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【冬】星空にホットココア1
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僕が暮らす寮にも冬の気配が訪れた。夏が過ぎればとたんに日が沈むのを早く感じ、少し帰りが遅くなっただけでも真っ暗だ。寮までの道を照らす街灯も点灯の時間が早まった。
そんな冬の夜だけど、なにも暗くて寒いってだけじゃない。僕にしては珍しく、うきうきと顔を上げていた。
雲もないし、月も隠れている。星が輝くためのキャンパスは申し分ない。
今夜は流星群だという話題は、クラスの女子たちが騒いでいたのを偶然耳にしたわけだけど、きっと星が流れ始めるのはもっと夜遅くなってからだ。それに星を見るためには周囲も暗くなければ観測しにくいだろう。僕が帰ろうとしているのは、まだしばらくは賑やかで灯りの絶えない場所だった。
明日の支度を終えた僕は寝る支度を調えてからスマホで天気予報をチェックする。予報は天体観測にはうってつけで、あとはみんなが寝静まるのを待つだけだ。
時計の針が深夜を越えてから、僕は窓の外を眺めた。けど僕の部屋からじゃあ星空は上手く見えない。仕方なく寒さと闘う道を選び、寝巻きにコートを羽織り、首には厳重にマフラーを巻く。スマホをポケットに入れると静かに部屋を出た。
まるで秘密の冒険だ。実際、流れ星に興味があるなんて、子どもっぽいと思われそうで友達にも秘密にしていた。でもみんな寝ている今は誰も僕の存在になんて気付かない。
外に出てから寮を振り返ると、どの部屋も明かりが消えていた。ここでの明かりといえば、少し離れた門のところにある街灯だけだ。僕は冬の冷たい空気に澄んだ星空を贅沢に堪能していた。
「はぁ……」
当たり前だけど、吐き出す息は白い。今日は特に冷え込むな……。そろそろ雪が降り出してもおかしくないだろう。
しばらく無言で夜空を見上げていると、唐突に人の気配を感じた。
「西木さん!」
「わっ!」
焦ったような寮母さんの声に僕は全身で驚いてしまう。夜だから大声を上げるのはなんとか絶えたけど。
「こんな夜中にどうしたんですか!?」
僕は相手が寮母さんだとわかってすぐに落ち着いたけど、寮母さんはまだ何かに焦っているみたいに取り乱している。
あれ……でも寮母さん、今どこから現れた? 玄関を開ける音も気配もなかった。なのに突然背後に現れて、まるで最初からそこにいたみたいだ。
それに僕は、声とぼんやり闇に浮かぶ着物姿で寮母さんだと判断した。なのに寮母さんは最初から迷わず僕だと言いきった。僕はしゃべってはいないのに。服装だって、コートにマフラーで口元まで覆っている。それなのにどうして……
「よく僕だって分かりましたね」
「わかりますよそれくらい! だって、私は寮母なんですから、それくらいわかります。西木さん、こんな遅くに、何かあったんですか!?」
「え、あ……」
僕と向き合ってからも寮母さんは落ち着かない様子だった。きっとそれほどまでに夜中に出歩く生徒を心配してくれたんだ。
「こんなのに寒いのに、早く戻らないと風邪をひいてしまいますよ!」
「あ、っと、その……ちょっとだけ、流れ星を見たくて……ですね」
「流れ星、ですか?」
「今日は流星群の日なので……。僕の住んでいるところではあまり星が見えなかったんです。でもここでなら見られるかと思って、その……見てみたかったんです」
寮母さんは目に見えて冷静さを取り戻していった。
そんな冬の夜だけど、なにも暗くて寒いってだけじゃない。僕にしては珍しく、うきうきと顔を上げていた。
雲もないし、月も隠れている。星が輝くためのキャンパスは申し分ない。
今夜は流星群だという話題は、クラスの女子たちが騒いでいたのを偶然耳にしたわけだけど、きっと星が流れ始めるのはもっと夜遅くなってからだ。それに星を見るためには周囲も暗くなければ観測しにくいだろう。僕が帰ろうとしているのは、まだしばらくは賑やかで灯りの絶えない場所だった。
明日の支度を終えた僕は寝る支度を調えてからスマホで天気予報をチェックする。予報は天体観測にはうってつけで、あとはみんなが寝静まるのを待つだけだ。
時計の針が深夜を越えてから、僕は窓の外を眺めた。けど僕の部屋からじゃあ星空は上手く見えない。仕方なく寒さと闘う道を選び、寝巻きにコートを羽織り、首には厳重にマフラーを巻く。スマホをポケットに入れると静かに部屋を出た。
まるで秘密の冒険だ。実際、流れ星に興味があるなんて、子どもっぽいと思われそうで友達にも秘密にしていた。でもみんな寝ている今は誰も僕の存在になんて気付かない。
外に出てから寮を振り返ると、どの部屋も明かりが消えていた。ここでの明かりといえば、少し離れた門のところにある街灯だけだ。僕は冬の冷たい空気に澄んだ星空を贅沢に堪能していた。
「はぁ……」
当たり前だけど、吐き出す息は白い。今日は特に冷え込むな……。そろそろ雪が降り出してもおかしくないだろう。
しばらく無言で夜空を見上げていると、唐突に人の気配を感じた。
「西木さん!」
「わっ!」
焦ったような寮母さんの声に僕は全身で驚いてしまう。夜だから大声を上げるのはなんとか絶えたけど。
「こんな夜中にどうしたんですか!?」
僕は相手が寮母さんだとわかってすぐに落ち着いたけど、寮母さんはまだ何かに焦っているみたいに取り乱している。
あれ……でも寮母さん、今どこから現れた? 玄関を開ける音も気配もなかった。なのに突然背後に現れて、まるで最初からそこにいたみたいだ。
それに僕は、声とぼんやり闇に浮かぶ着物姿で寮母さんだと判断した。なのに寮母さんは最初から迷わず僕だと言いきった。僕はしゃべってはいないのに。服装だって、コートにマフラーで口元まで覆っている。それなのにどうして……
「よく僕だって分かりましたね」
「わかりますよそれくらい! だって、私は寮母なんですから、それくらいわかります。西木さん、こんな遅くに、何かあったんですか!?」
「え、あ……」
僕と向き合ってからも寮母さんは落ち着かない様子だった。きっとそれほどまでに夜中に出歩く生徒を心配してくれたんだ。
「こんなのに寒いのに、早く戻らないと風邪をひいてしまいますよ!」
「あ、っと、その……ちょっとだけ、流れ星を見たくて……ですね」
「流れ星、ですか?」
「今日は流星群の日なので……。僕の住んでいるところではあまり星が見えなかったんです。でもここでなら見られるかと思って、その……見てみたかったんです」
寮母さんは目に見えて冷静さを取り戻していった。
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