【完結】ヒトゥーヴァの娘〜斬首からはじまる因果応報譚〜

花房いちご

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番外編

二人の出会い 後編

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 その後は、当然ながら大騒ぎとなった。

 屋敷の奥でベルナールは治療を受け、へレーネと護衛たちから厳しく叱責された。

「お前に何かあれば、友好関係にヒビが入るどころではない。お前はオプスキュリテ辺境伯家のみならず、辺境伯領の全てを危険にさらした。フェイ家と飛頭蛮フェイトゥマンたちにも多大な迷惑をかけた。
 帰ったら罰を与える。覚悟するのだな」

おっしゃる通りです。処罰を受け入れます。飛家と俺を助けてくれた少女にもお詫びをさせて頂きたいです。
 俺が考え無しだったせいで、庭園を荒らし彼女を危険にさらしてしまいました」

 へレーネはしばし考えるそぶりを見せ、ベルナールにたずねた。

「ベルナール。あの少女をどう思った?」

「どう?とは?勇敢で、見ず知らずの俺を助けてくれた恩人です。火魔法の使い手でもありますね。威力はともかく操作は巧みです。今後、さらに成長するかと」

(それに可愛い子だったな。あれ?なんだか顔が熱いな?なんでだ?)

 へレーネは重ねて問うた。

「そうか。
 ところで、飛頭蛮が頭部を外せるのは夜だけのはず。なのにあの少女は昼でも頭部を外せるし、頭部が外れた後の胴体を自在に動かせる。おまけに、口から炎を吐く魔法を使える。
 彼女はただの飛頭蛮ではない。恐ろしくないか?」

(恐ろしい?あの子が?何を言ってるんだ!)

 ベルナールはカッとなって叫んだ。

「恐ろしくないです!見ず知らずの俺を助けてくれた!強くて優しい子です!それにとっても可愛い女の子です!」

「な……!……あははははは!そうか!可愛い女の子か!」

 へレーネは目を丸くして絶句し、弾けたように笑い出した。
 護衛たちも苦笑している。「お父君と同じく強い女性がお好きだな」「血は争えない」などと言いながら。

「ベルナール。お前、彼女と婚約する気はないか?そうすれば、飛家への詫びと恩返しにもなるぞ」

「え?」

「彼女は飛紅芳ホンファンという。飛家の四女だ。そして、飛頭蛮の【先祖返り】でもある」

 へレーネによると、飛頭蛮の中には稀に【普通の飛頭蛮より頭部や胴体を自在に動かせ、口から火炎を吐くなど強力な魔法を使える者】が、誕生する。
 彼らは【先祖返り】と呼ばれ、尊重されるのだが……。

「母親の飛夫人は気弱な方だ。自分たちと違う娘に対して恐怖してしまった。他にも恐怖する者、腫れ物のように扱う者、神のように崇拝する者がいて、彼女を深く傷つけた。だから彼女は、竹林にある離れに引きこもっていたんだ」

 竹林の前にあった家のことだろう。納得した。

(なるほど。あそこに住んでいたから、俺が魔獣に襲われている事に気づいたんだな)

「お前はオプスキュリテ辺境伯家嫡男だ。その婚約者になれば、妙な輩への抑止力になる」

「わかりました。紅芳殿がそれでいいなら、俺は構いません」

「……本当にいいのか?会ったばかりで、ほとんど話したこともない子だぞ」

 ベルナールは紅芳のことを思い浮かべる。確かに、どんな事を考えて、何が好きで嫌いかも知らない。
 紅芳の姉である美花メイファのように「良い人だけど合わない」と感じるかもしれない。
 だけど。
 ベルナールは自分の心を見つめながら言葉を紡いだ。

「会ったばかりですが、俺はあの子が好きです。結婚するなら紅芳殿がいい」

 へレーネは大爆笑し、護衛たちもはやし立てた。

 そして、実はベルナールの罰はそこまで重くないことを明かされた。

「ベルナールを侮辱した飛家の家人が、あの竹林に魔獣を隠していたのだ。
 しかも理由は、隙を見て私たちを襲わせるためだったそうだ」

「そこまで俺たちオプスキュリテを、人間を憎んでいるのですか……」

「さて、それはどうかな。……ともかく、これは飛家にとって大きな過失だ。お前が侮辱される騒動が起きたのに、庭園に見張りがいなかったことと合わせてな。
 しかしお前が勝手に出歩いたあげく、魔獣に襲われて庭を荒らし、飛家の令嬢を危険にさらした。
 今回の騒動は【飛家の過失は大きいが、オプスキュリテにも過失があった】ということに出来る。
 お互いの過失を相殺するので、飛家の支払う賠償は少なく済むし、今の関係を維持できるだろう」

 それは良いことなのだろうか?疑問が顔に出てたのか、へレーネは補足した。

「オプスキュリテは飛家との対等な関係を望んでいる。どちらか一方が上に立った場合、再び対立する恐れがあるからだ。
 それこそ、あの愚かな家人のような者が増えるだろうしな」

「そういうものですか」

「やはりお前は、政治に関してはからっきしだな。人の機微にも疎い」

「うっ。申し訳ございません」

 自覚してはいるので耳が痛い。

「まだ10歳、いや、もう10歳でこれではな……だから美花殿を候補に選んだのだが……。
 紅芳殿に期待するが、お前も精進するように。
 今回は上手く処理できたが、今後もそうとは限らない
 教育体制を見直し、さらに厳しくするよう伝えるからな」

「はい。母上。紅芳殿を守るためにも鍛錬します!」

「身体と魔法以外も鍛えろと言ってるんだ!この馬鹿息子!」

 へレーネは再びベルナールを叱りつけたのだった。


◆◆◆◆◆



 翌日。飛家にて、ベルナールたちを歓待する宴が開かれた。
 長いテーブルを挟んで両家に分かれ、椅子に座る形だ。
 へレーネ曰く、こちらの様式に寄せてくれたのだという。細やかな気遣いだ。
 ナイフとフォークも用意されているが、下手でも箸と匙を使え。口に合わなくてもよく食べろ。と指示された。これも気遣い、いや、政治だそうだ。

 一連の騒動は、両者合意の上で無かったことになっている。

 この宴は内外に対し【飛家とオプスキュリテ辺境伯家の関係は良好だ。お互いを尊重している】と示す意図があるのだという。

(何となくわかる気はするけど……。やっぱり俺は、大人になっても母上ほど政治が上手くはなれそうもないな。母上曰く、父上のような『優しすぎる性格ではないからマシ』ではあるらしいけど)

 考えながら宴の料理を食べ、飛家の当主夫妻と話す。

(跡取りの泰竜タイロン殿は事後処理のために不在だが、紅芳殿がいる。嬉しいが……)

 紅芳はベルナールの向かいに座っている。だが目が合わないし、口数も少ない。
 先ほど挨拶とお礼を言ったが、その時も寡黙だった。

(初めて食べる料理ばかりだけど美味い。御当主様がたの話も面白い。
 だけど、紅芳殿とも話したい。……向かいにいるのに視線が合わない。あの態度は、俺との婚約を嫌がってるのか?だとしたら悪いことをした。
 歳下の少女にかばわれるような男は嫌なのだろうか?)

 ベルナールは不安で仕方なかった。
 その表情に気づいたのか、飛家当主夫人飛玉蓮ユウレンがベルナールに話しかけた。

「ベルナール殿。本当に美花が婚約者でなくてよろしいのですか?昨日は紅芳の恐ろしい姿を見たそうですが……」

 当主の叱責が飛ぶ。

「玉蓮!ベルナール殿は紅芳を望んだのだぞ!余計なことを言うな!」

「貴方、いま聞かなくてどうしますか。
 紅芳の血のような赤い目は不吉ですし、他とは違う恐ろしい力を持っているのよ。嫁いでから疎まれるようなことがあれば、その方が不幸でしょう」

 どうやら玉蘭は、紅芳を恐れると同時に心配しているらしい。ベルナールは正直に答えることにした。
 紅芳はベルナールとの婚約が嫌かもしれないが、自分の思いが誤解されるのは嫌だ。

「紅芳殿の瞳は血かルビーのように鮮やかな赤ですね。美しい色だと思います。
 力に関しては頼もしいばかりです。紅芳殿は、中型魔獣に一歩も引かずに戦っていました。尊敬します。
 それに、とても可愛らしくて美しい方です」

「あ、貴方には、娘がそう見えるのですか?」

「はい。私は生まれて初めて女性を可愛いと思いました。ぜひ、紅芳殿を妻に迎えたいのです」

「どうして?」

 可憐な声に目を向ける。紅芳は、こぼれそうなほど目を見開いてベルナールを見つめていた。

「どうして貴方は、私が怖くないの?」

「理由はわかりません。ひたすら可愛い方だと思います」

「へ?ひ、ひたすら可愛い?」

 ポッと頬を染める様が愛くるしい。ベルナールは胸がギュッとした。

「逆に聞きますが、なぜ可愛らしい貴女を怖がる必要があるのですか?
 身体や力が他と違うというなら、そもそも貴女がたは飛頭蛮で、私たちは人間だ。
 貴女がたからすれば、私たちは別の生き物だ。化け物といってもいいでしょう。
 でも、貴女は私を恐れていない。そうでしょう?」

「え?は、はい。怖くない、です」

「よかった。私も年齢の割には強いので、よく怯えられるのです」

「確かにすごい風魔法を使っていらっしゃいましたね」

「あ、ありがとうございます」

 紅芳に褒められて舞い上がりそうだが、理性でねじ伏せた。

「それに、私は人の心の機微がよくわからないのです。
 特に女性の気持ちはさっぱりで、何故か良く泣かれます。正直言って母以外の女性は苦手です。興味もない。
 でも、貴女は苦手ではありません。むしろ好きです。そして私は、貴女の気持ちを分かりたいと思う」

 ベルナールは席を立ち、紅芳の側でひざまずいた。

「飛紅芳殿。どうか私と婚約、いえ、結婚して下さい。貴女を危険にさらした挙げ句、助けられた情け無い男ではありますが……」

「あれは貴方のせいではありません!それに令息様は私を助けて下さりました!情けなくないです!」

 立ち上がって言い募る紅芳。ベルナールは心があたたかくなった。いや、むしろ熱い。このまま燃え上がって灰になりそうだ!
 手を差し出して懇願する。

「では、私と結婚して下さい。お願いします。私は勇敢で強く美しい貴女が良いのです」

「は……はい」

 紅芳は頬を染めて手を取ってくれた。小さくて柔らかな感触の手だ。

(この手をずっと離したくない)

 ベルナールは心からそう思い、呆れ返ったへレーネに頭を叩かれるまで紅芳を見つめたのだった。
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