2 / 31
シルビアーナと茶番の王子様
しおりを挟む
(悪役令嬢ですって?クリスティアン殿下は現実と物語の区別もついていないの?ああ!まさかここまで教育が無駄になっていたなんて!)
悪役令嬢とは、近年の少女小説で流行っている用語だ。主人公の邪魔をする意地悪な令嬢を指しており、社交の一環でシルビアーナも把握している。
が、まさかこのような公的な場で叫ぶ者がいるとは。
(曲がりなりにも王族が……!ああ、気が遠くなりそう!)
シルビアーナが絶望していると、この場に相応しくない甘ったれた声がした。
「ねぇ、クリスぅ。そんなに怒鳴っちゃ怖いよぉ。シルビアーナ様もお可哀想だしぃ、早く終わらせようよぉ」
クリスティアンに寄り添う少女、ローズメロウ・コットン男爵令嬢だ。サクランボのような唇を笑みの形にしてクリスティアンに擦り寄る。
チラリとシルビアーナを……流し目で挑発しながら。
カッ!と、シルビアーナの頭に血が昇る。
(私がどう思うかわかっていて貴女は!)
シルビアーナは表情を崩さぬよう気をつけつつ、扇の下で唇を噛む。
ローズメロウは嬉しそうに目を細めた。
クリスティアンはローズメロウを更に抱き寄せ、蕩けそうな甘い声で囁く。
「ああ、私のかわいいロージー。ロージーは素晴らしいな。優しいし、口うるさくないし、賢しらなことも言わないし、醜い嫉妬もしない。
おまけに、自分を虐げた【悪役令嬢】にも優しい。流石は私の最愛だ」
愛称呼び。しかも片手はローズメロウの片手と絡め合い、もう片手はローズメロウの腰を撫でるクリスティアン。目線は豊かな胸に釘付けだ。
(穢らわしい!触らないで!)
ギチリと扇にヒビが入る。怒り、失望、嫌悪よりも激しいこの感情は……嫉妬だ。
(先ほどから人前でなんと見苦しい!ここまで堕落された、いえ、成長できなかったのだわ!婚約から四年も学ぶ時間があったというのに!)
シルビアーナは激情に気が遠くなりつつ、努めて平静に聞こえるよう言葉を紡いだ。
「クリスティアン殿下、恐れながら申し上げます。私がコットン男爵令嬢を虐げた事実はございません」
「とぼけるな。私とロージーにしつこく『婚約者でもない異性に気安く触れたり、愛称で呼んではなりません』などと暴言を吐いていたではないか」
「人としての常識であって暴言では……」
「ええい!鬱陶しい!ともかく【悪役令嬢】の貴様とは婚約破棄だ!とっとと最果ての修道院にでも行くがいい!」
(そこまで仰りますか)
さらに騒然となる周囲とは逆に、シルビアーナは冷静さを取り戻す。
わずかに残っていた、クリスティアンに対する情が完全に消えたのだ。
(仕方ありません。私も最後のお役目を果たしましょう)
「クリスティアン殿下のお気持ちはわかりました。では、最後に確認させていただきたいことがございます」
「ふん!言い訳でもするつもりか?とっとと失せろ!衛兵!この悪役令嬢を……!」
「クリスぅ。最後なんだから聞いてあげなよぉ」
「ぐ……そ、そうだな。聞いてやろう。シルビアーナ!さっさと話せ!」
「かしこまりました」
(これが最後のチャンスですよ。殿下)
シルビアーナの黄金の瞳が強く輝き、美しい声が広間に響く。
「私どもの婚約は王命で結ばれたものです。また、私の進退についても殿下に決定権はございません。
先ほどからのご発言は、国王陛下の御了承と御裁可を受けてのものでしょうか?」
「父上の了承?裁可?はっ!本当に愚かだなシルビアーナは!」
クリスティアンは狂ったように高笑いし、シルビアーナを見下した。
「そんなものは不要だ!私の婚約者は私が決める!貴様とは婚約破棄だ!」
「キャハハ!そうよクリス!よく言ったわ!」
クリスティアンは堂々と宣言し、ローズメロウは勝ち誇ったように笑った。
(ああ、やはりこうなってしまいましたか。残念ですよ。殿下)
シルビアーナは沈黙し、冷めた眼差しを壇上に向ける。周囲のどよめきは大きくなっていく。
「殿下!発言をお許しください!」
ある老人が決意した。前マルロ侯爵。クリスティアンの教育係の一人だ。
クリスティアンはニヤリと嗤う。
「おお、お前は……誰だったか?まあいい。この悪役令嬢を罵りたいのだろう?発言を許す。皆の者も忌憚なく発言せよ!」
前マルロ侯爵は、失望の眼差しをクリスティアンに向けながら声を発した。
「臣下ではなく殿下の教師として発言します!殿下に尽くしたゴールドバンデッド公爵令嬢に対してなんたる暴言!今すぐ発言の撤回と謝罪をしなさい!」
「なっ!?」
(ああ、私の苦労を労って頂きありがとうございます)
シルビアーナの心が少し救われ、クリスティアンはまなじりを釣り上げた。
「な、なんだと貴様……!」
「おっしゃる通りです!殿下!お戯れが過ぎますぞ!」
クリスティアンが罵る前に、彼を諭そうとする者や罵倒する者が次々と現れていった。
(当然ですね)
シルビアーナは最早諦めの境地。他人事のように耳を傾ける。
「王命に反するとは何事ですか!いくら第二王子とて見過ごせませぬ!」
(ええ、ごもっともでございますわ)
「そもそも殿下は騙されています!コットン男爵家など存在しません!貴族名鑑のどこにも無い名前です!」
(あら?鋭い方もいらっしゃるわね)
「ええい!やかましい!ロージーは我が最愛!侮辱は許さん!王命がなんだ!父上は下民への機嫌取りしかできない暗愚ではないか!
王が下民を使い潰さずしてなんとする!父上の御代は終わりだ!私こそが王に相応しい!下らん医療政策だの下民支援だの減税だのは全て廃止する!」
あまりの傲慢に大半が絶句し、残りが悲鳴じみた怒声をあげ、シルビアーナは目を伏せた。
「さあ時は満ちた!我が真の忠臣どもよ!出でよ!こやつらを拘束するのだ!
我が国は生まれ変わる!暗愚の父も!あの賤しい第一王子も!その穢らわしい母親も!共に引きずりおろしてやる!」
己の願望を垂れ流すクリスティアン。止める者は誰もいない。
はずだったが。
「左様か。では、やってみるがいい」
「なっ……?ぐえっ!」
冷淡な声が響いたと同時。クリスティアンは背後から床に押さえつけられた。
「離せ無礼者!私を誰だと……ぐあああ!痛い!やめろ!離せえ!おい!不敬だぞ!命じたのは誰だ!」
クリスティアンを抑え跪かせているのは近衛騎士たち。
それを彼らに命じたのは。
「やかましいぞクリスティアン。余は発言を許しておらぬ。口を閉じろ」
「き、きさ……ひっ!ち、父上!」
クリスティアンを見下しながら前に出たのは、暗愚と罵られた国王その人。クリスティアンと同じ金髪碧眼。普段は柔和で優しげな顔と穏やかな声をしているが、今は様変わりしていた。
その顔は氷がごとく冷ややかで、声は重く厳しい。誰もが圧倒され口を閉じた。
ただ一人、情け無い声を出すクリスティアンを除いて。
「な、なぜ?外遊されて、るのでは……」
「貴様は口を閉じることすら出来んのか。……もういい。黙らせろ」
前半はクリスティアンに、後半は近衛騎士たちに向けて言った。クリスティアンは速やかに猿轡を噛まされる。
国王はクリスティアンから目を逸らし、広間中を睥睨したのち口を開いた。
「エデンローズ王国国王ライゼリアン・ライディーン・コーヴェルディルの名において宣言する!
第二王子クリスティアン・カルヴィーン・コーヴェルディルは王位継承権を剥奪し廃嫡とする!」
「はっ!」
シルビアーナ含む皆が跪いて恭順を示す。クリスティアンの目がこぼれ落ちそうなほど見開かれる。
国王は続けた。
「廃王子クリスティアンには、全ての罪を明らかにした上で沙汰を下す。連れて行け!」
「~~!~~!」
クリスティアンはもがくが、やはり近衛騎士の力には敵わない。あっさりと何処かへと連れて行かれてしまった。
国王は冷たく見送った後、壇上の脇へと声をかける。
「第一王子レオナリアン、ドラゴニア辺境伯令嬢ナターシャ、我が前に出よ」
「は!」
現れたのは、辺境にいるはずの第一王子とその婚約者である。
第一王子レオナリアンは、第一側妃ゆずりの銀髪と国王譲りの青い目を持つ美青年である。クリスティアンと違い、文武両道かつ功績豊かだ。婚約者とも仲睦まじいことで有名である。
「王太子は第一王子レオナリアン・バスティ・コーヴェルディルとする!異のある者は申し出よ!」
否やは一つもない。そう、一つもだ。
実に不自然なことに、最初から最後までクリスティアンの味方は一人も現れなかった。
この場にいる多くが不自然さに気づいている。しかし彼らは口を噤んだ。
王家の悩みの種であったクリスティアンを排除し、優秀なレオナリアンが王太子に指名された。
それはこの場にいる誰にとっても都合の良い結果なのだから。
国王は皆の反応に満足気に頷く。
「後はレオナリアンに任せる故、宴を楽しんでいってくれ」
柔らかく微笑む国王は壇上から下がる。
ほぼ同時に、シルビアーナは国王の侍従に話しかけられた。
「国王陛下がお呼びです。ご案内いたします」
「かしこまりました」
シルビアーナは侍従と共に広間を後にした。
最後に振り返ると、心配そうにこちらを見る友人知人と目が合う。先程の前マルロ侯爵もだ。
彼ら彼女らを安心させるため、シルビアーナは柔らかく微笑み会釈した。
(私は大丈夫です。ご心配なく)
彼ら彼女らの表情が和らいだのを見つつ、シルビアーナは広間を後にした。
その後、広間では王太子レオナリアンとその婚約者が改めて開会の挨拶を述べ、最初のダンスを踊った。
銀髪に青い目のレオナリアン、黒髪に赤い目のドラゴニア辺境伯令嬢ナターシャ。
似合いの二人の優雅なダンスに歓声が上がり、華やかな宴がはじまった。
貴族たちは先ほどの出来事で頭がいっぱいだったが、口と態度には出さない。
クリスティアンの味方、つまり後ろ盾にあたる者たちが一人もいなかった事と、「誰も知らない男爵家の令嬢」がいつの間にか消えていた事も全て……紳士淑女の笑みと扇の下に隠して踊るのだった。
悪役令嬢とは、近年の少女小説で流行っている用語だ。主人公の邪魔をする意地悪な令嬢を指しており、社交の一環でシルビアーナも把握している。
が、まさかこのような公的な場で叫ぶ者がいるとは。
(曲がりなりにも王族が……!ああ、気が遠くなりそう!)
シルビアーナが絶望していると、この場に相応しくない甘ったれた声がした。
「ねぇ、クリスぅ。そんなに怒鳴っちゃ怖いよぉ。シルビアーナ様もお可哀想だしぃ、早く終わらせようよぉ」
クリスティアンに寄り添う少女、ローズメロウ・コットン男爵令嬢だ。サクランボのような唇を笑みの形にしてクリスティアンに擦り寄る。
チラリとシルビアーナを……流し目で挑発しながら。
カッ!と、シルビアーナの頭に血が昇る。
(私がどう思うかわかっていて貴女は!)
シルビアーナは表情を崩さぬよう気をつけつつ、扇の下で唇を噛む。
ローズメロウは嬉しそうに目を細めた。
クリスティアンはローズメロウを更に抱き寄せ、蕩けそうな甘い声で囁く。
「ああ、私のかわいいロージー。ロージーは素晴らしいな。優しいし、口うるさくないし、賢しらなことも言わないし、醜い嫉妬もしない。
おまけに、自分を虐げた【悪役令嬢】にも優しい。流石は私の最愛だ」
愛称呼び。しかも片手はローズメロウの片手と絡め合い、もう片手はローズメロウの腰を撫でるクリスティアン。目線は豊かな胸に釘付けだ。
(穢らわしい!触らないで!)
ギチリと扇にヒビが入る。怒り、失望、嫌悪よりも激しいこの感情は……嫉妬だ。
(先ほどから人前でなんと見苦しい!ここまで堕落された、いえ、成長できなかったのだわ!婚約から四年も学ぶ時間があったというのに!)
シルビアーナは激情に気が遠くなりつつ、努めて平静に聞こえるよう言葉を紡いだ。
「クリスティアン殿下、恐れながら申し上げます。私がコットン男爵令嬢を虐げた事実はございません」
「とぼけるな。私とロージーにしつこく『婚約者でもない異性に気安く触れたり、愛称で呼んではなりません』などと暴言を吐いていたではないか」
「人としての常識であって暴言では……」
「ええい!鬱陶しい!ともかく【悪役令嬢】の貴様とは婚約破棄だ!とっとと最果ての修道院にでも行くがいい!」
(そこまで仰りますか)
さらに騒然となる周囲とは逆に、シルビアーナは冷静さを取り戻す。
わずかに残っていた、クリスティアンに対する情が完全に消えたのだ。
(仕方ありません。私も最後のお役目を果たしましょう)
「クリスティアン殿下のお気持ちはわかりました。では、最後に確認させていただきたいことがございます」
「ふん!言い訳でもするつもりか?とっとと失せろ!衛兵!この悪役令嬢を……!」
「クリスぅ。最後なんだから聞いてあげなよぉ」
「ぐ……そ、そうだな。聞いてやろう。シルビアーナ!さっさと話せ!」
「かしこまりました」
(これが最後のチャンスですよ。殿下)
シルビアーナの黄金の瞳が強く輝き、美しい声が広間に響く。
「私どもの婚約は王命で結ばれたものです。また、私の進退についても殿下に決定権はございません。
先ほどからのご発言は、国王陛下の御了承と御裁可を受けてのものでしょうか?」
「父上の了承?裁可?はっ!本当に愚かだなシルビアーナは!」
クリスティアンは狂ったように高笑いし、シルビアーナを見下した。
「そんなものは不要だ!私の婚約者は私が決める!貴様とは婚約破棄だ!」
「キャハハ!そうよクリス!よく言ったわ!」
クリスティアンは堂々と宣言し、ローズメロウは勝ち誇ったように笑った。
(ああ、やはりこうなってしまいましたか。残念ですよ。殿下)
シルビアーナは沈黙し、冷めた眼差しを壇上に向ける。周囲のどよめきは大きくなっていく。
「殿下!発言をお許しください!」
ある老人が決意した。前マルロ侯爵。クリスティアンの教育係の一人だ。
クリスティアンはニヤリと嗤う。
「おお、お前は……誰だったか?まあいい。この悪役令嬢を罵りたいのだろう?発言を許す。皆の者も忌憚なく発言せよ!」
前マルロ侯爵は、失望の眼差しをクリスティアンに向けながら声を発した。
「臣下ではなく殿下の教師として発言します!殿下に尽くしたゴールドバンデッド公爵令嬢に対してなんたる暴言!今すぐ発言の撤回と謝罪をしなさい!」
「なっ!?」
(ああ、私の苦労を労って頂きありがとうございます)
シルビアーナの心が少し救われ、クリスティアンはまなじりを釣り上げた。
「な、なんだと貴様……!」
「おっしゃる通りです!殿下!お戯れが過ぎますぞ!」
クリスティアンが罵る前に、彼を諭そうとする者や罵倒する者が次々と現れていった。
(当然ですね)
シルビアーナは最早諦めの境地。他人事のように耳を傾ける。
「王命に反するとは何事ですか!いくら第二王子とて見過ごせませぬ!」
(ええ、ごもっともでございますわ)
「そもそも殿下は騙されています!コットン男爵家など存在しません!貴族名鑑のどこにも無い名前です!」
(あら?鋭い方もいらっしゃるわね)
「ええい!やかましい!ロージーは我が最愛!侮辱は許さん!王命がなんだ!父上は下民への機嫌取りしかできない暗愚ではないか!
王が下民を使い潰さずしてなんとする!父上の御代は終わりだ!私こそが王に相応しい!下らん医療政策だの下民支援だの減税だのは全て廃止する!」
あまりの傲慢に大半が絶句し、残りが悲鳴じみた怒声をあげ、シルビアーナは目を伏せた。
「さあ時は満ちた!我が真の忠臣どもよ!出でよ!こやつらを拘束するのだ!
我が国は生まれ変わる!暗愚の父も!あの賤しい第一王子も!その穢らわしい母親も!共に引きずりおろしてやる!」
己の願望を垂れ流すクリスティアン。止める者は誰もいない。
はずだったが。
「左様か。では、やってみるがいい」
「なっ……?ぐえっ!」
冷淡な声が響いたと同時。クリスティアンは背後から床に押さえつけられた。
「離せ無礼者!私を誰だと……ぐあああ!痛い!やめろ!離せえ!おい!不敬だぞ!命じたのは誰だ!」
クリスティアンを抑え跪かせているのは近衛騎士たち。
それを彼らに命じたのは。
「やかましいぞクリスティアン。余は発言を許しておらぬ。口を閉じろ」
「き、きさ……ひっ!ち、父上!」
クリスティアンを見下しながら前に出たのは、暗愚と罵られた国王その人。クリスティアンと同じ金髪碧眼。普段は柔和で優しげな顔と穏やかな声をしているが、今は様変わりしていた。
その顔は氷がごとく冷ややかで、声は重く厳しい。誰もが圧倒され口を閉じた。
ただ一人、情け無い声を出すクリスティアンを除いて。
「な、なぜ?外遊されて、るのでは……」
「貴様は口を閉じることすら出来んのか。……もういい。黙らせろ」
前半はクリスティアンに、後半は近衛騎士たちに向けて言った。クリスティアンは速やかに猿轡を噛まされる。
国王はクリスティアンから目を逸らし、広間中を睥睨したのち口を開いた。
「エデンローズ王国国王ライゼリアン・ライディーン・コーヴェルディルの名において宣言する!
第二王子クリスティアン・カルヴィーン・コーヴェルディルは王位継承権を剥奪し廃嫡とする!」
「はっ!」
シルビアーナ含む皆が跪いて恭順を示す。クリスティアンの目がこぼれ落ちそうなほど見開かれる。
国王は続けた。
「廃王子クリスティアンには、全ての罪を明らかにした上で沙汰を下す。連れて行け!」
「~~!~~!」
クリスティアンはもがくが、やはり近衛騎士の力には敵わない。あっさりと何処かへと連れて行かれてしまった。
国王は冷たく見送った後、壇上の脇へと声をかける。
「第一王子レオナリアン、ドラゴニア辺境伯令嬢ナターシャ、我が前に出よ」
「は!」
現れたのは、辺境にいるはずの第一王子とその婚約者である。
第一王子レオナリアンは、第一側妃ゆずりの銀髪と国王譲りの青い目を持つ美青年である。クリスティアンと違い、文武両道かつ功績豊かだ。婚約者とも仲睦まじいことで有名である。
「王太子は第一王子レオナリアン・バスティ・コーヴェルディルとする!異のある者は申し出よ!」
否やは一つもない。そう、一つもだ。
実に不自然なことに、最初から最後までクリスティアンの味方は一人も現れなかった。
この場にいる多くが不自然さに気づいている。しかし彼らは口を噤んだ。
王家の悩みの種であったクリスティアンを排除し、優秀なレオナリアンが王太子に指名された。
それはこの場にいる誰にとっても都合の良い結果なのだから。
国王は皆の反応に満足気に頷く。
「後はレオナリアンに任せる故、宴を楽しんでいってくれ」
柔らかく微笑む国王は壇上から下がる。
ほぼ同時に、シルビアーナは国王の侍従に話しかけられた。
「国王陛下がお呼びです。ご案内いたします」
「かしこまりました」
シルビアーナは侍従と共に広間を後にした。
最後に振り返ると、心配そうにこちらを見る友人知人と目が合う。先程の前マルロ侯爵もだ。
彼ら彼女らを安心させるため、シルビアーナは柔らかく微笑み会釈した。
(私は大丈夫です。ご心配なく)
彼ら彼女らの表情が和らいだのを見つつ、シルビアーナは広間を後にした。
その後、広間では王太子レオナリアンとその婚約者が改めて開会の挨拶を述べ、最初のダンスを踊った。
銀髪に青い目のレオナリアン、黒髪に赤い目のドラゴニア辺境伯令嬢ナターシャ。
似合いの二人の優雅なダンスに歓声が上がり、華やかな宴がはじまった。
貴族たちは先ほどの出来事で頭がいっぱいだったが、口と態度には出さない。
クリスティアンの味方、つまり後ろ盾にあたる者たちが一人もいなかった事と、「誰も知らない男爵家の令嬢」がいつの間にか消えていた事も全て……紳士淑女の笑みと扇の下に隠して踊るのだった。
32
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
あの日々に戻りたくない!自称聖女の義妹に夫と娘を奪われた妃は、死に戻り聖女の力で復讐を果たす
青の雀
恋愛
公爵令嬢スカーレット・ロッテンマイヤーには、前世の記憶がある。
幼いときに政略で結ばれたジェミニ王国の第1王子ロベルトと20歳の時に結婚した。
スカーレットには、7歳年下の義妹リリアーヌがいるが、なぜかリリアーヌは、ロッテンマイヤー家に来た時から聖女様を名乗っている。
ロッテンマイヤーは、代々異能を輩出している家柄で、元は王族
物語は、前世、夫に殺されたところから始まる。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました
小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」
二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。
第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。
それから二十年。
第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。
なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。
不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。
これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。
※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる