【完結】ヒトゥーヴァの娘〜斬首からはじまる因果応報譚〜

花房いちご

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番外編

二人の出会い 中編

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「王国の狗め。我が祖先の敵め。お前など姫様に相応しくない。さっさと帰れ」

 美花メイファの護衛が憎悪を込めて言う。ベルナールの護衛三人が殺気立ち武器に手をかけた。
 ベルナールも衝撃を受けたが、護衛たちを手振りで止める。

(ここで怒りを露わにしては、飛頭蛮フェイトゥマンとの友好にヒビが入る!)

 代わりに激怒したのは美花メイファだ。

「お黙り!オプスキュリテ辺境伯家は我がフェイ家の盟友!無礼は許さない!」

「なっ!?ひ、姫様?私は姫様のために申し上げたのです!姫様とて、このような男は嫌って……」

「お前ごときが私の何を知っていると言うの!お前たち!この無礼者を取り押さえなさい!」

 美花の言葉と共に護衛たちが男を捕らえ、見合いは終わった。

 ベルナールは、最初に通された部屋に戻った。
 美花は怒りと動揺のあまり気が遠くなったそうで、この場にはいない。従者が気の毒なほど何度も謝罪するが、あの場ではっきりと男を叱責してくれたことに感謝した。

「美花殿にお大事にと、そしてどうか気に病まないで欲しいとお伝えしてくれ」

 ベルナールは、護衛と共にへレーネの迎えを待つ事になった。護衛たちは部屋の外に立ち、警戒する。

「若君、お静かにお待ちください。決して、この部屋から出ないように」

「念の為、何も口にしないようにして下さい」

「わかっている」

 飛家の家臣が無礼を働いたのだ。取り調べが終わるまでは、茶菓を口にしない方がいいだろう。
 ベルナールは椅子に座り、ぐったりと机に突っ伏した。

「疲れたな」

 先程の出来事はやはり衝撃だったし傷ついた。

(確かに、かつて俺たちと飛頭蛮は対立していた。何代も前の過去の話だと思っていたが、まだ恨んでいる者もいるのか。
 叔母上はこれを心配していたんだな)

 静かに時が流れる。黙って座っている間に、心も落ち着いてきた。

(……暇だ)

 大人しくしているべきだと分かっている。
 しかし、暇だった。そして不満だった。

(ここまで守らなくても、俺は大丈夫なのにな)

 視線を動かす。壁の一方に窓がある。丸く壁をくり抜き、木と硝子でできた飾り窓をはめてある。
 触ってみると、内側から開けることが出来た。
 昼過ぎの陽光を浴びて、庭園はキラキラと輝いている。

(この窓から出れそうだ。暇すぎるし、少しだけ庭園を歩くくらいはいいんじゃないかな?竹の森を近くで見てみたい)

 この時、護衛に声をかけるべきだった。
 そうすれば止められて、こんなことにはならなかった。後悔したがもう遅い。
 ベルナールは自分の実力を思い上がりすぎていたし、油断していた。



 ◆◆◆◆◆◆



「ウオオオオーン!ウオオン!ガウ!」

 虎に似た中型魔獣は、ベルナールがいるクヌギの木に何度も体当たりしたり、爪で切りつけている。
 どうやら魔法で体を硬化させているらしく、がっしりしたクヌギの木はおろか、周りの竹も大きく揺れている。

 ーーーザワザワ!バキッ!バァン!ーーー

 激しい葉ずれの音、竹が割れて跳ね上がる音がひっきりなしに響く。

「うわああ!た、助けて!」

 ベルナールはクヌギの木にしがみつき、死の恐怖に怯えている。怖くて歯の根が合わない。
 ベルナールは魔獣に襲われた瞬間、咄嗟に魔法で攻撃した。左前脚を大きく傷つけたが、致命傷には程遠い。しかもその時の傷は、どんどん治っていっている。
 力の差が歴然過ぎて、ベルナールの頭の中は己の死の予感と混乱でいっぱいだ。
  
(ここは邸宅の敷地内だろ?!なんで魔獣が居るんだ!それに王国語と東の隣国語両方で叫んでるのに誰も来ない!)

 その頃、護衛たちは異常事態に気付いて竹林に向かっていたが、間に合わない距離だった。
 ベルナールは助からない。そのはずだった。だが……。

「い、嫌だ。し、死にたくない……!助けて!誰か助けてくれ!」

「じゃあ、もうちょっと頑張って!」

「へ?」

 可憐な声がした。ベルナールのすぐ近くだ。

「東の隣国語……うわ!」

 視線を向けると、黒髪赤目の少女の頭部が浮いていた。黒髪は結いあげられていて、綺麗なかんざしが刺してある。

「き、君、誰?飛頭蛮の子?」

(でも、飛頭蛮って夜しか頭を外せないんじゃなかったっけ?叔母上がそう言ってた)

 疑問に思うベルナールだったが「それは後!話を聞いて!」と、叫ばれて口を閉じた。

「私があの虎もどきを引きつけるから、その隙に木から降りて逃げて。急いでね!」

「え?で、でも君が危ない……」

「私は大丈夫だから!早く!」

 それから少女の頭部は大活躍した。
 ビューン!と、風を鳴らして飛んでいく。

「ほら!こっちに来い!間抜けな虎め!動きが遅いよ!」

「グルルッ!ガウッ!」

 少女の頭部は、魔獣を挑発し、翻弄し、とうとう引きつけることに成功した。
 そして少女の頭部は、ヒュウン!と、竹林をって遠くへ飛ぶ。魔獣はそれを追っていく。
 ベルナールはこの隙にと木から降り、走った。薄暗い竹林から光さす方へ。

「若君!ベルナール様!どこですか!?」

「ここだ!ここにいる!」

 無事、護衛の一人と合流する。安心して気が遠くなりそうだったが、踏ん張った。

(助かった!だけど、あのままではあの子が危ない!)

「少女が魔獣を引きつけて助けてくれた!まだ襲われているかもしれない!お前が倒せ!来い!」

「ええ?!ちょっ?!若君ー!?待ってくださいいいいい!」

 ベルナールは、折れた竹や枝葉で傷だらけになりながら走った。

「音がする!こっちだ!……なっ!?」

 そこでベルナールは信じられない光景を見た。

 ーーーゴオオオオオ!ーーー

「ギャオオ!ガオ!」

 少女の頭部が口から、少女のものらしき胴体が手から炎を出し、魔獣を攻撃している。

(どういうことだ?飛頭蛮は首が離れている間、胴体は動かせないはず。それに口から火炎を吐く魔法なんてあるのか?……いや、そんな場合じゃない!)

 魔獣は苦しんではいるが、堅牢な毛皮は炎を弾いている。
 少女の頭部も胴体も疲労からか動きが悪い。

 このままでは少女は死んでしまう。

(でも俺も攻撃すれば!)

 覚悟を決めた時、少女がベルナールに気づいた。頭部が炎を止めて驚く。

「っ!?ちょっと!逃げてなかったの!?」

「君!そのまま攻撃を続けて!……風の精霊よ我に力を!」

 風魔法で竜巻を放つ。少女の炎を纏い、増幅し、魔獣を巻き上げ焼いていった。

「グギアアアアアアア!」

 断末魔の悲鳴が竹林に響く。しかし魔獣は死なない。必死にもがき、炎の竜巻から逃れていく。

「くそ!もう一度、魔法を!」

「だ、駄目、私もう……」

 少女の頭部と胴体は力無く地面に落ちてしまった。

「魔力切れか!……そのままじっとしててくれ!」

 ベルナールは跳躍し、少女の胴体と頭部を抱きしめる。

「ガルルルッ!」

 魔獣は炎の竜巻から逃れ二人を襲おうとし……。

「若君!お下がりください!」

「ギャオオン!」

 声と共に魔獣が両断された。追いついた護衛が剣で切り裂き、絶命させたのだ。
 自分も少女も無事だ。

「よ、よかった……」

 ベルナールは、今度こそ意識を失った。

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