【五章完結】サラリーマン、オークの花嫁になる

花房いちご

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第五章 元騎士、オークの花嫁になる

元騎士、オークの花嫁になる【9】

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 どう言い訳しようかと悩んでいると、何故かヒースが笑いだした。
 これまでに見たことのない、まるで光をぶちまけたみたいな明るい笑顔と笑い声で。

「あははは!あ、貴方には、わ、私が、そ、そんな風に……!見えて……!あははは!……っ!」

 ヒースはキラキラ笑って、涙をこぼした。その涙が美しい顔をさらに引き立たせる。

 あ。駄目だ。惚れた。というか惚れていた。

 気づいちまった。

 俺、ヒースが好きだ。ヒースが好みすぎて、性欲が暴走して妄想して花嫁にしたくなったと思ってたけど、違った。

 ヒースに一目惚れしたから欲情したんだ。そして、知らない一面に触れる度に惚れ直している。

 ヒースが好きだ。愛しい。
 もっとたくさん彼のことを知りたい。たわいもない話をたくさんして、ずっと一緒にいたい。
 だから俺の花嫁にしたいんだ。

 気づけば俺は、笑ったり泣いたり忙しい愛しい人を抱きしめていた。
 ヒースは少し身体を震わせたが、すぐに抱きしめ返してくれた。
 治療を受け清潔になった髪と肌から、薬とヒースそのものの匂いがする。体温と心音と身動ぎの感触。
 腕の中に愛おしい人がいる。身体と心を預けてくれた。その事実に俺の心が満たされていく。

 どれくらいそうしていただろうか?

 ヒースは落ち着きを取り戻し、顔を上げた。
 涙と唾液と鼻水まみれなのに、やっぱり綺麗でびっくりした。

「うぅ~……うぇっ……ひっく……ごめ、なさ……ひっく……服……汚し……」

「気にするな。洗えばいい」

 少し身を離して、清潔な布を取った。火照った顔をそっと拭いてやる。

 最初はどもりながら「じ、自分でやります」「そこまでして頂くわけには……」と言って遠慮していたが、すぐに諦めてされるがままになった。

「力が強かったら言ってくれ。ヒースさんに痛い思いをさせたくない」

「ん……ひっく……だ、大丈夫です……ん……」

 やがて気持ちよさそうに目を細めていった。飼主に撫でられた猫のようで、庇護欲が満たされていく。

 ヒース可愛い。あまりにも可愛い。可愛いという言葉はヒースのためにある。

 こけた頬も、紫の瞳も、目尻の皺も、顔を縁取る金髪も、俺を信じて身を委ねる様も可愛い。
 守りたい。花嫁にしたい。
 というか今すぐ抱いて孕ませたい。舌で肌を舐め回して、指でまさぐって……。

「療養中の患者に何考えてんだ!」

 バキィ!俺は己の顔をぶん殴った。

「……え?ど、どうしたんですか?……なっ!まさか自分で自分を殴ったんですか!?」

「邪念を叩き潰しただけだ。心配するな」

「いやいや!血が出てますよ!どんな馬鹿力で殴ったんですか!お医者様あああああ!急患ですううううう!」

「あ!叫ぶな!自傷したのバレたら叱られる!」

 案の定。病院で騒いだこと、自傷したこと、患者であるヒースを興奮させたことを、お医者様と看護師さんからドチャクソ叱られた。
 そのせいで、俺の叫んだ内容とか抱きしめたこととかはうやむやになった。

 というか、途中からそうなるように誘導していた。

 さっきも言ったが、ヒースに告白してプロポーズしたら上手くいく。都合の良い妄想じゃない。それくらい、ヒースは精神的に俺に依存している。
 だからこそ、いま告げるのは不公平というか卑怯というか、とにかくヒースのためにならないと思う。
 あと何年かして、ヒースが完全に立ち直って、俺以外に心を開ける人ができるまでは告げない。
 俺は自分に誓ったのだった。

 なお、俺とヒースが同居する件については「やっぱり無理だった」と言って断るつもりだった。しかし、そうはならなかった。というか、気づいた頃には俺と同居することが決まっていた。
 事情を知った衛兵隊長とかお医者様とか校長とかが、ノリノリで外堀を埋めやがった。なんでだよ!

「ますますヒースさんが俺に依存するし、俺の理性が試されるじゃねーか!助けてくれ!ちんぽが爆発する!」

 俺は叫ぶが、外堀を埋めた3人は生温い笑顔で「頑張れ若人」と、言うだけだった。
 現実は非情である。畜生め!
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