婚約者が視線だけで妊娠すると噂のモテ男の副団長で胃が痛い!-黒歴史封印したいのに手遅れです!

恋せよ恋

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生まれ変わったウィリアム

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「ねえ、聞いた? ウィリアム副団長の噂。」
 昼食休憩の休憩室で、親友で補佐官仲間のナタリアがひそひそと話を振ってきた。

「『王宮一のモテ男の看板返上か』ってやつでしょ。……きっと、今だけよ。」
 クラリッサは肩をすくめ、どこか吹っ切れたようなすっきりした表情を浮かべた。

「まあね。あともうひとつ、『麗しのクラリッサ補佐官に新恋人誕生か』って噂も出てるわよ。」
 ナタリアはいつもの意地悪っぽい笑顔で、完全に面白がっている。

「ああ……フェルナンド騎士団長の補佐官、ロイド様との“恋の噂”ね。」
 クラリッサは面倒そうに眉を寄せ、申し訳なさそうにため息をつく。
「本当に偶然よ。よろめいた私をロイド様が支えてくださっただけ。それを見た方々が盛大に勘違いなさって……ロイド様にはご迷惑をかけてしまったわ。」

「ロイド様にはご婚約者もいらっしゃるし……お相手の方がご気分を害されていないといいのだけれど。」
 クラリッサはそっと胸に手を当て、かすかに眉を伏せた。
「婚約者の噂に振り回される辛さは、わたし自身が十分すぎるほど味わったもの。」

 その言葉にナタリアはちらりと周囲へ目をやる。昼休憩の侍女・女官たちは、それとなく聞き耳を立てている。

(……よし、聞こえてるわね)

 ナタリアはあえて声量を落とさず、わざと皆に届くような自然さで、会話を続けていた。この話題は午後には王宮中に広がるだろう。
 すなわち――“クラリッサ補佐官とロイド補佐官に恋愛関係はない”という、公式に近い否定の情報が。

 才女なのに、初恋に苦しんだ親友を陰ながら支えるナタリア。その抜かりない策士ぶりは、今日も遺憾なく発揮されていた。




 昼休憩でナタリアとクラリッサが交わした会話は、予想通り――いや、予想以上の速度で王宮へ拡散していった。

「聞いた!?クラリッサ補佐官、ロイド補佐官とはご関係なしですって!」
「まあ、そうだったの? じゃあ、あの“抱き合っていた”のはただのデマ?」
「ほら言ったじゃない、恋愛じゃないって!」

 侍女たちが通路でひそひそと囁きあい、女官たちは仕事の手を止めて眉を寄せる。

「ロイド補佐官の方が惚れたんじゃないの?」
「いや、あれは“クラリッサ無双”の余波だわ!」

 尾ひれがつきつつも、噂は「誤解だったらしい」という方向へ流れていた。





 その日、第一騎士団の訓練場は、いつも以上に熱気に満ちていた。原因はもちろん――ウィリアムである。

「副団長……今日で三日連続、夜明け前から素振りしてません?」
「いや四日だ。俺、一昨日見た。」

 仲間たちがひそひそと囁く中、当の本人は額に汗を流しながら剣を振っていた。
 すでに何百回目かわからないが、動きは乱れない。

(俺は変わらなきゃいけない。軽さで人を傷つける、自分勝手な男のままじゃ――)

 息を吸い、次の一振りに力を込めた、その時。

「……ウィリアム。」

 背後から低い声が響く。振り向くと、団長フェルナンドが腕を組んで立っていた。

「はい、団長!」
「聞くが……お前は何を目指している?」

 ストレートすぎる問いに、ウィリアムは少し目を伏せた。

「……胸を張って、クラ―― いえ、誰かを傷つけない男に……なりたいんです。」

 言葉に詰まりつつも、絞り出した誠意。フェルナンドはしばし無言で、じっと彼を見つめた。

(ああ……これは“変わる覚悟”の目だな……)
 フェルナンドは眉をわずかに緩めた。

「……ならば、努力しろ。だが倒れるなよ。」
「は、はい!!」

 周囲の仲間たちは、その光景に思わず胸を押さえて震えた。

「今の聞いたか? 団長の“本気の激励”じゃん……」
「なにあの成長フラグ……ちょっと泣きそうなんだけど……」
「完全にそっち系のファンが悶えるやつだろ。さっき裏で、誰か尊死して倒れてたぞ……」




 午後。執務室へ向かう途中、ウィリアムは偶然クラリッサの姿を見かけた。
 軽やかな足取りで資料を抱え、王妃付き補佐官として堂々と働くその姿は、眩しいほどに美しかった。

(もう……軽口を叩く資格なんて、俺にはない。)

 遠くから、そっと頭を下げる。クラリッサは気づかず通り過ぎた。これでいい。いまの俺は、ただ胸を張れる男になりたいだけだ。




 酒場では、仲間のジャックがニヤニヤしながら声をかけてくる。

「よう、更生中のウィリアム!」
「その呼び名やめろ……」

「だって事実だろ?女の子に誘われても断ったって聞いたぞ?お前、健康診断いくか?」
「正常だわ!」

 騒がしいやり取りに、周囲の騎士たちも笑い声を上げた。

「でもまあ……」
 ジャックは真顔になり、酒を一口飲んで続ける。

「お前、いい男になったな。」
 その言葉は、ふざけていない。
 
 ウィリアムは、少し目を伏せて照れた。
「……まだだよ。でも、ありがとう。」

 こうして、“王宮一のモテ男”だったウィリアムは、いつの間にか王宮中から密かに応援される――『クラリッサ補佐官に片想いする男』 となっていくのであった。

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