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【冬】星空にホットココア2
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「すみません。私、色々と誤解をしてしまって」
「いえ、心配をかけた僕が悪いんです。子どもっぽいと思われたくなくて、誰にも言わずにこっそり来てしまって。寮母さんには、ちゃんと話しておけば良かったんですよね。すみません、こんな時間に……起こしちゃいましたね」
「いいんです。私が勝手に早とちりしただけですから。それに私は本来睡眠を必要としません。だから気にしないで下さい。それで、もし良ければ私も一緒にいいですか? そういえば、私も流れ星はちゃんと見たことがないなと。それに私が一緒だと安心ですよ。何があっても守りますから」
「守りますって、それ男の僕の台詞じゃないですか?」
「あら、こう見えても私、強いんですよ」
僕らは声を潜めて笑い合った。寮母さんは起き抜けというにはあまりにも支度が整っているし、もしかしたら本当に起きていて、夜更かしを好む人なのかもしれない。
「ほらほら、そんなことよりも、しっかり流れ星を探さないといけませんよ!」
養母さんが空を見上げる。僕もつられるように顔を上げていた。僕から言い出したことでもあるし、しっかり流れ星を見つけないとな。
けど、あれから数分が経っても流れ星は見つからない。それに寮母さんも用事を思い出したのか、一度寮へと戻っていった。もしかして、飽きたのかな……?
僕は一人無言で空を見上げている。するとしばらくして玄関の開く音がした。寮母さんが戻って来たわけだけど、可笑しいな。さっきは夢中になりすぎて気づかなかったのか?
「お待たせしました。はい、どうぞ」
差し出されるまま、僕はそれを受け取った。
「あったかい?」
受け取ったマグカップは温かな液体で満たされている。
「じっとしていると冷えてしまいますから、ホットココアを用意しました」
寮母さんの説明通り、カップからは甘いココアの香りがする。しっかりと両手で握ると、冷えていた指先がじんわりと温まっていく。
「あったかい……」
自分でも気付かないうちに冷え切っていたらしい。手袋もしてくるべきだったな。
僕はココアの香りと温もりに引き寄せられ、まず一口。それだけで口の中には甘さが広がった。寮母さんの優しさともまざり、身体も心も幸せな気分だ。
「あったまりますね」
「でしょう? 寒いときは温かい飲み物が恋しくなりますよね。お茶や生姜湯なんかも温まるんですけど、西木さんは甘いものが好きそうなので、ホットココアにしてみました」
「甘いものが好きって、よくわかりましたね。もしかして、卵焼きのことを憶えていてくれたんですか?」
「私、生徒さんの好みは忘れないんですよ。どれも大切な思い出ですから。あ、もう少し大人になったら、ホットワインなんかも身体が暖まるのでおすすめかも」
「大人の味か。早く大人になって飲んでみたいな」
「きっとあっという間ですよ。西木さんも、すぐに大人になってしまいますから」
「寮母さん?」
僕はとっさに言葉が浮かばなかった。どこか寂しそうな寮母さんに、どんな言葉を掛けるのが正解だったんだろう。
寮母さんの言葉は正しくて、そんなことはないと言ってあげられなかった。それにきっと寮母さんは違うと言ってほしいんじゃない。ただ思ったことを口にしているだけなんだと思う。そしてそれは、随分と悲しそうだった。
「ほら、西木さん! 流れ星探しですよ。さぼらないで!」
まるで先生の様に振る舞う寮母さんからはさっきまでの雰囲気は消えている。きっと寮母さん自身が隠そうとしているんだと思った。
「あっ!」
寮母さんが小さく声を上げる。釣られてその方角を見ると星が流れた。運がいいのか、それから後を追うようにいくつもの星が流れていく。
流れ星を堪能してから、僕らは寮に戻った。玄関に入ると暖房もついていないのに外より随分と温かく感じる。
「寮母さんは、何かお願いをしたんですか?」
「西木さんが風邪を引きませんように。西木さんのお願いが叶いますようにって」
「僕のことはいいですよ。寮母さんのお願いですってば」
「私の願いは、いつかこの寮を巣立つみなさんが健やかであることです。私が見守ることができるのは、この寮にいる間だけですから……」
「寮母さん……?」
暗くてよく見えないけれど、寮母さんの声は寂しそうだった。だから僕は寮母さんの分も願うんだ。寮母さんが幸せでありますようにって。それを話してしまったら寮母さんは遠慮するだろうから、これは僕だけの秘密だ。それに願い事は、誰かに言わない方が叶いそうだ。
寮母さんの差し入れのおかげで風邪をひくこともなく僕の天体観測は終了した。
「いえ、心配をかけた僕が悪いんです。子どもっぽいと思われたくなくて、誰にも言わずにこっそり来てしまって。寮母さんには、ちゃんと話しておけば良かったんですよね。すみません、こんな時間に……起こしちゃいましたね」
「いいんです。私が勝手に早とちりしただけですから。それに私は本来睡眠を必要としません。だから気にしないで下さい。それで、もし良ければ私も一緒にいいですか? そういえば、私も流れ星はちゃんと見たことがないなと。それに私が一緒だと安心ですよ。何があっても守りますから」
「守りますって、それ男の僕の台詞じゃないですか?」
「あら、こう見えても私、強いんですよ」
僕らは声を潜めて笑い合った。寮母さんは起き抜けというにはあまりにも支度が整っているし、もしかしたら本当に起きていて、夜更かしを好む人なのかもしれない。
「ほらほら、そんなことよりも、しっかり流れ星を探さないといけませんよ!」
養母さんが空を見上げる。僕もつられるように顔を上げていた。僕から言い出したことでもあるし、しっかり流れ星を見つけないとな。
けど、あれから数分が経っても流れ星は見つからない。それに寮母さんも用事を思い出したのか、一度寮へと戻っていった。もしかして、飽きたのかな……?
僕は一人無言で空を見上げている。するとしばらくして玄関の開く音がした。寮母さんが戻って来たわけだけど、可笑しいな。さっきは夢中になりすぎて気づかなかったのか?
「お待たせしました。はい、どうぞ」
差し出されるまま、僕はそれを受け取った。
「あったかい?」
受け取ったマグカップは温かな液体で満たされている。
「じっとしていると冷えてしまいますから、ホットココアを用意しました」
寮母さんの説明通り、カップからは甘いココアの香りがする。しっかりと両手で握ると、冷えていた指先がじんわりと温まっていく。
「あったかい……」
自分でも気付かないうちに冷え切っていたらしい。手袋もしてくるべきだったな。
僕はココアの香りと温もりに引き寄せられ、まず一口。それだけで口の中には甘さが広がった。寮母さんの優しさともまざり、身体も心も幸せな気分だ。
「あったまりますね」
「でしょう? 寒いときは温かい飲み物が恋しくなりますよね。お茶や生姜湯なんかも温まるんですけど、西木さんは甘いものが好きそうなので、ホットココアにしてみました」
「甘いものが好きって、よくわかりましたね。もしかして、卵焼きのことを憶えていてくれたんですか?」
「私、生徒さんの好みは忘れないんですよ。どれも大切な思い出ですから。あ、もう少し大人になったら、ホットワインなんかも身体が暖まるのでおすすめかも」
「大人の味か。早く大人になって飲んでみたいな」
「きっとあっという間ですよ。西木さんも、すぐに大人になってしまいますから」
「寮母さん?」
僕はとっさに言葉が浮かばなかった。どこか寂しそうな寮母さんに、どんな言葉を掛けるのが正解だったんだろう。
寮母さんの言葉は正しくて、そんなことはないと言ってあげられなかった。それにきっと寮母さんは違うと言ってほしいんじゃない。ただ思ったことを口にしているだけなんだと思う。そしてそれは、随分と悲しそうだった。
「ほら、西木さん! 流れ星探しですよ。さぼらないで!」
まるで先生の様に振る舞う寮母さんからはさっきまでの雰囲気は消えている。きっと寮母さん自身が隠そうとしているんだと思った。
「あっ!」
寮母さんが小さく声を上げる。釣られてその方角を見ると星が流れた。運がいいのか、それから後を追うようにいくつもの星が流れていく。
流れ星を堪能してから、僕らは寮に戻った。玄関に入ると暖房もついていないのに外より随分と温かく感じる。
「寮母さんは、何かお願いをしたんですか?」
「西木さんが風邪を引きませんように。西木さんのお願いが叶いますようにって」
「僕のことはいいですよ。寮母さんのお願いですってば」
「私の願いは、いつかこの寮を巣立つみなさんが健やかであることです。私が見守ることができるのは、この寮にいる間だけですから……」
「寮母さん……?」
暗くてよく見えないけれど、寮母さんの声は寂しそうだった。だから僕は寮母さんの分も願うんだ。寮母さんが幸せでありますようにって。それを話してしまったら寮母さんは遠慮するだろうから、これは僕だけの秘密だ。それに願い事は、誰かに言わない方が叶いそうだ。
寮母さんの差し入れのおかげで風邪をひくこともなく僕の天体観測は終了した。
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