【完結】悲報!地味系令嬢、学園一のモテ男に「嘘の告白」をされる。

恋せよ恋

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初デートは戦場

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「今日の君は、一段と慎ましくて可愛らしいね」

 初デートの日。マーロンが差し向けた馬車に乗り込んだサブリナは、わざと襟の擦り切れた一番「マシ」なワンピースを着て、怯えた小動物のように俯いていた。

(……よし、この『可哀想な私』演出なら、同情を誘ってダービン領の減税特権まで引き出せるはず!)

 サブリナの脳内では、既に今期の利益確定申告が始まっている。

 一方のマーロンも、完璧な王子の微笑みを崩さない。

(まずは高級店に連れて行き、身分差を思い知らせて縮み上がらせてやる。その後に優しくして、僕なしではいられないように依存させるのさ)

 マーロンが自信満々にエスコートしたのは、王都で今最も勢いのある宝石店『ル・シエル』。

「サブリナ、君に似合うものを贈りたいんだ」

(げっ!……よりによって、ここ!?)

 サブリナは顔を引きつらせた。
 
 ここは彼女が運営する「エアハート商会」の直営店であり、彼女がデザイン案から資金繰りまで全てを仕切っている、いわば「本陣」だった。

 店に足を踏み入れると、熟練の店員たちが一斉にこちらを見た。
 当然、彼らは「真のオーナー」であるサブリナの顔を熟知している。

(やめて! 挨拶しないで! 跪かないで!)

 サブリナは必死に目配せを送る。
「今は地味な貧乏令嬢なの! 余計なことしたらクビよ!」という殺気を込めて。

 店員たちは一瞬で状況を察し、プロ根性で「死んだ魚のような目」をして接客を開始した。
「いらっしゃいませ、ダービン侯爵令息様。……そして、ご同行の、ええっと......お嬢様?」

 マーロンはわざと、サブリナの家の一年分の予算を軽く超えるような、青いダイヤのネックレスを指差しました。

「これはどうかな? 君の瞳に合うと思って」

(それ、私が仕入れ値を3割叩ききって輸入したやつ……!)

 サブリナは心の中で叫ぶが、表向きは「ひええ」という顔で震えて見せる。

「そ、そんな……! 私のような者に、こんな高価な……怖くて身につけられませんわ!」

「遠慮しないでいいよ。僕の隣に立つなら、これくらいは当然だ」

 マーロンがサブリナの首筋に手を伸ばし、ネックレスを試着させようとした、その時。

「ちょっと待て。その石、クラック(傷)があるんじゃないか?」
 マーロンの鋭い指摘。彼は彼で、審美眼だけは本物だった。

「いえ、そんなはずは……」と慌てる店員。

 サブリナは思わず、商売人としてのプライドが勝ってしまった。

「……いえ、それはクラックではなく、内包物の角度による屈折ですわ。光を45度から当てれば、最高の輝きを放つようにカッティングしてあるはず……あ」

 マーロンが、ゆっくりと首を傾げた。
「詳しいね。まるで、この店の商品を熟知しているみたいだ」

(しまったああああ!!)

 サブリナは慌てて眼鏡をクイッと上げ、どもりながら誤魔化す。
「……い、以前、道端に落ちていた……宝石の図鑑を拾って、暗記するまで読んだんですの! 貧乏なので、せめて夢だけでも見ようと……!」

「……そうか。勤勉なんだね」
 マーロンは納得したふりをして微笑みんだが、その目は笑っていない。

(図鑑? 嘘をつけ。今の話し方は、完全に『売る側』の視点だったぞ……)

 結局、ネックレスは買って貰えたが、サブリナの心境は複雑だった。

(自分の店に、カモの金で利益を献上してしまった……。嬉しいけど、正体がバレるリスクが高すぎる!)

 一方のマーロンも、サブリナを見る目が変わり始めていた。

(ただの大人しい女じゃない。何を隠している?……面白い。剥いでやりたくなった、その化けの皮を)

「次は、僕の領地の話でもしようか。サブリナ」

 マーロンのその言葉に、サブリナの商売魂が再び火を吹く。

 嘘告白から始まった関係は、早くも「正体の探り合い」という名の密室ゲームへと突入するのでした。



 豪華な自室に戻ったマーロンは、先ほどサブリナに贈った(自社買いさせた)ネックレスの空箱を眺めながら、低く笑った。

「図鑑で覚えた、か。……苦しい言い訳だな」

 あの瞬間の彼女の瞳。怯える小動物のふりをしながら、宝石を見る目は熟練の鑑定士そのものだった。

彼は壁の影に向かって、短く命じる。
「……いるか。エアハート子爵令嬢、サブリナの身辺を洗え。特に最近の金の流れと、彼女の放課後の足取りだ。鼠一匹逃さず報告しろ」

 影が揺れ、隠密が音もなく消える。
 マーロンは優雅にワインを口に含み、嗜虐的な笑みを浮かべた。

「化けの皮を剥がされるのが先か、僕に溺れるのが先か。……楽しい『恋人ごっこ』になりそうだ」



一方、子爵家の自室(という名の商会作戦本部)に帰還したサブリナは、速攻で地味なドレスを脱ぎ捨て、計算機を叩いていた。

「危なかった……! 完全にプロの視点で語っちゃったわ。でも、おかげで売上は計上できた。自分のお金じゃないから実質100%利益ね!」

 しかし、すぐに彼女の顔が引き締まる。相手はあのダービン侯爵家だ。今日の言動で、マーロンが疑いを持ったのは間違いない。

「調査が入るのは時間の問題ね。……だったら、正体がバレて破談になる前に、商談を成立させるしかないわ!」

 彼女はデスクから一通の書類を取り出した。
それは、ダービン領内での『商考作戦・物流独占契約書』。

「マーロン様が私に『嘘の愛』を囁いているうちに、この紙切れにサインをもらう。そうすれば、たとえ正体がバレて振られたって、契約は有効! むしろ清々するわ!」

 鼻息を荒くするサブリナ。
 彼女にとって、マーロンの甘い囁きは「契約締結までのBGM」に過ぎないのだ。
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