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第五章 元騎士、オークの花嫁になる
元騎士、オークの花嫁になる【17】
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ヒースに弟殺しをさせたくない!
俺は全身を強化し、水の鞭を引きちぎって走った。
キイィーン!
金属音に似た不快な音が響いた。
ヒースの弟の首に刃が届く寸前、俺の左腕を挟んで止めたのだ。
「ヒース!落ち着け!こんな奴のために罪を犯すな!」
叫びながら、俺は内心でホッとした。
腕にかなりの衝撃が走っているが、なんとか無傷だ。
凄まじい威力だった。咄嗟に左腕だけ集中して強化してよかった。
もしそうしていなければ、弟の首ごと刈り取られていただろう。
しかし安心した俺と違って、ヒースの顔は絶望に染まった。
「ひっ!?……あああっ!ガルグ先生!ガルグ先生!嫌だ死なないで下さい!ごめんなさい!貴方に斬りかかるなんて!」
バシャン!
絶叫と共に、水魔法が全て解除される。ヒースは俺に飛びつくようにして、怪我の有無を確かめた。
「あああああ!嫌だ嫌だ嫌だ死なないで下さい!お願いだから!」
ヒースは錯乱して、魔法を防いだ俺の左腕をさする。その手に手を重ねて笑いかけた。
「大丈夫だ。傷なんて一つもついてない。俺は戦場帰りのオークだぜ?魔法を弾くのも防ぐのもお手のものだ」
「よ、よかった……」
ほろほろと涙がこぼれる。手で拭おうとしたが、キッと睨まれて固まった。
「ガルグ先生!どうしてこんな奴をかばったんですか!死ぬつもりですか!」
「い、いや。俺は、魔法を弾くのも防ぐのも戦場で慣れてるし……」
「そういう慣れだとか油断だとかが一番危ないんですよ!
大体貴方は自分の頑丈さを過信しすぎです!私に自分の身体を大事にしろって言う前に!自分の身体を大事にしなさい!」
「そ、それは確かに。だけどな。ああするしかなかっ……」
「黙りなさい!馬鹿!」
「はい!ごめんなさい!」
初めてヒースに馬鹿って言われた!思わず背筋が伸びる。ヒースは泣きじゃくりながら俺の胸元をボカボカ殴り出した。
「本当に馬鹿!死んだらどうするんですか!ガルグ先生の馬鹿ー!」
「わ、悪かった!俺が悪かったから落ち着いてくれ!」
流石は元騎士だ。力が強い。殴られた所が地味に痛い。
でも泣かれていることの方がずっと痛い。
安心させたくて抱きしめた。胸元にヒースの顔が埋まり、シャツが濡れていく。
「ごめん。心配させて悪かった。俺が悪かった」
「も……もうこんな危ないことしないで下さい……。あ、貴方が死んだら私は生きていけない……」
痛々しい声に、胸がギュッと締め付けられた。だが。
「……危ないことをしないって約束は出来ない。ヒースや生徒たちを守るためなら、俺はこれからも身体を張る」
俺の言葉に強張った背中を撫でた。どうか伝わって欲しいと願いながら。
「だけど死なない。必ず生き延びる。ヒースの元に帰ってくる。約束するよ」
「うう~……ひっく……本当に?ほ、本当に死にませんか?」
ヒースが顔を上げる。病室の時みたいに涙と唾液と鼻水まみれなのに、やっぱり綺麗だった。俺の愛しい人は、本当に美しい。
「ああ。絶対に死なない。だからヒース……ヒース先生、もう泣かないでくれ。そんなに泣いたら目が溶けてしまうよ」
「ぐすっ……ヒースでいいです。ヒースって呼んで、あ、あと……ひっく!うええ……!なみだ、止められな……ううっ!」
「わかった。好きなだけ泣いていい」
あの時みたいに、ハンカチで顔を拭う。ヒースはされるがままだ。
しばらくして、ヒースは落ち着いてきた。それでも涙はポロポロこぼれる。
「……わ、私。ずっと寂しかったんです。母がいなくなって、私を心から愛してくれる人はいなくなった」
ヒースの母親。俺の知らない過去について気になるが、その話は後だ。途切れ途切れの言葉を聞き逃さないよう耳を澄ませる。
「父に愛してもらいたくて努力した。弟のことも大切にした。でも、全部無駄だった。……貴方だけだったんです。私をこんなに慈しんでくれたのは」
「……俺はそんな綺麗な奴じゃない。下心まみれでヘタレで情け無いオークだぞ」
「知ってますよ。そんな事。でも、私を大切にしてくれた。蔑まれていた私を助けて、話を聞いてくれて、綺麗だと言ってくれた。貴方が私の心を何度救ったか。もう数えきれない。
そんな貴方だから、私は何されてもよかったし、何でもしたくなった。
私も貴方が大切で綺麗な人だと思ったから」
ヒースの言葉が、驚くほど真っ直ぐに伝わった。
「貴方は私の全てなんです。だから死なないで下さい」
ああ、こんなに強く激しく想われていたのか。
知らなかった。いや、知ろうとしなかった。俺は本当に馬鹿野郎だ。
「わかった。約束する。俺はヒースを置いて逝かない。
ヒースを愛しているから」
紫の瞳が真ん丸になって、口がぽかんと開かれた。
紅潮した頬を両手で包む。頬骨の当たる感触、目元の皺を愛しく思う。
「ほ、本当に?」
「ああ。俺はヒースが好きだ。愛してる。ずっと一緒にいて欲しい。俺の花嫁になってくれ」
「……はい!私も貴方を愛してます!貴方の花嫁になります!」
俺たちは力いっぱい抱きしめあった。どこからか、祝福の声や拍手が聞こえた気がした。
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!
「おめでとうー!」
◆◆◆◆◆
まるで最終話のようですが、まだまだ続きます
俺は全身を強化し、水の鞭を引きちぎって走った。
キイィーン!
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ヒースの弟の首に刃が届く寸前、俺の左腕を挟んで止めたのだ。
「ヒース!落ち着け!こんな奴のために罪を犯すな!」
叫びながら、俺は内心でホッとした。
腕にかなりの衝撃が走っているが、なんとか無傷だ。
凄まじい威力だった。咄嗟に左腕だけ集中して強化してよかった。
もしそうしていなければ、弟の首ごと刈り取られていただろう。
しかし安心した俺と違って、ヒースの顔は絶望に染まった。
「ひっ!?……あああっ!ガルグ先生!ガルグ先生!嫌だ死なないで下さい!ごめんなさい!貴方に斬りかかるなんて!」
バシャン!
絶叫と共に、水魔法が全て解除される。ヒースは俺に飛びつくようにして、怪我の有無を確かめた。
「あああああ!嫌だ嫌だ嫌だ死なないで下さい!お願いだから!」
ヒースは錯乱して、魔法を防いだ俺の左腕をさする。その手に手を重ねて笑いかけた。
「大丈夫だ。傷なんて一つもついてない。俺は戦場帰りのオークだぜ?魔法を弾くのも防ぐのもお手のものだ」
「よ、よかった……」
ほろほろと涙がこぼれる。手で拭おうとしたが、キッと睨まれて固まった。
「ガルグ先生!どうしてこんな奴をかばったんですか!死ぬつもりですか!」
「い、いや。俺は、魔法を弾くのも防ぐのも戦場で慣れてるし……」
「そういう慣れだとか油断だとかが一番危ないんですよ!
大体貴方は自分の頑丈さを過信しすぎです!私に自分の身体を大事にしろって言う前に!自分の身体を大事にしなさい!」
「そ、それは確かに。だけどな。ああするしかなかっ……」
「黙りなさい!馬鹿!」
「はい!ごめんなさい!」
初めてヒースに馬鹿って言われた!思わず背筋が伸びる。ヒースは泣きじゃくりながら俺の胸元をボカボカ殴り出した。
「本当に馬鹿!死んだらどうするんですか!ガルグ先生の馬鹿ー!」
「わ、悪かった!俺が悪かったから落ち着いてくれ!」
流石は元騎士だ。力が強い。殴られた所が地味に痛い。
でも泣かれていることの方がずっと痛い。
安心させたくて抱きしめた。胸元にヒースの顔が埋まり、シャツが濡れていく。
「ごめん。心配させて悪かった。俺が悪かった」
「も……もうこんな危ないことしないで下さい……。あ、貴方が死んだら私は生きていけない……」
痛々しい声に、胸がギュッと締め付けられた。だが。
「……危ないことをしないって約束は出来ない。ヒースや生徒たちを守るためなら、俺はこれからも身体を張る」
俺の言葉に強張った背中を撫でた。どうか伝わって欲しいと願いながら。
「だけど死なない。必ず生き延びる。ヒースの元に帰ってくる。約束するよ」
「うう~……ひっく……本当に?ほ、本当に死にませんか?」
ヒースが顔を上げる。病室の時みたいに涙と唾液と鼻水まみれなのに、やっぱり綺麗だった。俺の愛しい人は、本当に美しい。
「ああ。絶対に死なない。だからヒース……ヒース先生、もう泣かないでくれ。そんなに泣いたら目が溶けてしまうよ」
「ぐすっ……ヒースでいいです。ヒースって呼んで、あ、あと……ひっく!うええ……!なみだ、止められな……ううっ!」
「わかった。好きなだけ泣いていい」
あの時みたいに、ハンカチで顔を拭う。ヒースはされるがままだ。
しばらくして、ヒースは落ち着いてきた。それでも涙はポロポロこぼれる。
「……わ、私。ずっと寂しかったんです。母がいなくなって、私を心から愛してくれる人はいなくなった」
ヒースの母親。俺の知らない過去について気になるが、その話は後だ。途切れ途切れの言葉を聞き逃さないよう耳を澄ませる。
「父に愛してもらいたくて努力した。弟のことも大切にした。でも、全部無駄だった。……貴方だけだったんです。私をこんなに慈しんでくれたのは」
「……俺はそんな綺麗な奴じゃない。下心まみれでヘタレで情け無いオークだぞ」
「知ってますよ。そんな事。でも、私を大切にしてくれた。蔑まれていた私を助けて、話を聞いてくれて、綺麗だと言ってくれた。貴方が私の心を何度救ったか。もう数えきれない。
そんな貴方だから、私は何されてもよかったし、何でもしたくなった。
私も貴方が大切で綺麗な人だと思ったから」
ヒースの言葉が、驚くほど真っ直ぐに伝わった。
「貴方は私の全てなんです。だから死なないで下さい」
ああ、こんなに強く激しく想われていたのか。
知らなかった。いや、知ろうとしなかった。俺は本当に馬鹿野郎だ。
「わかった。約束する。俺はヒースを置いて逝かない。
ヒースを愛しているから」
紫の瞳が真ん丸になって、口がぽかんと開かれた。
紅潮した頬を両手で包む。頬骨の当たる感触、目元の皺を愛しく思う。
「ほ、本当に?」
「ああ。俺はヒースが好きだ。愛してる。ずっと一緒にいて欲しい。俺の花嫁になってくれ」
「……はい!私も貴方を愛してます!貴方の花嫁になります!」
俺たちは力いっぱい抱きしめあった。どこからか、祝福の声や拍手が聞こえた気がした。
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!
「おめでとうー!」
◆◆◆◆◆
まるで最終話のようですが、まだまだ続きます
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