狼は腹のなか〜銀狼の獣人将軍は、囚われの辺境伯を溺愛する〜

花房いちご

文字の大きさ
41 / 65

ファルロと戦の季節【1】

 ファルロは今朝も、皇城に出仕するラズワートに付き添った。ジャルル王子たちの断罪から十日経つ。
 皇城へ通じる通りには、あちこちに水晶薔薇が飾られている。朝日を浴びて艶やかだ。ただよう香りも甘く優しい。

(ラズワートの慰めになればいいのだが)

 ファルロはそう祈りつつ、ラズワートを横目で眺めた。
 この十日間、ラズワートは執務を休んで『毒壺刑の間』に通っていた。皇城の地下には刑罰や拷問のための階層がある。『毒壺刑の間』はその階層にある部屋の一つで、今はジャルル達が放り込まれている。
 ラズワートは、ジャルル王子たちが苦しむ様を眺め、身体強化魔法をかけ直して生きながらえさせ、気まぐれに風の魔法でいたぶった。その顔には表情が無かった。ただ黙って眺めている。ファルロもまた、ただ黙ってそばにいた。

(ジャルル王子たちも、最近は反応が無くなってきました。精神が壊れてきたのでしょう。いい気味ですが、反応がある方がラズワートの溜飲が下がるでしょうか。心は救われるでしょうか)

 ファルロが考えている間に、皇城内に入った。ファルロは一応、目的地を確認した。

「ラズワート、今日もあちらへ?」

「もういい。飽きた」

 あっさりとした回答に面喰らうが、ラズワートの顔は穏やかだ。

「お前も忙しいのに付き合わせて悪かっ……いや、違う。そうじゃない」

 ラズワートは久しぶりに柔らかな笑みを浮かべ、ファルロを抱きしめた。ファルロはようやく気づいた。自分の身体がずっと強張っていたことに。

「ファルロ、心配をかけて悪かった。ずっとそばに居てくれてありがとう。俺はもう大丈夫だ」

 確かに心配していた。この十日間、ラズワートは鬱々としていたし、危うかった。どこかファルロの手の届かないところに行ってしまいそうで、恐ろしかった。

「構いません。気にしないでください。と、言いたいところですが駄目ですね。あんな下衆どもに、十日間も貴方の関心を奪われた。堪え難い屈辱ですよ」

 軽やかな笑い声が胸元で響く。どこか幼い口調でラズワートは謝った。

「うん。悪かったよファルロ。けど、お前以上に気になる奴なんていないから、そんな風に思うな」

 ファルロはラズワートをしっかりと抱きしめ返した。
 久しぶりの抱擁を堪能してから、『毒壺の間』を管理している処刑人に鍵を返した。身体強化魔法をかけ直さないので、間もなく全員死ぬだろうとの事だった。
 その後所定の手続きを経て、皇帝アリュシアンに謁見した。
 アリュシアンは壇上から、跪くラズワートとファルロに慈悲に満ちた眼差しを向けた。

「面を上げよ。さて、アールジュよ。たった十日でそなたの気は晴れたのか?」

 ラズワートは、試すような言葉に金混じりの青い目を向けた。その目には、凛とした強い輝きが戻っている。

「完全にとは申せませんが、区切りはつきました。陛下のご高配を賜り感謝の念に堪えません。非力な身ではございますが、御恩に報いるべく勤めます」

「うむ。頼もしい。復讐に酔う事も、復讐を果たして腑抜ける事もなかったか。良き番だなルイシャーン」

「はい!ラズワートは最高です!私の宝です!」

 ファルロはわざと明るく言った。

「ファルロ、控えろ。御前だぞ」

 ラズワートはたしなめたが、表情は柔らかい。

「睦み合うのは後にしろ。まあいい。そろそろ、あちらの外務大臣が知らせを受け取る筈だ」

 酷い怪我を負ったルフランゼ王国の外務大臣は、国境に滞在し続けていた。今ごろ第二王子ジャルルたちの代わりに、ゴルハバル帝国の官人たちが現れて肝を冷やしているだろう。持たされる書簡と鏡に記録されている映像の中身を知れば、卒倒するかも知れない。
 書簡は、ゴルハバル帝国からルフランゼ王国に対する和平の撤廃と宣戦布告だ。
 映像は、ジャルルの蛮行と末路を編集した記録映像だ。
 周辺諸国にも、似たような知らせを送っている。これで、ゴルハバル帝国とルフランゼ王国が和平を結ぶことも、友好関係を築くことも、永遠になくなった。

「ファルロ・ルイシャーン将軍。手筈通り、ダルリズ守護軍を率いてルフランゼ王国を攻略せよ」

「御意」

「ラズワート・アールジュ。卿はルイシャーンを補佐し、思うまま力を振るえ」

「御意」

「従う者には寛容を、逆らう者には死を与えよ。ただし、なるべく土地と民には傷をつけるな。余は無益な破壊と流血を好かぬ。せっかくの戦利品の価値が下がるからな」

 ファルロとラズワートは急ぎダルリズ地方に向かい、十万の兵を率いて進軍した。
 ただし、ほとんど戦にならなかった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

転生先は猫でした。

秋山龍央
BL
吾輩は猫である。 名前はまだないので、かっこよくてキュートで、痺れるような名前を絶賛募集中である。 ……いや、本当になんでこんなことになったんだか! 転生した異世界で猫になった男が、冒険者に拾われて飼い猫になるほのぼのファンタジーコメディ。 人間化あり、主人公攻め。

黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜

せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。 しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……? 「お前が産んだ、俺の子供だ」 いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!? クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに? 一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士 ※一応オメガバース設定をお借りしています

女神様の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界で愛を手に入れる。

にのまえ
BL
 バイト帰り、事故現場の近くを通ったオレは見知らぬ場所と女神に出会った。その女神は間違いだと気付かずオレを異世界へと落とす。  オレが落ちた異世界は、改変された獣人の世界が主体の乙女ゲーム。  獣人?  ウサギ族?   性別がオメガ?  訳のわからない異世界。  いきなり森に落とされ、さまよった。  はじめは、こんな世界に落としやがって! と女神を恨んでいたが。  この異世界でオレは。  熊クマ食堂のシンギとマヤ。  調合屋のサロンナばあさん。  公爵令嬢で、この世界に転生したロッサお嬢。  運命の番、フォルテに出会えた。  お読みいただきありがとうございます。  タイトル変更いたしまして。  改稿した物語に変更いたしました。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

騎士団長の秘密

さねうずる
BL
「俺は、ポラール殿を好いている」 「「「 なんて!?!?!?」」 無口無表情の騎士団長が好きなのは別騎士団のシロクマ獣人副団長 チャラシロクマ×イケメン騎士団長