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第五章 元騎士、オークの花嫁になる
元騎士、オークの花嫁になる【20】
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ヒースは荷物を掴み、ハッとした様子で布を取り払った。
派手ではないが、一目で良い物だとわかる剣が現れた。
柄と鞘は、ヒースの瞳に似た紫色。各所に嵌め込まれた青い宝石は魔石だろう。
この剣は恐らくヒースの騎士時代の……。
ヒースが呆然と剣を見つめて言った。
「私の剣……。壊されたはずでは……」
「ヒース卿の御同輩方が、密かに保管されていたそうです。
『主君を諌めることはおろか、ヒース卿を救う事も出来なかった。合わせる顔もないが、せめて愛剣だけは届けて欲しい』そう仰られていました。
剣だけで、鎧と馬は救えず済まないとも……」
「そんな……!彼らも男爵たちに脅されていた!酷い境遇にいた!殺された者たちもいる!なのに、私に薬や食事を届けてくれた者も、密かに鍛錬できるよう配慮してくれた者もいた!彼らに非などない!」
ヒースは叫び、剣を握りしめて目を閉じた。
長い間そうしていた。
様々な思い出や感情を消化していたのだろう。俺たちは、ただ見守った。
そして、再び開いた眼差しは何かを決意した様子だった。
シャリン!
瞬く間だった。ヒースは鞘から剣を抜き、フォーサイスに突きつけた。目で追うのがやっとの速さだ。
「……っ!」
フォーサイスが冷や汗をどっと流し、衛兵が止めようと前に出る。が、俺が阻む。ヒースの瞳には敵意も殺意もなかったから。
ふっと、その唇が弛む。
「確かに私の愛剣だ。刃に欠けも曇りもない。魔石も無事だ。
12年間、ただ保管するだけでも危険だったろうに。彼らは手入れまでしてくれたのだな」
そしてヒースは表情を改め、フォーサイスに告げた。
「ムスカリ・ド・フォーサイス。我が戦友たちに伝えよ。
ヒース・ド・フォーサイスは家と国を捨て、ただのヒースとなった。
もはや騎士ですらない私が、再び卿らと共に戦う日は来ないだろう。
しかし、私が今日までの友誼と恩を忘れることはない。緑鉄国を訪うことあらば、このヒースを遠慮なく頼られよ。と」
「はっ!はい!必ずお伝えします!」
フォーサイスはその場に跪いて誓った。
涼やかな音を立てて、剣が鞘に戻る。
「……ムスカリ。相変わらず魔法の発動が遅い。高速詠唱ができるようになれ。現場から12年も離れていた私に負けてどうする。
ただ、石の矢のコントロールは良くなったな」
「ヒース卿……」
「今後も騎士を名乗るなら精進するように」
「……っ!はい!ヒース卿の教えを忘れず、これからも精進いたします!」
ヒースは俺を伴い、取り調べ室から退出した。フォーサイスの泣き声がしばらく追いかけてきたが、一度も振り返らなかった。
「終わったな」
「はい。終わりました」
ヒースは微かに笑って、俺に寄りそっ……。
「2人そろって黄昏ている所すいませんがね。ちょっと別室に来やがれ下さい」
「注意直後に抜剣して人に刃を向けるとは、良い度胸じゃねえですか」
ヒースがフォーサイスに抜剣したことと、俺が衛兵の動きを阻んだことを、二人揃ってドチャクソ叱責されたのだった。
「「仰る通りです!ごめんなさい!」」
◆◆◆◆◆◆◆
衛兵隊の詰所から出ると完全に夜だった。なんとなくしんみりした空気を変えたくて、あえて明るく言った。
「腹が減ったなあ!今夜はなにを食いたい?俺は肉がいい!」
「そうですね!私も分厚い肉が食べたいです!」
ヒースも明るい笑顔を見せてくれた。で、馴染みの店に行って食べた。美味かったし会話も弾んで、たらふく食べて帰路についたのだが。
「……」
「……」
俺もヒースも、学校に近づくほどに言葉少なくなった。酒を飲んでないのに顔も赤い。
そう。帰り道になって、ようやく気づいたのだ。
今日、俺はヒースにプロポーズした。花嫁になって欲しいと言った。ヒースも即答で頷いてくれた。
教員舎に帰ったら、いつも通り2人っきりだ。しかも明日と明後日は休みだ。
つまり……初夜を迎えても問題ないのだ。
◆◆◆◆◆◆
学校の敷地内に入る。
教員舎までの並木道を並んで歩く。街灯と月光がヒースの金髪をキラキラと輝かせる。耳まで真っ赤な顔も含めて美しい。
見惚れていると、ヒースがつぶやいた。
「……あの、私、今夜したいです。貴方に抱いて欲しい」
いつもなら駄目だ!と怒鳴るところだが、もうそんな事は言えない。
「……俺も、ヒースを抱きたい。ずっと抱きたかった」
「……はい。知ってます」
手を握る。どちらともなく、指と指を絡め合う握り方になった。
教員舎の扉を開けて中に入る。俺たち以外の誰も入ってこないよう、しっかりと鍵をかけた。
派手ではないが、一目で良い物だとわかる剣が現れた。
柄と鞘は、ヒースの瞳に似た紫色。各所に嵌め込まれた青い宝石は魔石だろう。
この剣は恐らくヒースの騎士時代の……。
ヒースが呆然と剣を見つめて言った。
「私の剣……。壊されたはずでは……」
「ヒース卿の御同輩方が、密かに保管されていたそうです。
『主君を諌めることはおろか、ヒース卿を救う事も出来なかった。合わせる顔もないが、せめて愛剣だけは届けて欲しい』そう仰られていました。
剣だけで、鎧と馬は救えず済まないとも……」
「そんな……!彼らも男爵たちに脅されていた!酷い境遇にいた!殺された者たちもいる!なのに、私に薬や食事を届けてくれた者も、密かに鍛錬できるよう配慮してくれた者もいた!彼らに非などない!」
ヒースは叫び、剣を握りしめて目を閉じた。
長い間そうしていた。
様々な思い出や感情を消化していたのだろう。俺たちは、ただ見守った。
そして、再び開いた眼差しは何かを決意した様子だった。
シャリン!
瞬く間だった。ヒースは鞘から剣を抜き、フォーサイスに突きつけた。目で追うのがやっとの速さだ。
「……っ!」
フォーサイスが冷や汗をどっと流し、衛兵が止めようと前に出る。が、俺が阻む。ヒースの瞳には敵意も殺意もなかったから。
ふっと、その唇が弛む。
「確かに私の愛剣だ。刃に欠けも曇りもない。魔石も無事だ。
12年間、ただ保管するだけでも危険だったろうに。彼らは手入れまでしてくれたのだな」
そしてヒースは表情を改め、フォーサイスに告げた。
「ムスカリ・ド・フォーサイス。我が戦友たちに伝えよ。
ヒース・ド・フォーサイスは家と国を捨て、ただのヒースとなった。
もはや騎士ですらない私が、再び卿らと共に戦う日は来ないだろう。
しかし、私が今日までの友誼と恩を忘れることはない。緑鉄国を訪うことあらば、このヒースを遠慮なく頼られよ。と」
「はっ!はい!必ずお伝えします!」
フォーサイスはその場に跪いて誓った。
涼やかな音を立てて、剣が鞘に戻る。
「……ムスカリ。相変わらず魔法の発動が遅い。高速詠唱ができるようになれ。現場から12年も離れていた私に負けてどうする。
ただ、石の矢のコントロールは良くなったな」
「ヒース卿……」
「今後も騎士を名乗るなら精進するように」
「……っ!はい!ヒース卿の教えを忘れず、これからも精進いたします!」
ヒースは俺を伴い、取り調べ室から退出した。フォーサイスの泣き声がしばらく追いかけてきたが、一度も振り返らなかった。
「終わったな」
「はい。終わりました」
ヒースは微かに笑って、俺に寄りそっ……。
「2人そろって黄昏ている所すいませんがね。ちょっと別室に来やがれ下さい」
「注意直後に抜剣して人に刃を向けるとは、良い度胸じゃねえですか」
ヒースがフォーサイスに抜剣したことと、俺が衛兵の動きを阻んだことを、二人揃ってドチャクソ叱責されたのだった。
「「仰る通りです!ごめんなさい!」」
◆◆◆◆◆◆◆
衛兵隊の詰所から出ると完全に夜だった。なんとなくしんみりした空気を変えたくて、あえて明るく言った。
「腹が減ったなあ!今夜はなにを食いたい?俺は肉がいい!」
「そうですね!私も分厚い肉が食べたいです!」
ヒースも明るい笑顔を見せてくれた。で、馴染みの店に行って食べた。美味かったし会話も弾んで、たらふく食べて帰路についたのだが。
「……」
「……」
俺もヒースも、学校に近づくほどに言葉少なくなった。酒を飲んでないのに顔も赤い。
そう。帰り道になって、ようやく気づいたのだ。
今日、俺はヒースにプロポーズした。花嫁になって欲しいと言った。ヒースも即答で頷いてくれた。
教員舎に帰ったら、いつも通り2人っきりだ。しかも明日と明後日は休みだ。
つまり……初夜を迎えても問題ないのだ。
◆◆◆◆◆◆
学校の敷地内に入る。
教員舎までの並木道を並んで歩く。街灯と月光がヒースの金髪をキラキラと輝かせる。耳まで真っ赤な顔も含めて美しい。
見惚れていると、ヒースがつぶやいた。
「……あの、私、今夜したいです。貴方に抱いて欲しい」
いつもなら駄目だ!と怒鳴るところだが、もうそんな事は言えない。
「……俺も、ヒースを抱きたい。ずっと抱きたかった」
「……はい。知ってます」
手を握る。どちらともなく、指と指を絡め合う握り方になった。
教員舎の扉を開けて中に入る。俺たち以外の誰も入ってこないよう、しっかりと鍵をかけた。
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