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【夏】ひんやりかき氷1
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寮生活が始まってから、初めての夏が訪れた。
僕が通う高校は全寮制だ。最寄りの駅名を告げればショッピングセンターが併設されているため都会という誤解を受けやすいが、そこから学校まではバスで十五分ほどかかる。つまり、山に囲まれ自然豊かと言えば聞こえの良い立派な田舎だ。しかし夏においては森林特有の涼しげな空気は有り難いものとなる。
ーーって、結局暑いことに変わりはないけど。でもやっぱり、実家よりは暑さもましな気がした。
そんな暑さの中でも寮母さんは早起きだ。季節が変わっても寮母さんは何も変わらない。新緑が眩しいほどの緑を背に、今日も竹箒に着物姿で庭掃除をしている。
「おはようございます」
いつからか、僕は自分から挨拶するようになっていた。朝、寮母さんと顔を合わせることはすでに生活の一部になっている。それにしても……
「寮母さん、暑くないんですか?」
僕らはとっくに夏服に衣替えを終えている。もっと涼しい格好もあるだろうに。
「いいえ。ちっとも」
そう答える寮母さんの笑顔は陽だまりの様にあたたかなものだった。
いや、いくらなんでも陽だまりって……
自分で考えてちょっと恥ずかしくなった。つまり! 僕が言いたかったのは、季節が春だったときと変わらない笑顔だってことだ。
暑くないという答えが嘘だとは思えない。実際、寮母さんは汗一つ描いていないように見える。涼しげというか、爽やかなままだ。いつも通りに、にこにこにこにこ……
「でも、今日は特に暑いですよね。暑いの、嫌にならないんですか?」
寮内に入れば冷房も効いている。それなのに、どんなに暑くても僕らを見送ろうとしてくれるんだ。
「そういうものですか?」
「そういうものって……」
「私には、あまりそういう感覚がないので……」
寮母さんは真剣に悩み始めてしまった。そこまで悩むことでもないと思うんだけどな。そうしてしばらく悩んでから、ある答えに辿り着いたらしい。
「そうだ! なら、暑い時にしか楽しめないことをすれば良いと思うんです」
「たとえば?」
「それは、帰ってからのお楽しみですよ」
寮母さんはひときわいい笑顔になっていた。これは秘密ですと言われている時の表情だ。そしてこんな時には決まって夕飯には何か特別なメニューが用意される。寮母さんとの付き合いも数ヶ月、こうしたやり取りも初めてじゃない。
いつまでも話し込んでいるわけにはいかず、寮母さんに急かされた僕は足早に登校する。話し込んでしまったとはいえ、井上や藤田よりは余裕の登校だ。
あいつらは多分、今頃大急ぎで支度をしているんだろうな……
大慌てで支度をする友人の姿を想像する。そんな僕の想像は、二人そろって息を切らして登校してきたことで的中した。
「セーフ!」
「ぎりぎりな」
井上が誇らしげに言うものだから、僕は厳しく指摘してやった。
「ちぇ、西木は厳しいな」
何気なく軽口を叩きあえる相手がいることが、僕はたまらなく嬉しかった。
「また夜更かしでもしたのか?」
「それが昨日、つい怖い話で盛り上がってさー」
「怖い話?」
「そうそう。学校の怖い話な。なんだよ、西木も気になるのか~?」
先生が出席を取りに来るまでにはまだ時間がある。にやにやと笑みを浮かべる井上はわざわざ僕が聞き返さなくても語り出すだろう。
それにしても怖い話か……これも夏ならではの話題だと思う。そこで朝の寮母さんとの会話を思い出した。
まさか、怪談で涼しくなるとか、言わないよな?
僕が通う高校は全寮制だ。最寄りの駅名を告げればショッピングセンターが併設されているため都会という誤解を受けやすいが、そこから学校まではバスで十五分ほどかかる。つまり、山に囲まれ自然豊かと言えば聞こえの良い立派な田舎だ。しかし夏においては森林特有の涼しげな空気は有り難いものとなる。
ーーって、結局暑いことに変わりはないけど。でもやっぱり、実家よりは暑さもましな気がした。
そんな暑さの中でも寮母さんは早起きだ。季節が変わっても寮母さんは何も変わらない。新緑が眩しいほどの緑を背に、今日も竹箒に着物姿で庭掃除をしている。
「おはようございます」
いつからか、僕は自分から挨拶するようになっていた。朝、寮母さんと顔を合わせることはすでに生活の一部になっている。それにしても……
「寮母さん、暑くないんですか?」
僕らはとっくに夏服に衣替えを終えている。もっと涼しい格好もあるだろうに。
「いいえ。ちっとも」
そう答える寮母さんの笑顔は陽だまりの様にあたたかなものだった。
いや、いくらなんでも陽だまりって……
自分で考えてちょっと恥ずかしくなった。つまり! 僕が言いたかったのは、季節が春だったときと変わらない笑顔だってことだ。
暑くないという答えが嘘だとは思えない。実際、寮母さんは汗一つ描いていないように見える。涼しげというか、爽やかなままだ。いつも通りに、にこにこにこにこ……
「でも、今日は特に暑いですよね。暑いの、嫌にならないんですか?」
寮内に入れば冷房も効いている。それなのに、どんなに暑くても僕らを見送ろうとしてくれるんだ。
「そういうものですか?」
「そういうものって……」
「私には、あまりそういう感覚がないので……」
寮母さんは真剣に悩み始めてしまった。そこまで悩むことでもないと思うんだけどな。そうしてしばらく悩んでから、ある答えに辿り着いたらしい。
「そうだ! なら、暑い時にしか楽しめないことをすれば良いと思うんです」
「たとえば?」
「それは、帰ってからのお楽しみですよ」
寮母さんはひときわいい笑顔になっていた。これは秘密ですと言われている時の表情だ。そしてこんな時には決まって夕飯には何か特別なメニューが用意される。寮母さんとの付き合いも数ヶ月、こうしたやり取りも初めてじゃない。
いつまでも話し込んでいるわけにはいかず、寮母さんに急かされた僕は足早に登校する。話し込んでしまったとはいえ、井上や藤田よりは余裕の登校だ。
あいつらは多分、今頃大急ぎで支度をしているんだろうな……
大慌てで支度をする友人の姿を想像する。そんな僕の想像は、二人そろって息を切らして登校してきたことで的中した。
「セーフ!」
「ぎりぎりな」
井上が誇らしげに言うものだから、僕は厳しく指摘してやった。
「ちぇ、西木は厳しいな」
何気なく軽口を叩きあえる相手がいることが、僕はたまらなく嬉しかった。
「また夜更かしでもしたのか?」
「それが昨日、つい怖い話で盛り上がってさー」
「怖い話?」
「そうそう。学校の怖い話な。なんだよ、西木も気になるのか~?」
先生が出席を取りに来るまでにはまだ時間がある。にやにやと笑みを浮かべる井上はわざわざ僕が聞き返さなくても語り出すだろう。
それにしても怖い話か……これも夏ならではの話題だと思う。そこで朝の寮母さんとの会話を思い出した。
まさか、怪談で涼しくなるとか、言わないよな?
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