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【冬】星空にホットココア3
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寮母さんと流れ星を探してから数日後。星に彩られていた情景と同じ空だということが信じられないほど、空は厚い雲に覆われてしまった。
雪雲はこの地方には珍しい大雪を運び、山に面した寮には多くの雪が積もっているはずだ。それは僕がいるこの場所よりも多く、天気予報を見ながら白く染まった寮の姿を想像する。
僕は今、冬休みを利用して実家に帰省している。ほとんどの生徒は家族と新年を迎えるために実家に帰っているだろう。
今頃、寮母さんはどうしているのかな。寮母さんもゆっくり休めているといいけど。
新年を迎えると僕の一族には親戚同士の大きな集まりがある。そこで僕は一年ぶりにおじいちゃんに会うことができた。みんなでおせちを食べて、お年玉をもらって、最近の話をするんだ。
そんな家族の集まりが一段落してから寛いでいると、親戚のおばさんがホットココアを用意してくれた。おばさんの子どもも好きらしい。手に取ると、寮母さんと見た星空を思い出した。
でも――
卵焼きにも家庭の味があるように、ホットココアも人によって味付けは違うんだ。今まで深く考えたこともなかったけど、急に寮母さんの味が恋しくなった。
飲み終えると、僕は一人でおじいちゃんのところへ向かう。もちろん寮母さんの名前を探るためだ。おじいちゃんに訊くのは禁止されていなかったし、これはずるじゃない。
おじいちゃんは僕の大好きな笑顔で迎えてくれた。席は遠かったし、大人たちの難しい話に僕は混ざれなかったから、こうやって静かに話せたのは新年の挨拶をして以来だ。よく来たなって、おじいちゃんは喜んでくれた。
でもどうやって話を切り出そう。いきなり寮母さんの名前を教えて、なんて訊いたらおかしいか? そんなことを悩んでいた僕だけど、思いがけないことにおじいちゃんの方から話題を振ってくれたんだ。
「縁、寮母さんとは仲良くやってるかい?」
僕が頷くとおじいちゃんはそうかと、まるで自分の事の様に喜ぶんだ。寮母さんは少しと言っていたけど、やっぱり仲が良いのかな。きっとそうに違いない。
「おじいちゃんはさ、寮母さんの名前を知ってる?」
「名前?」
「うん。なかなか教えてくれないんだ」
「そうかそうか、名前をなあ」
「どうしたの?」
「いや、あの方もさぞ嬉しかっただろうと思ってな」
「そうかな。だって教えてくれないんだよ?」
「本当はあの方も教えたかっただろうさ。ただなあ……」
「何?」
「それはわしにも答えられよ。だから縁や、もう一度、お前が訊いておやり。あの方も喜ぶだろうさ」
そうやっておじいちゃんははぐらかす。つまり、おじいちゃんも秘密にするつもりなんだ。名前を訊いただけなのに、二人してなんだっていうんだ?
僕がその答えを知るまでにはまだもう少し時間が掛かるみたいだ。
正月の集まりも終わり、冬休みを終えた僕は朝一番に寮へ戻った。いつまでも実家にいるとだらだらとした癖がついてしまいそうで怖ろしい。だからきっと、僕が一番乗りだ。
寮へ向かう道を歩くとやっぱり白く染まっている。大通りは除雪車が入ったみたいだけど、この辺りは人の歩く道が細く続いているだけだ。道なりに進むと、懐かしい寮が顔を見せた。
雪化粧をした寮を見るのは初めてだけど、変わらないこともあって安心する。
寮母さんは変わらずそこにいてくれるんだ――
……って、ええっ!?
僕は見慣れた着物姿を目にした瞬間、走り出していた。
雪雲はこの地方には珍しい大雪を運び、山に面した寮には多くの雪が積もっているはずだ。それは僕がいるこの場所よりも多く、天気予報を見ながら白く染まった寮の姿を想像する。
僕は今、冬休みを利用して実家に帰省している。ほとんどの生徒は家族と新年を迎えるために実家に帰っているだろう。
今頃、寮母さんはどうしているのかな。寮母さんもゆっくり休めているといいけど。
新年を迎えると僕の一族には親戚同士の大きな集まりがある。そこで僕は一年ぶりにおじいちゃんに会うことができた。みんなでおせちを食べて、お年玉をもらって、最近の話をするんだ。
そんな家族の集まりが一段落してから寛いでいると、親戚のおばさんがホットココアを用意してくれた。おばさんの子どもも好きらしい。手に取ると、寮母さんと見た星空を思い出した。
でも――
卵焼きにも家庭の味があるように、ホットココアも人によって味付けは違うんだ。今まで深く考えたこともなかったけど、急に寮母さんの味が恋しくなった。
飲み終えると、僕は一人でおじいちゃんのところへ向かう。もちろん寮母さんの名前を探るためだ。おじいちゃんに訊くのは禁止されていなかったし、これはずるじゃない。
おじいちゃんは僕の大好きな笑顔で迎えてくれた。席は遠かったし、大人たちの難しい話に僕は混ざれなかったから、こうやって静かに話せたのは新年の挨拶をして以来だ。よく来たなって、おじいちゃんは喜んでくれた。
でもどうやって話を切り出そう。いきなり寮母さんの名前を教えて、なんて訊いたらおかしいか? そんなことを悩んでいた僕だけど、思いがけないことにおじいちゃんの方から話題を振ってくれたんだ。
「縁、寮母さんとは仲良くやってるかい?」
僕が頷くとおじいちゃんはそうかと、まるで自分の事の様に喜ぶんだ。寮母さんは少しと言っていたけど、やっぱり仲が良いのかな。きっとそうに違いない。
「おじいちゃんはさ、寮母さんの名前を知ってる?」
「名前?」
「うん。なかなか教えてくれないんだ」
「そうかそうか、名前をなあ」
「どうしたの?」
「いや、あの方もさぞ嬉しかっただろうと思ってな」
「そうかな。だって教えてくれないんだよ?」
「本当はあの方も教えたかっただろうさ。ただなあ……」
「何?」
「それはわしにも答えられよ。だから縁や、もう一度、お前が訊いておやり。あの方も喜ぶだろうさ」
そうやっておじいちゃんははぐらかす。つまり、おじいちゃんも秘密にするつもりなんだ。名前を訊いただけなのに、二人してなんだっていうんだ?
僕がその答えを知るまでにはまだもう少し時間が掛かるみたいだ。
正月の集まりも終わり、冬休みを終えた僕は朝一番に寮へ戻った。いつまでも実家にいるとだらだらとした癖がついてしまいそうで怖ろしい。だからきっと、僕が一番乗りだ。
寮へ向かう道を歩くとやっぱり白く染まっている。大通りは除雪車が入ったみたいだけど、この辺りは人の歩く道が細く続いているだけだ。道なりに進むと、懐かしい寮が顔を見せた。
雪化粧をした寮を見るのは初めてだけど、変わらないこともあって安心する。
寮母さんは変わらずそこにいてくれるんだ――
……って、ええっ!?
僕は見慣れた着物姿を目にした瞬間、走り出していた。
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