婚約者が視線だけで妊娠すると噂のモテ男の副団長で胃が痛い!-黒歴史封印したいのに手遅れです!

恋せよ恋

文字の大きさ
12 / 12

視線だけで妊娠すると噂の男、沈む

しおりを挟む
「おい、お前、見たか!? 王妃殿下付き補佐官どのの“大変身”!すっげぇ美人だぞ! あれは王宮でも五本の指に入る別嬪だ!」
「え!? まだ会ってないけど……そんなに変わるものか?黒縁眼鏡を外したくらいじゃないのか?」
「とんでもねぇって! マジで大変身なんだよ!みんな目ぇひんむいて、『誰!?』ってざわついたんだから!」

 

 今日の王宮の噂のトップは――「王妃殿下付き補佐官クラリッサの 大変身 」 である。

 しかし当の本人は、ただ“本来の姿に戻しただけ”だった。
 艶やかなブルネットの髪を、無理やりお団子に引っ詰めるのをやめただけ。
 視力は抜群なのに我慢してかけていた黒縁の伊達眼鏡を外しただけ。
 目元を覆うほど長かった前髪を、すっきり横に流しただけ。

 ――つまり、手間をやめただけで、圧倒的美人があらわになっただけである。

「おはようございます、マルグリット王妃殿下。今日も良いお天気ですね。」
 クラリッサは“素顔”のまま、にこやかに朝の挨拶をしながら入室した。

「おはよう、クラリッサ。あら? やっと妙な変装をやめたのね。その方がずっと魅力的よ。わたしの可愛いクラリッサは。」
 マルグリット王妃は、親友の娘に向けるとびきり柔らかな笑みを浮かべた。

 クラリッサは少し照れたように微笑む。
 その様子を見ていた侍従や女官たちは、ポカンと口を開け――
「えっ……誰!? クラリッサ補佐官!? 嘘だろ……!」

 その小さなざわめきは、ものすごい速度で王宮中に広がっていった。




  その噂に、ひとり大きく心を乱している男がいた。
――“視線だけで妊娠する”とまで言われる王宮一のモテ男、騎士団副団長ウィリアムである。

 クラリッサとの婚約は今にも消え入りそう。
 そのうえ、婚約者だった相手が「絶世の美人で、王妃殿下付き補佐官の才媛」という事実を突きつけられ、ウィリアムは動揺を隠せなかった。

「おいウィリアム、今朝の噂聞いたか? 王宮一のモテ男としては、血が騒ぐんじゃねえのか?」

 騎士仲間のジャックが軽口を叩く。他の仲間たちも『おいおい、行ってこいよ!』と好き放題にからかってくる。

「……放っといてくれ。俺は今、傷心なんだ。」

 ウィリアムの小さく沈んだ声に、仲間たちの笑いがピタッと止まった。

「ど、どうしたよ。あちこちに軽く声かけてるお前が、傷心って……」

 仲間の困惑を背に、ウィリアムはゆっくりと顔を伏せた。彼が搾り出すように呟いた言葉に、周囲は思わず目を見張る。

「……俺の婚約者だったんだ。クラリッサ補佐官は。それにも気づかず……俺は……俺は大馬鹿者だ……」

 両手で頭を抱え込むウィリアム。そこに、いつもの「モテ男」の影はどこにもなかった。
 ただの――失恋した男がいた。

 仲間たちは顔を見合わせ、どう声をかけていいのかわからず戸惑うばかりだった。そんな空気を払うように、ジャックがウィリアムの肩をガシッと抱き、わざと明るく叫んだ。

「よーし!今夜はウィリアムの“失恋祝い”だ!たまには俺たち“非モテ組”の気持ちを味わえっての!なあ、みんな!」

「お、おう……!」
「……慰めてるんだか、いじってるんだかわかんねぇぞ……!」
「ウィリアム、お前の奢りだからな!」

 仲間たちは苦笑しながらも、いつもの調子を取り戻すように声をあげた。その不器用な気遣いに、ウィリアムは力なくも少しだけ笑みをこぼす。――仲間の存在が、沈んだ心をそっと支えてくれる。




 その夜。第一騎士団の行きつけの酒場は、いつも以上に賑やかだった。
「ほらウィリアム、飲め飲め!今日はお前が主役だ!」
「副団長の失恋パーティとか、史上初なんじゃねぇか?」
「というか、女の方から振られたんだよな?歴史的事件だぞ!」

 仲間たちの容赦ないツッコミに、ウィリアムは肩を落とした。
「……泣くぞ?」

「泣け泣け!今日は泣いていい日だ!」
「俺たちなんて、いつも泣いてるんだぞ!」
「おい!お前と一緒にすんな!」

 酒が進むほど、普段はモテ男として隙を見せないウィリアムの、本来の情けなさや人間味がぽろぽろと溢れ出す。

「俺……本当に……クラリッサのこと、何も知らなかったんだ……婚約してたのに……昔の記憶すら曖昧で……」

 珍しく弱音ばかりの彼を、仲間のひとりがぼそりと呟いた。

「お前、今まで“相手を知ろう”なんて考えたことなかったもんな……」
「心じゃなくて、顔だけ見てたしな……いや、身体か?」
「まあ、女の方も顔しか見てなかったけど」

「うるせえ!!言い返せねぇのが余計に辛いんだよ!!」

 店内に笑いが弾けた。だが、誰もウィリアムを本気で馬鹿にしてはいない。今の彼が“本気で後悔している”と、みんな知っていたからだ。

 飲み会の途中、ウィリアムはふっと真顔になった。

「……なあ、俺……どうしたらクラリッサに、胸を張れる男になれるんだろうな」

 その言葉に、場がしん……と静まる。

 いつもなら軽口で終わる彼が、初めて“誰かを想う男の顔”をしていたからだ。

 ジャックが、静かに笑った。

「簡単だろ。今までみたいに、女を“使い捨て”にするのをやめりゃいい。
 一人の女を、“ちゃんと知ろう”とすることから始めるんだ。」

「…………」

「お前が“使い捨て”にしてきた女にもな、そいつに“本気で惚れてた男”がいたはずだ。
 ……そいつらの気持ちが、今ならわかるか?」

「……申し訳なかった。」

「お前の悪いところは、一個だけだ。
 “好かれて当たり前”だと思ってるとこ。」

「ぐっ……耳が痛い……!」

「痛がれ。そこが――お前のスタートラインなんだよ。」

 ウィリアムはしばらく黙り込み、酒を口に運んだ。そしてぽつりと呟く。

「……俺、変わりたい。本気で……クラリッサにふさわしい男になりたい。」

 その一言は小さかったが、仲間たちにはしっかり聞こえた。茶化すことも、笑うこともできなかった。

 なぜなら――“モテ男ウィリアム”ではなく“ひとりの男”としての覚悟が、その顔に刻まれていたからだ。




 その夜から、ウィリアムは変わった。

 女の子からの軽い誘いを、彼は初めて断った。すれ違う侍女へ軽くウインクする――いつもの癖も、気づけば出なくなっていた。挨拶代わりの軽い褒め言葉や、気安い食事の誘い。そして、身体だけを求める甘い囁きに乗ることも……もうしなくなった。

 仲間たちは驚いたり、からかったりしながらも、どこか誇らしそうにその背中を見ている。

 そしてウィリアムは思う。
(……クラリッサ。本当に俺は、大馬鹿者だった。でも――今度こそ、本当に好きになったんだ)

 女たらしのモテ男は、ゆっくりと“ただの真っ直ぐな男”へと変わり始めていた。

________________

エール📣・いいね❤️ 応援お願いします。

📢💥 新連載スタート! 💥📢
 💔婚約破棄
 🌙一夜の過ち(※人違い)
 🧪媚薬事件
【婚約破棄された王宮女官-媚薬を盛られた冷酷公爵令息と人違いで一夜を過ごした結果、
言葉なき執着から逃げられなくなりました!】

📖切甘×執着×すれ違い
👉新連載、今すぐ公開中
保証付きハッピーエンド💐


しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

亡き姉を演じ初恋の人の妻となった私は、その日、“私”を捨てた

榛乃
恋愛
伯爵家の令嬢・リシェルは、侯爵家のアルベルトに密かに想いを寄せていた。 けれど彼が選んだのはリシェルではなく、双子の姉・オリヴィアだった。 二人は夫婦となり、誰もが羨むような幸福な日々を過ごしていたが――それは五年ももたず、儚く終わりを迎えてしまう。 オリヴィアが心臓の病でこの世を去ったのだ。 その日を堺にアルベルトの心は壊れ、最愛の妻の幻を追い続けるようになる。 そんな彼を守るために。 そして侯爵家の未来と、両親の願いのために。 リシェルは自分を捨て、“姉のふり”をして生きる道を選ぶ。 けれど、どれほど傍にいても、どれほど尽くしても、彼の瞳に映るのはいつだって“オリヴィア”だった。 その現実が、彼女の心を静かに蝕んでゆく。 遂に限界を越えたリシェルは、自ら命を絶つことに決める。 短剣を手に、過去を振り返るリシェル。 そしていよいよ切っ先を突き刺そうとした、その瞬間――。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約者が私のことをゴリラと言っていたので、距離を置くことにしました

相馬香子
恋愛
ある日、クローネは婚約者であるレアルと彼の友人たちの会話を盗み聞きしてしまう。 ――男らしい? ゴリラ? クローネに対するレアルの言葉にショックを受けた彼女は、レアルに絶交を突きつけるのだった。 デリカシーゼロ男と男装女子の織り成す、勘違い系ラブコメディです。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました

しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。 自分のことも誰のことも覚えていない。 王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。 聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。 なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。

処理中です...