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本編
七話 フェイ・ホンファン 前編
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アレクサンドラは山程のドレスと装飾品を作らせ、己を磨き上げさせた。
「ドレスはもっと刺繍を増やして。胸元はもっと大胆でいいわ。
ちょっと!髪飾りは特に華やかにしてって言ってるでしょう!私のこの美しい髪を引き立たせるのよ!」
「もっと丁寧にマッサージしてよ!痛いわよ!口答えする気!?鞭を持って来なさい!」
他にも様々な我儘を言っては叶えさせた。また、これまで以上に暴力的になった。
「冬の庭は地味で嫌ね。もっと目を楽しませる工夫をしなさい。これが限界?お前、私に口答えするの?」
「はあ?もっと野菜を食べろ?おだまり!料理が不味いせいよ!」
そして、クレマンを呼びつけていたぶったり、公式行事や私的な夜会や茶会などで影響力を増したり、母と共にオプスキュリテ辺境伯家に手紙を送り続けた。
アレクサンドラの手紙の宛先はベルナールだ。内容は妄想たっぷりの恋文だ。
母の宛先は、腹違いの妹でもあるオプスキュリテ辺境伯夫人だ。
内容は、オプスキュリテ辺境伯を説得し、アレクサンドラとベルナールの婚約許可を得よと命じるものだ。
しかし、いくら送っても返事はない。アレクサンドラとその母は激怒した。
「あの女!賤しい妾の子が!私の娘の役に立つ機会をくれてやったというのに!何様よ!」
「そうよ!失礼すぎるわ!きっとオプスキュリテ辺境伯に嫁いだから良い気になってるのよ!ベルナール様のお返事を隠してるのもこの女に違いないわ!」
アレクサンドラと母は口汚く罵り、また手紙を書くのだった。
そして時は流れ、再びあのデビュタントの夜会を迎えたのだった。
◆◆◆◆
デビュタントの夜会当日。
遠縁の付添いとして参加したアレクサンドラは、全身をベルナールの色で飾り立てていた。
ドレスは豊かな胸を強調させるため、襟ぐりが大胆に開いている。生地はベルナールの瞳を思わせるサファイアブルーで、ベルナールの髪を思わせる銀糸とダイヤモンドで刺繍してある。
アレクサンドラの金髪をまとめる髪飾りも同じ色だ。幾つもの大粒のサファイアで大輪の薔薇の形を作っている。
耳飾りと首飾りもサファイアで金具は銀。扇子もドレスと同じ青色だ。
そして、それらを身に纏うアレクサンドラは、誰よりも華やかで目立っていた。
自分以上に美しい者などこの世にいない。そう確信できる出来だ。
アレクサンドラが命じて参加させた取り巻きたちも、その美貌を褒め称えた。
「今宵のアレクサンドラ様は、いつも以上に華やかですわね。髪も肌も光り輝いていらっしゃる」
「本当に。男ならば誰でも魅了されます。私に婚約者がいなければ、跪いて愛を乞うところですよ」
「女でもうっとりしてしまいますわ」
「それにしても、青色とサファイアが良くお似合いですね」
「アレクサンドラ様は『黄金の薔薇』と讃えられて久しいですが、これからは『青薔薇の君』とお呼びしましょうか」
「『青薔薇の君』……悪くないわね」
(当然の評価ね。うふふ。周りも私に注目しているわ。褒め言葉があちこちから聞こえる。
『デビュタントの令息令嬢たちが霞んでいる』ですって!
これならベルナール様も、私の素晴らしさがお分かりになるわ!ああ!早くいらして!どうして最後の入場なのよ!)
ベルナールとその婚約者であるフェイ・ホンファンは一番最後の入場だ。
他国の貴族令嬢であり、次期オプスキュリテ辺境伯夫人であるホンファンを慮った順番である。
「我が国の高位貴族が最後を飾るべきだというのに。ヒトゥーヴァの娘は、どこまでも生意気ね」
「アレクサンドラ様の仰る通りです」
(しかも、ベルナール様がエスコートするのよ)
気に食わなかったが、いよいよこれまでの苦労が報われるのだ。アレクサンドラは苛立ちをおさえながら待った。
(ヒトゥーヴァの娘は、魔獣のように艶のない黒髪に血のような赤目の醜女。しかも、自ら魔獣を討伐する野蛮な女だという話だもの。見比べれば、どちらが上か良くわかるで……)
大きなざわめきが起き、そちらに気を取られる。
「オプスキュリテ辺境伯令息よ!今宵もなんて素敵……ああ、お隣の方……」
「噂の婚約者……あの方が……なんてこと……」
貴族たちの囁き声。やはりホンファンは醜いのだろうと、広げた扇子の下でほくそ笑む。
人混みの向こうから、ベルナールと彼がエスコートするホンファンらしき女が見える。
近づくのを悠々と待ち構えていた。
(ああ!ベルナール様!相変わらず凛々しい!いいえ、さらに美丈夫になってるわ!黒い礼服もいいわね!ベルナール様の銀髪と小麦色に近い肌色を引き立たせていてたまらない!
……で、隣がヒトゥーヴァの娘ね。どんな化け物じみた顔を……っ!)
アレクサンドラは、ベルナールに見惚れた後フェイ・ホンファンを見て……驚愕のあまり息を呑んで目を見開いた。
(な、なに!?なぜ!?は、話が違う!醜い化け物じゃない!)
「ドレスはもっと刺繍を増やして。胸元はもっと大胆でいいわ。
ちょっと!髪飾りは特に華やかにしてって言ってるでしょう!私のこの美しい髪を引き立たせるのよ!」
「もっと丁寧にマッサージしてよ!痛いわよ!口答えする気!?鞭を持って来なさい!」
他にも様々な我儘を言っては叶えさせた。また、これまで以上に暴力的になった。
「冬の庭は地味で嫌ね。もっと目を楽しませる工夫をしなさい。これが限界?お前、私に口答えするの?」
「はあ?もっと野菜を食べろ?おだまり!料理が不味いせいよ!」
そして、クレマンを呼びつけていたぶったり、公式行事や私的な夜会や茶会などで影響力を増したり、母と共にオプスキュリテ辺境伯家に手紙を送り続けた。
アレクサンドラの手紙の宛先はベルナールだ。内容は妄想たっぷりの恋文だ。
母の宛先は、腹違いの妹でもあるオプスキュリテ辺境伯夫人だ。
内容は、オプスキュリテ辺境伯を説得し、アレクサンドラとベルナールの婚約許可を得よと命じるものだ。
しかし、いくら送っても返事はない。アレクサンドラとその母は激怒した。
「あの女!賤しい妾の子が!私の娘の役に立つ機会をくれてやったというのに!何様よ!」
「そうよ!失礼すぎるわ!きっとオプスキュリテ辺境伯に嫁いだから良い気になってるのよ!ベルナール様のお返事を隠してるのもこの女に違いないわ!」
アレクサンドラと母は口汚く罵り、また手紙を書くのだった。
そして時は流れ、再びあのデビュタントの夜会を迎えたのだった。
◆◆◆◆
デビュタントの夜会当日。
遠縁の付添いとして参加したアレクサンドラは、全身をベルナールの色で飾り立てていた。
ドレスは豊かな胸を強調させるため、襟ぐりが大胆に開いている。生地はベルナールの瞳を思わせるサファイアブルーで、ベルナールの髪を思わせる銀糸とダイヤモンドで刺繍してある。
アレクサンドラの金髪をまとめる髪飾りも同じ色だ。幾つもの大粒のサファイアで大輪の薔薇の形を作っている。
耳飾りと首飾りもサファイアで金具は銀。扇子もドレスと同じ青色だ。
そして、それらを身に纏うアレクサンドラは、誰よりも華やかで目立っていた。
自分以上に美しい者などこの世にいない。そう確信できる出来だ。
アレクサンドラが命じて参加させた取り巻きたちも、その美貌を褒め称えた。
「今宵のアレクサンドラ様は、いつも以上に華やかですわね。髪も肌も光り輝いていらっしゃる」
「本当に。男ならば誰でも魅了されます。私に婚約者がいなければ、跪いて愛を乞うところですよ」
「女でもうっとりしてしまいますわ」
「それにしても、青色とサファイアが良くお似合いですね」
「アレクサンドラ様は『黄金の薔薇』と讃えられて久しいですが、これからは『青薔薇の君』とお呼びしましょうか」
「『青薔薇の君』……悪くないわね」
(当然の評価ね。うふふ。周りも私に注目しているわ。褒め言葉があちこちから聞こえる。
『デビュタントの令息令嬢たちが霞んでいる』ですって!
これならベルナール様も、私の素晴らしさがお分かりになるわ!ああ!早くいらして!どうして最後の入場なのよ!)
ベルナールとその婚約者であるフェイ・ホンファンは一番最後の入場だ。
他国の貴族令嬢であり、次期オプスキュリテ辺境伯夫人であるホンファンを慮った順番である。
「我が国の高位貴族が最後を飾るべきだというのに。ヒトゥーヴァの娘は、どこまでも生意気ね」
「アレクサンドラ様の仰る通りです」
(しかも、ベルナール様がエスコートするのよ)
気に食わなかったが、いよいよこれまでの苦労が報われるのだ。アレクサンドラは苛立ちをおさえながら待った。
(ヒトゥーヴァの娘は、魔獣のように艶のない黒髪に血のような赤目の醜女。しかも、自ら魔獣を討伐する野蛮な女だという話だもの。見比べれば、どちらが上か良くわかるで……)
大きなざわめきが起き、そちらに気を取られる。
「オプスキュリテ辺境伯令息よ!今宵もなんて素敵……ああ、お隣の方……」
「噂の婚約者……あの方が……なんてこと……」
貴族たちの囁き声。やはりホンファンは醜いのだろうと、広げた扇子の下でほくそ笑む。
人混みの向こうから、ベルナールと彼がエスコートするホンファンらしき女が見える。
近づくのを悠々と待ち構えていた。
(ああ!ベルナール様!相変わらず凛々しい!いいえ、さらに美丈夫になってるわ!黒い礼服もいいわね!ベルナール様の銀髪と小麦色に近い肌色を引き立たせていてたまらない!
……で、隣がヒトゥーヴァの娘ね。どんな化け物じみた顔を……っ!)
アレクサンドラは、ベルナールに見惚れた後フェイ・ホンファンを見て……驚愕のあまり息を呑んで目を見開いた。
(な、なに!?なぜ!?は、話が違う!醜い化け物じゃない!)
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