【五章完結】サラリーマン、オークの花嫁になる

花房いちご

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第五章 元騎士、オークの花嫁になる

元騎士、オークの花嫁になる【19】

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 驚愕するフォーサイス。ヒースは皮肉たっぷりに告げた。

「ちなみに貴様の父親は、私がナーシサス男爵からどう扱われていたか知っていたぞ。
 パーティーで貴様が私に罵った後、貴様の父親が私に言ったのだ。『いい気味だ。穢らわしい慰み者はフォーサイス家には要らん。これからも精々、ナーシサス男爵閣下に媚を売って仕送りをしろ』と」

「父上がそんな事を!?どうして!?兄上はフォーサイス家の正当な長子なのに!」

 ヒースは皮肉な笑みを浮かべた。こんな嫌味ったらしい表情は初めて見た。そんな場合じゃないが、危険な色香にゾクッとする。

「貴様の父親にとって私は『好きでもない政略結婚相手との子』だ。貴様と、後妻である貴様の母親だけが家族で、私は忌々しい異物でしかない。貴様の前では取り繕っていたが、昔からそう扱われていた。
 ……本当に何も気づいてなかったのか。間抜けめ」

「……っ!そ、そんな……!」

 衝撃を受けるフォーサイス。俺も、今まで知らなかったヒースの過去を知って衝撃を受けた。あまりにも酷すぎる。
 支えたくて背中に片手を回し、もう片手でヒースの両手を握った。ヒースは俺に体重をかけて身を委ねた。

「私も間抜けだった。言うことを聞いて尽くせば、いつか家族として認められる。そう信じ込んでいた。
 貴様に対しても良き兄として接しようとした。兄弟として良い関係を築けていると信じていたし、貴様を守れるならと元男爵の責苦を耐えたが……。
 その結果が、貴様からの軽蔑と罵倒だ」

「あ、あれは!俺は何も知らなかったんだ!」

 知らないからってなんだ。気づけば口を挟んでいた。

「フォーサイスさん。知らなかったでは済まない。ヒースは貴方の言葉で生きる気力を無くして衰弱し、性奴隷として売られるところだったんだ」

 校長も口を挟んだ。

「フォーサイスさん。貴方は噂の真偽を確認したり、自分からヒース君に会いに行きましたか?ダフォデル侯爵領の周辺では、ナーシサス男爵の悪行は公然の秘密だったと聞いています。隣の領にいたのです。少し調べれば、正確な情報を知ることができたのではありませんか?」

「……!」

 フォーサイスの顔が紅潮し、すぐに血の気が引いて真っ青になった。羞恥と罪悪感で打ちのめされたのだろう。
 ヒースはそんなフォーサイスを冷ややかに見下ろし、柔らかな笑みを浮かべながら俺の胸元に頬を寄せた。

「ガルグ先生は恩人だ。性奴隷として売られかけた私を救ってくれた。それだけでなく、私に新しい人生を与えて愛して下さった。
 私はこの方と生きる。貴様も貴様の家族も要らない」

 フォーサイスは机に手をついて顔を上げ……ヒースの表情に諦めたのか、再びうつむき拳を握った。震える拳に、涙らしき雫が落ちる。

「わかり……ました。もう、ヒース卿にお帰り頂きたいとは申しません。暴言の謝罪も……謝罪のしようもございません」

 追い討ちをかけることになるが、もう一つ言っておかなければならいことがある。

「フォーサイスさん。貴方は謝罪しに来たと言っていたが、授業に乱入して無理矢理ヒースと話そうとしたそうだな。
 謝罪する態度ではないし、多くの者に迷惑をかけた」

 校長も頷く。

「その通りです。敷地内には正規の手続きをして入ったようですが、乱入を止めようとした警備員を魔法で威嚇しましたね。
 威嚇とはいえ、魔法で攻撃したのです。当たっていれば大怪我をしていました。立派な傷害罪です。生徒たちもさぞ怖かったでしょう」

 証言だけでなく映像記録もある。言い訳は不可能だ。
 フォーサイスは何か言いたげに口を開閉し、やがて俯いた。

「……仰る通りです。ご迷惑をおかけしました。これまでの暴言の数々も撤回いたします。お望みとあらば、緑鉄国の法の裁きをお受けいたします」

 俺と校長は顔を合わせて頷く。校内の出来事とはいえ、乱闘騒ぎを起こしたのだ。衛兵隊に報告するのが筋だろう。

 4人で衛兵隊の詰所にいき、バラバラに事情聴取を受けた。

 ムスカリ・ド・フォーサイスは、罰金と慰謝料の支払いと国外退去となった。

 ヒースが過剰防衛に問われないか心配だったが、フォーサイスがかなり乱暴に乱入していたこと、彼から生徒と警備員をかばって逃がしていたこともあり、軽い注意に留まった。

 俺も軍人を引退した癖に無茶し過ぎだと注意され、校長は見学者のチェックと警備の甘さをチクチクと責められた。仰る通りなので、大人しくご清聴したのだった。

 全員の事情聴取が終わる頃には、夕方の5時を回っていた。
 俺、ヒース、校長は帰っていいと言われたが、フォーサイスはこのまま留置所に入る。翌朝、国境まで移送されるそうだ。

「よかった。もう二度と会わなくて済みます」

 ヒースの顔は本当に晴れやかで、俺も校長も何も言えなかった。
 しかし、衛兵が帰ろうとした俺たちを引き留めた。フォーサイスが、ヒースに渡したい物があるという。

 ヒースは物凄く嫌そうな顔をしたが、衛兵隊からの心象をこれ以上悪くしないために応じた。もちろん俺も一緒だ。学校に帰る校長を見送ってから、取り調べ室に入る。

 中で座っていたフォーサイスが立ち、あの布に包まれた細長い荷物をヒースに差し出した。

「ヒース卿、ご足労頂きありがとうございます。重ねて申し訳ございません。本当は、真っ先にお渡しするべきでした」
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