに顔をあげた。
その表情に、ウィリアムは一瞬、驚いたように目を見開く。
「......嬉しいな。やっと君と話せるね。」
ウィリアムは嬉しそうに肩をすくめ、少し近づく。
だが、クラリッサは一歩下がり、距離を保つ。
(……油断はできない。でも、少しだけなら……)
お互いの距離感は微妙に変化している。
軽口と慎重さの狭間で、二人の間に小さな火花が散ったかのような、緊張感のある空気。
「そうだ、補佐官殿。次の夜会に誘っても?……」
ウィリアムが再び口を開こうとした瞬間、クラリッサは軽く手を上げる。
「残念ですが。わたしは夜会へは参加いたしませんわ。」
その言葉に、ウィリアムは表情を引き締め、寂しげに肩をすくめた。
「そう......わかったよ。いつか君の気持ちが変わったら。楽しみにしてるからね。」
二人は軽く会釈を交わすと、それぞれの方向へ歩き出す。
短い時間だったが、回廊に残ったのは、ほんの少し高まった心拍と、密かに再燃した想いの予感だった。
( 気をつけて、クラリッサ……!恋愛体質のあなたは、放っておくとウィリアム様の魅力に溺れて、また全力で追い詰めにいくのよ。
絶対に近づいちゃダメ!)
( だってあの人……どんな女性にとっても“理想のイケメン”じゃない!
誰もが胸をキュンとさせる人よ!
わたしだけのものになるなんて、夢物語もいいところ……!!)
( ああ、可哀想なクラリッサ。
ほらもう、心臓がちょっと跳ねた……深呼吸、深呼吸。
思春期の少女じゃないんだから、落ち着いて!
落ち着けクラリッサ、落ち着けクラリッサ、落ち着けクラリッサ……!)
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