5 / 13
【夏】ひんやりかき氷2
しおりを挟む
下校中に一人で歩いていると、誰かが後をついてくるんだ。
井上から聞かされたのは、確かそんな内容の話だった。幽霊やお化けの類いが関係した話じゃないけれど、なんでも最近生徒たちの間で噂になっているらしい。
そして僕は現在、絶賛一人で下校しているわけだけど……
若干足早になっていることは否定しない。そんな時だった。
「え――?」
誰かの視線を感じて振り返る。けど、そこには誰もいなかった。
数歩進むと今度は小さな足音が聞こえた。もう一度、急いで振り返ってみても誰もいない。
「誰か、いるの……?」
この先にあるのは学生寮だけだ。誰か、寮生だろうか。夕暮れ時の一本道だ。他に帰宅する生徒がいてもおかしくはない。でも、ならどうして、こんな隠れる様な真似をするんだ?
怖いというより気味が悪かった。僕はとっさに走り出し、寮の門を潜る。門のところには偶然朝と同じように寮母さんが立っていて安心した。
買い物帰りなのか、手には花柄のエコバックを下げている。寮母さんが振り返ると、バックの中に入っているであろう硝子瓶がカランと音を立てた。随分と重そうだ。
「西木さん?」
寮母さんは血相を変えて息を切らし、荒い呼吸をする僕に驚いていた。
「あ、いえ……なんだか誰かにつけられている気がして……」
「え?」
寮母さんが険しい表情で僕の背後に視線を向けた。もちろんそこには誰もいない。
「あ……でも多分、僕の気のせいだったみたいです」
心配させないように最後の一文を付け足しておく。けど寮母さんは無言で門の外をにらみつけていた。動かなくなった寮母さんを今度は僕が心配してしまう。
「もう大丈夫ですよ。私から注意しておきますね」
「え? 誰かいたんですか?」
「いいえ、誰も。西木さん、私は少し話をしてから戻りますから、すみませんが先に行ってもらえますか?」
「それは、いいですけど……あの、その荷物だけでも運んでおきましょうか? それ、随分と重たそうなので」
「ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。これは夜のお楽しみなので、今はまだ秘密なんです」
寮母さんに手を振られてしまうと僕は引き下がるしかない。僕は寮の玄関へと向かい、寮母さんは反対に門の方へと歩いて行った。
僕は気になって途中で後ろを振り返った。門のところで寮母さんは誰かと話しているようだけど、相手の姿は塀に隠れて分からない。かろうじて女の人のような声が聞こえるくらいだ。
「だめですよ。いだずらしたら」
寮母さんは誰かと会話をしている。やっぱり誰かが僕を驚かせようとしていたのかもしれない。
「私の守るものに手をだしたらどうなるか、わかりますよね?」
そう言った寮母さんの目は鋭く、妖しく光った気がした。日の光のせいか?
そんな不思議な体験を終えた僕だが、特に害もないのでいつも通りの夕飯を迎えた。不思議体験よりも、今は夕飯のメニューの方が気になってしまう。
ところが今日の夜はカレーライスで、特に何の変哲もないメニューだと思う。しいて上げるのなら、おかわり自由となっていることくらいだ。
ところがカレーを食べ始めたところで寮母さんから重大な説明があった。
「今日はデザートにかき氷を用意してあります。食べ終わった人から声をかけて下さいね。すぐに削りますから!」
寮母さんの手元には手動のかき氷機が用意されていた。
「ちゃんとシロップも用意してありますからね」
瓶に入ったシロップはイチゴ、レモン、メロン、ブルーハワイの四種類だ。もしかして、あの重たそうな買い物はこれだったのかもしれない。
食べるのは自由だと言われたが、ほとんどの生徒に食べないという選択はなかった。そのためかき氷には長蛇の列が出来ている。
僕は列が消えるのを待ってから、最後に受け取りに行った。寮母さんにも気合いが入っているのか、珍しく腕まくりをしていた。着物の袖をたすきで縛っている。その腕はとても白くて細い。それなのに目の前ではみるみる氷が削られていく。
「上手ですね」
「見よう見真似ですよ」
「見たことあるんですか?」
「お祭りで何度か」
「そういえば、この辺りでお祭りがありますよね」
「はい。昔はよく、遠くから眺めていました」
「見ていただけなんですか? 何か食べたらよかったのに」
「……あの頃は、食べることに意味があるとは思えなかったので」
「寮母さん?」
「なんでもありません。今は食べることも、料理をすることも楽しいと知っていますから。そうですね。あの頃から、もっと早く食べてみれば良かったんですよね。食べることって、こんなにも楽しいんですから!」
寮母さんは一人で納得しては何度も頷いていた。
「そうそう、最近は自宅でも簡単に作れてしまうんですよね。一度やってみたかったんですよ」
そう語る寮母さんは楽しそうで、なんでも積極的に楽しもうとする姿勢を僕は純粋に凄いと思っている。
「それと、さっきの事は私からしっかり注意しておきましたから、もう大丈夫ですよ」
もしかして、寮母の前でのことか?
「一人で寂しかったんですって。それで人間たちに悪戯をして、噂になれて嬉しかったらしいんです。でも、私の大切な生徒を怖がらせるわけにはいきませんから、よく言っておきました。あの子も今は反省しているようなので、許してあげて下さいね」
何を許せばいいのか、そもそも誰のことなのか、僕には最後までよくわからない話だった。その後に食べたかき氷はやけにひんやりとしていて、随分と涼しくなったように感じた。
井上から聞かされたのは、確かそんな内容の話だった。幽霊やお化けの類いが関係した話じゃないけれど、なんでも最近生徒たちの間で噂になっているらしい。
そして僕は現在、絶賛一人で下校しているわけだけど……
若干足早になっていることは否定しない。そんな時だった。
「え――?」
誰かの視線を感じて振り返る。けど、そこには誰もいなかった。
数歩進むと今度は小さな足音が聞こえた。もう一度、急いで振り返ってみても誰もいない。
「誰か、いるの……?」
この先にあるのは学生寮だけだ。誰か、寮生だろうか。夕暮れ時の一本道だ。他に帰宅する生徒がいてもおかしくはない。でも、ならどうして、こんな隠れる様な真似をするんだ?
怖いというより気味が悪かった。僕はとっさに走り出し、寮の門を潜る。門のところには偶然朝と同じように寮母さんが立っていて安心した。
買い物帰りなのか、手には花柄のエコバックを下げている。寮母さんが振り返ると、バックの中に入っているであろう硝子瓶がカランと音を立てた。随分と重そうだ。
「西木さん?」
寮母さんは血相を変えて息を切らし、荒い呼吸をする僕に驚いていた。
「あ、いえ……なんだか誰かにつけられている気がして……」
「え?」
寮母さんが険しい表情で僕の背後に視線を向けた。もちろんそこには誰もいない。
「あ……でも多分、僕の気のせいだったみたいです」
心配させないように最後の一文を付け足しておく。けど寮母さんは無言で門の外をにらみつけていた。動かなくなった寮母さんを今度は僕が心配してしまう。
「もう大丈夫ですよ。私から注意しておきますね」
「え? 誰かいたんですか?」
「いいえ、誰も。西木さん、私は少し話をしてから戻りますから、すみませんが先に行ってもらえますか?」
「それは、いいですけど……あの、その荷物だけでも運んでおきましょうか? それ、随分と重たそうなので」
「ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。これは夜のお楽しみなので、今はまだ秘密なんです」
寮母さんに手を振られてしまうと僕は引き下がるしかない。僕は寮の玄関へと向かい、寮母さんは反対に門の方へと歩いて行った。
僕は気になって途中で後ろを振り返った。門のところで寮母さんは誰かと話しているようだけど、相手の姿は塀に隠れて分からない。かろうじて女の人のような声が聞こえるくらいだ。
「だめですよ。いだずらしたら」
寮母さんは誰かと会話をしている。やっぱり誰かが僕を驚かせようとしていたのかもしれない。
「私の守るものに手をだしたらどうなるか、わかりますよね?」
そう言った寮母さんの目は鋭く、妖しく光った気がした。日の光のせいか?
そんな不思議な体験を終えた僕だが、特に害もないのでいつも通りの夕飯を迎えた。不思議体験よりも、今は夕飯のメニューの方が気になってしまう。
ところが今日の夜はカレーライスで、特に何の変哲もないメニューだと思う。しいて上げるのなら、おかわり自由となっていることくらいだ。
ところがカレーを食べ始めたところで寮母さんから重大な説明があった。
「今日はデザートにかき氷を用意してあります。食べ終わった人から声をかけて下さいね。すぐに削りますから!」
寮母さんの手元には手動のかき氷機が用意されていた。
「ちゃんとシロップも用意してありますからね」
瓶に入ったシロップはイチゴ、レモン、メロン、ブルーハワイの四種類だ。もしかして、あの重たそうな買い物はこれだったのかもしれない。
食べるのは自由だと言われたが、ほとんどの生徒に食べないという選択はなかった。そのためかき氷には長蛇の列が出来ている。
僕は列が消えるのを待ってから、最後に受け取りに行った。寮母さんにも気合いが入っているのか、珍しく腕まくりをしていた。着物の袖をたすきで縛っている。その腕はとても白くて細い。それなのに目の前ではみるみる氷が削られていく。
「上手ですね」
「見よう見真似ですよ」
「見たことあるんですか?」
「お祭りで何度か」
「そういえば、この辺りでお祭りがありますよね」
「はい。昔はよく、遠くから眺めていました」
「見ていただけなんですか? 何か食べたらよかったのに」
「……あの頃は、食べることに意味があるとは思えなかったので」
「寮母さん?」
「なんでもありません。今は食べることも、料理をすることも楽しいと知っていますから。そうですね。あの頃から、もっと早く食べてみれば良かったんですよね。食べることって、こんなにも楽しいんですから!」
寮母さんは一人で納得しては何度も頷いていた。
「そうそう、最近は自宅でも簡単に作れてしまうんですよね。一度やってみたかったんですよ」
そう語る寮母さんは楽しそうで、なんでも積極的に楽しもうとする姿勢を僕は純粋に凄いと思っている。
「それと、さっきの事は私からしっかり注意しておきましたから、もう大丈夫ですよ」
もしかして、寮母の前でのことか?
「一人で寂しかったんですって。それで人間たちに悪戯をして、噂になれて嬉しかったらしいんです。でも、私の大切な生徒を怖がらせるわけにはいきませんから、よく言っておきました。あの子も今は反省しているようなので、許してあげて下さいね」
何を許せばいいのか、そもそも誰のことなのか、僕には最後までよくわからない話だった。その後に食べたかき氷はやけにひんやりとしていて、随分と涼しくなったように感じた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる