魔法学院の偽りの恋人

【４１】共寝★

　欲を吐き出したことでユアンの熱が離れていく。いつの間にか腰に絡まっていたネグリジェを奪い取られ、これで本当に生まれたままの姿を晒してしまった。

「きみ」

　抱き起され、導かれるままにユアンの腰を跨いで座る。初めての体位に戸惑いながらも、蜜口に彼の性器を当てられると期待に疼き始めていた。

　その熱が欲しい――

　ゆっくりと腰を沈めていけば、下から貫かれる体制はディアナが思うよりも深く腹を圧迫する。ユアンが腰を打ち付けなくても自らの重みで奥まで沈めてしまうのだ。

「んっ――く、あっ……！」

「そう、上手。そのまま……全部、のみこんで」

　ディアナが身体を強張らせるとユアンは背や脚を撫でることで力を奪っていく。そうして有無を言わさず根元まで咥えさせられてしまった。

「あぁっ、う――んっ……」

「良く出来たね」

　仕上げに頭を撫でられる。優しさに油断していると、突き上げるような衝撃に身体が跳ねた。

「ひゃぅっ――！」

　息が詰まるほどの攻め立てに呼吸の仕方を忘れてしまった。ユアンの首に縋りつくが、この体制にはまだ慣れず、食い破られてしまうようで怖ろしい。

「あぁぁぁ――っ！」

　ぐりぐりと押しつけるようにユアンの腰が円を描く。奥ばかりを刺激され、ディアナは苦しさに呻いた。

「は、ふっ、ん……？」

　唇を舐められ、開くように求められる。誘われるように自ら口を開くと、するりとユアンを招き入れた。

「……っ、ねえ」

　抱擁を解かれ、求めるように手を握られる。ユアンの眼差しは穏やかで、何を考えているのかディアナにはわからない。

「きて――」

　ユアンが背後に寝そべると、ディアナはとっさのことにもう片方の手を彼の腹につくことで転倒を阻止する。

「あ、え？」

　どうしてユアンの上に跨っているのだろう。彼を見下ろしているのだろう……

　とっさのことに状況判断が鈍る。ユアンが背後に倒れたことでディアナが上になり、まるで見下ろすような状態になっていた。女性優位の様な体位でありながら、ディアナはおそれ多いと動けずにいた。
　そうしているうちにも穿たれた楔がディアナを追いつめる。足に力を入れ奥まで埋まろうとしている性器をやり過ごそうとしたが、ユアンに下から突き上げられたことであっけなく奥を明け渡してしまった。下から両の胸を揉まれると身体から力が抜け、容赦なく揺さぶられてしまう。

「っ、む、ねは――っ！」

　ディアナが胸への刺激に弱いことを知って、ユアンは楽しみを覚えてしまった。ディアナが上にいる事で掌に納まる様な姿も愛おしく、待ってと言うように追いすがる仕草さえ可愛いく感じている。

「なら、きみが動いて？」

「なっ!?」

　差し出された交換条件への驚きに言葉が出ない。

「でないとずっと、このままだよ。いいの？」

　埋め込まれた楔は深く身体を貫き、ユアンの上から逃げ出すことは出来ない。とんと、ユアンが腰を揺さぶると、逃れようのない刺激に支配される。

「ああっ！」

　けれど先ほどまでの激しさには及ばず、高みには至らない。

「もっとほしいでしょう？」

「あ、や、むりで！」

「そう？　でもきみのここは……」

　繋がった場所をぐりぐりといじられる。そんなことをされては当然内側も疼いてしまうだろう。

「――っ、ほら、もっと欲しいって、強請られているみたいで嬉しいな。好きに動いていいんだよ」

　ユアンの腹に手をつくなんて考えただけで恐れ多い。けれど遠慮していられたのも最初だけで、そのうち訳がわからなくなっていた。
　そうしている間も、くにくにと尻の肉を揉まれ、蜜口を刺激される。きゅっとユアンのものを締め付けては彼が眉をしかめるのでまた申し訳なさを感じた。きっと粗相をしてしまったのだ。
　ならばユアンへの罪滅ぼしをしなければ――
　ディアナは震える足を動かして腰を持ち上げる。

「は、んっ、ぁっ！」

　躊躇いがちにユアンの腹に手を置けば、その硬さに驚かされた。これではディアナ一人抱き上げることに苦もないはずだ。

「んっ――あ……」

　ぴったりと重なっていた腰を浮かせると、肉壁はユアンのものを逃がさないように纏わりつく。脚が震え、快楽が背筋を駆け上がる。
　ようやく持ち上げた腰は、たったの一度で情けなく元に戻ってしまった。それさえも刺激となってディアナは腰をのけぞらせてしまう。危うく背後へ倒れそうなディアナの腕を掴み、ユアンは己の胸に抱き寄せた。

「無理を言ってごめんね」

「あ、ごめ、なさ……」

　寝そべるユアンの上に倒れこんでしまった。

「いいよ。きみになら」

　優しく抱き止めるとユアンは一定のリズムで突き上げを開始する。

「やっ……あ、あっ……！」

　いつしか夢中でディアナも腰をすりつけていた。
　ふと、低い位置にユアンの顔があることに気付く。ならば今回は自分がユアンにしてあげられるのだと思うと嬉しくて、その唇にキスを落としていた。

「あぁっん！」

　痛いほどに肌が触れ合う。ユアンの激情が身体を通して伝わった。

「それ、反則……」

　背を仰け反らせて快楽から逃れようとしても、ユアンの腕が逃がさないと胸に抱き込んだ。そこからは突き上げではなく前後に揺さぶられ、当たる場所を変えられる。散々可愛がられていた胸はべったりと二人の間で押し潰されていた。

「もう逃がさないって言ったよね」

「は、あっ……っぇ、で、て……？　ぇ、あ……！」

　腹の奥をどろりとした感覚が襲う。これ以上ないほどくっついているのに、もっとと願うのは本能だろうか。ユアンは何度も最奥を目指して白濁を注いだ。
　最後の一滴まで注ぎ、ユアンが腰を引くとどろりとした精液が糸を引く。離れてしまうことに淋しさを感じたが、ユアンはすぐに一緒になって寝そべってくれた。
　もう起きあげれそうもない。何度も熱を放たれた身体はろくに動かない。自分の足ではどこにもいけそうにない。それを訴えたのならユアンは喜んでディアナを抱え、どこにでも連れていくだろう。
　ぐったりと投げ出されている手足が行為の激しさを物語る。鳴き疲れて掠れたのどを癒やすようにユアンは口付けを贈り、ディアナはこの幸せな時間が長く続くことを祈った。

　激情に身を任せ、嵐のような一時が過ぎ去れば、ディアナは甲斐甲斐しくユアンに世話を焼かれていた。
　院長室で世話を焼くのはいつだってディアナの役目であったはずが、寝室では立場が逆転している。手のかかる弟のようにも思えただけに、ユアンが年上の、それも男の人である事を意識させられた。
　そんな人に身体を拭われ、股の間にまで手を這わされた羞恥といったらない。とても耐えられなかったディアナは終始真っ赤な顔をシーツに押し隠していた。
　けれどユアンは、もう止めてと乞う度に誇らしそうに語る。

「きみの世話を焼くのは恋人の特権だろう」

　その言葉通り、ユアンの手付きは馴れたものだった。弟妹がいるため世話を焼くことにも慣れているのだろうか。

「じっと見つめて、何を考えていたの？」

　顔に出ていたのだろうか。身体を動かせないディアナはユアンをじっと見つめていた。

「兄がいたらと、考えていたのです」

「可笑しなことを言うんだね。僕はきみのお兄さん？」

　ちっとも面白そうではない顔だ。けれど拗ねたような眼差しは可愛くも見える。
　ユアンが望む答えが分かってしまうと、ディアナは苦笑する。

「いいえ。ユアン様はわたくしの、恋人です」

　満足する返答に、蕩けるほどの笑みが咲く。
　ずっと、その笑顔が見たかったのだと思った。