狼は腹のなか〜銀狼の獣人将軍は、囚われの辺境伯を溺愛する〜

花房いちご

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ファルロの献身【4】

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 ファルロは食事を続けながら、ラズワートに料理の感想を聞き出したり、賓客の庭園の設備に不便や不足がないかなど質問した。
 料理は全て好評だった。細やかな感想付きだったので、後で料理人に伝えてやる事にする。三年前も思ったが、ラズワートは食べるのが好きらしい。なかなか情熱的な言葉に嫉妬しそうになった。
 設備に関しては、まだ一晩しか過ごしていないが、特に気にかかる事はないらしい。少し安心した。食堂はともかく、他はゴルハバル帝国仕様のままだったから不安だったのだ。

「深窓の姫君でもあるまいし、貴殿は気を使いすぎだ」

 ラズワートは呆れ顔だ。遠征や魔獣狩りで野営も多かった。そこまで気を使わなくていいと言う。

「寝台にしろ、このテーブルと椅子にしろ、野宿とは雲泥の差だ。俺は快適すぎて人質だと言うことを忘れそうだが、そうなったら貴殿の責任だな」

 冗談めかして言うのに笑みを返す。

「その時は喜んで責任を取りましょう」

 本当にそうなればいいと願った。
 朝食を済ませ、茶を飲みながら今後について話す。

「冬の間はこのまま皇都に滞在します。指示がない限り、春の芽吹き後にダルリズに移動する予定です」

 周辺諸国との緊張は高まっているが、現時点では大きな戦の予定がない。ルフランゼ王国の侵略も人質交換によって無くなった。また、間も無く冬になる。大陸北部では、冬は戦争するには向かない季節だ。
 自然の風雪と、この季節に活発化したり飛来する魔獣たちは脅威だった。皆、自分が凍らされたり雪に埋もれぬようにするので精一杯だ。戦どころではない。
 こういった事情があり、ファルロら将軍たちは冬の間は皇都にいる場合が多い。任地は配下に任せ、皇帝や上司同僚たちと交流を深めたり、官僚たちとの折衝を兼ねた会議を開いたり、書類仕事全般をこなしたりと、春に向けた準備をするのだ。
 ラズワートの件があったため、今年はいつもより早い滞在となった。だが特に問題はない。配下たちから悲鳴じみた手紙が届いたが無視した。若人に成長の機会を与えたのだ。
 春になれば任地に戻る。ラズワートもファルロに同行し、ダルリズ地方の屋敷に滞在する予定だ。

「俺が側にいることで、貴殿の威厳が損なわれないか心配だな」

「ご心配なく。私が貴方に執着していることも、貴方の前ではだらしない顔をするのも、すでに周知の事実ですから」

「……それは、大丈夫なのか?」

「お気になさらず。獣人、特に我々のような狼族が強敵に執着するのも、心酔した相手に対し好意を垂れ流しにするのも、昔からの習性ですから」

「わかった。もういい」

 ただの事実だったが、ラズワートはまた顔を赤らめた。ファルロは事実を述べただけだったので、首を傾げつつ話題を変える。

「私は参内することが多い身ですが、出来るだけ貴方と過ごしたい」

「……構わない」

「ありがとうございます。何かご要望はございませんか?」

 ラズワートはしばらく考えてから答えた。

「この国について学びたい。俺は戦に関する事以外は、この国について何も知らない。知りたいと思う」

「わかりました。私がいる時は私が、いない時はクロシュがお教えしましょう。役に立ちそうな本も用意しています」

 幸い、公用語は同じロマノ語だ。学習は難しくないだろう。

「感謝する。それと食事だが、ルフランゼ風でなくていい。作法に関してもだ。それも学びたい」

 ファルロに気を使っているのかと思ったが、単純にゴルハバル帝国の食事が口にあうらしい。宮廷に居た時も、与えられる美味に密かに感嘆していたという。しかし、故郷の料理が食べたくなる時もあるだろう。その時は遠慮なく伝えて欲しいと告げた。ラズワートは真面目な顔で頷く。

「貴殿も遠慮するな。貴殿が俺に敬意を抱くように、俺も貴殿に敬意を抱いている。俺が貴殿のために出来ることは何でもしよう」

 では、あまり誘惑しないで欲しい。ファルロは叫びかけて、なんとか堪えたのだった。
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