あやかし寮母の守る家

美早卯花

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【夏】ひんやりかき氷2

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 下校中に一人で歩いていると、誰かが後をついてくるんだ。

 井上から聞かされたのは、確かそんな内容の話だった。幽霊やお化けの類いが関係した話じゃないけれど、なんでも最近生徒たちの間で噂になっているらしい。

 そして僕は現在、絶賛一人で下校しているわけだけど……

 若干足早になっていることは否定しない。そんな時だった。

「え――?」

 誰かの視線を感じて振り返る。けど、そこには誰もいなかった。
 数歩進むと今度は小さな足音が聞こえた。もう一度、急いで振り返ってみても誰もいない。

「誰か、いるの……?」

 この先にあるのは学生寮だけだ。誰か、寮生だろうか。夕暮れ時の一本道だ。他に帰宅する生徒がいてもおかしくはない。でも、ならどうして、こんな隠れる様な真似をするんだ?
 怖いというより気味が悪かった。僕はとっさに走り出し、寮の門を潜る。門のところには偶然朝と同じように寮母さんが立っていて安心した。
 買い物帰りなのか、手には花柄のエコバックを下げている。寮母さんが振り返ると、バックの中に入っているであろう硝子瓶がカランと音を立てた。随分と重そうだ。

「西木さん?」

 寮母さんは血相を変えて息を切らし、荒い呼吸をする僕に驚いていた。

「あ、いえ……なんだか誰かにつけられている気がして……」

「え?」

 寮母さんが険しい表情で僕の背後に視線を向けた。もちろんそこには誰もいない。

「あ……でも多分、僕の気のせいだったみたいです」

 心配させないように最後の一文を付け足しておく。けど寮母さんは無言で門の外をにらみつけていた。動かなくなった寮母さんを今度は僕が心配してしまう。

「もう大丈夫ですよ。私から注意しておきますね」

「え? 誰かいたんですか?」

「いいえ、誰も。西木さん、私は少し話をしてから戻りますから、すみませんが先に行ってもらえますか?」

「それは、いいですけど……あの、その荷物だけでも運んでおきましょうか? それ、随分と重たそうなので」

「ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。これは夜のお楽しみなので、今はまだ秘密なんです」

 寮母さんに手を振られてしまうと僕は引き下がるしかない。僕は寮の玄関へと向かい、寮母さんは反対に門の方へと歩いて行った。
 僕は気になって途中で後ろを振り返った。門のところで寮母さんは誰かと話しているようだけど、相手の姿は塀に隠れて分からない。かろうじて女の人のような声が聞こえるくらいだ。

「だめですよ。いだずらしたら」

 寮母さんは誰かと会話をしている。やっぱり誰かが僕を驚かせようとしていたのかもしれない。

「私の守るものに手をだしたらどうなるか、わかりますよね?」

 そう言った寮母さんの目は鋭く、妖しく光った気がした。日の光のせいか?

 そんな不思議な体験を終えた僕だが、特に害もないのでいつも通りの夕飯を迎えた。不思議体験よりも、今は夕飯のメニューの方が気になってしまう。
 ところが今日の夜はカレーライスで、特に何の変哲もないメニューだと思う。しいて上げるのなら、おかわり自由となっていることくらいだ。
 ところがカレーを食べ始めたところで寮母さんから重大な説明があった。

「今日はデザートにかき氷を用意してあります。食べ終わった人から声をかけて下さいね。すぐに削りますから!」

 寮母さんの手元には手動のかき氷機が用意されていた。

「ちゃんとシロップも用意してありますからね」

 瓶に入ったシロップはイチゴ、レモン、メロン、ブルーハワイの四種類だ。もしかして、あの重たそうな買い物はこれだったのかもしれない。
 食べるのは自由だと言われたが、ほとんどの生徒に食べないという選択はなかった。そのためかき氷には長蛇の列が出来ている。
 僕は列が消えるのを待ってから、最後に受け取りに行った。寮母さんにも気合いが入っているのか、珍しく腕まくりをしていた。着物の袖をたすきで縛っている。その腕はとても白くて細い。それなのに目の前ではみるみる氷が削られていく。

「上手ですね」

「見よう見真似ですよ」

「見たことあるんですか?」

「お祭りで何度か」

「そういえば、この辺りでお祭りがありますよね」

「はい。昔はよく、遠くから眺めていました」

「見ていただけなんですか? 何か食べたらよかったのに」

「……あの頃は、食べることに意味があるとは思えなかったので」

「寮母さん?」

「なんでもありません。今は食べることも、料理をすることも楽しいと知っていますから。そうですね。あの頃から、もっと早く食べてみれば良かったんですよね。食べることって、こんなにも楽しいんですから!」

 寮母さんは一人で納得しては何度も頷いていた。

「そうそう、最近は自宅でも簡単に作れてしまうんですよね。一度やってみたかったんですよ」

 そう語る寮母さんは楽しそうで、なんでも積極的に楽しもうとする姿勢を僕は純粋に凄いと思っている。

「それと、さっきの事は私からしっかり注意しておきましたから、もう大丈夫ですよ」

 もしかして、寮母の前でのことか?

「一人で寂しかったんですって。それで人間たちに悪戯をして、噂になれて嬉しかったらしいんです。でも、私の大切な生徒を怖がらせるわけにはいきませんから、よく言っておきました。あの子も今は反省しているようなので、許してあげて下さいね」

 何を許せばいいのか、そもそも誰のことなのか、僕には最後までよくわからない話だった。その後に食べたかき氷はやけにひんやりとしていて、随分と涼しくなったように感じた。
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