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ファルロと戦の季節【2】
ファルロらダルリズ守護軍は、手筈通りアンジュール領に向かった。そして、そこで大歓迎を受けた。もちろん、一番歓迎されたのはラズワートだ。
国境を越えてすぐのところで、辺境軍は陣を張って待ち構えていた。
「ファルロ、まずは俺たちだけで行こう」
「わかりました」
騎竜に乗って陣の中に足を踏み入れたラズワートとファルロを、大勢の家臣たちが囲んだ。
「ラズワート様!ご無事でよかったです!例の将軍と結婚したんですよね?おめでとうございます!離婚して戻ってきて下さい!」
「馬鹿お前!それってこの将軍だろ?本人の前で言うな馬鹿!こっそり手引きできないだろうが!」
「おかえりなさい!お怪我は……おや?ちょっと太っ……体格が良くなりました?」
ラズワートは、気安い家臣たちとの再会に目元を和ませた。
「素直に太ったと言え。幸せ太りだから自慢してやるぞ。あとファルロとは結婚ではなく番になったのだ。どちらにせよアンジュールには戻らない。諦めろ」
悲鳴が上がるが、ラズワートは適当に流した。
「イオリート・ド・アンジュール殿はおられるか?拝謁させて頂きたいのだが」
「ラズワート様、家臣相手に殿と敬語は止めて下さいませ」
話しているうちに本人が来たらしい。ラズワートの従兄弟の名だ。ファルロは名前だけしか知らなかったが、黒髪、淡い菫色の目、ラズワートに似た鋭さを持つ顔を見て思い出す。三年、いや四年前の捕虜交換の時にゴルハバル帝国側の外務大臣と話していた下級官人だ。
「久しいなイオリート!壮健そうで何よりだ!」
「ラズワート様もお元気そうで何よりです。ルイシャーン将軍閣下もお久しゅうございます。改めてご挨拶させて頂きます。私はイオリート・ド・ヴァンルージュと申します。アンジュール領領主代行と辺境軍総司令官代行を兼任しております」
イオリートはことさら代行と、ヴァンルージュという言葉に力を入れた。話に聞いていた通り、アンジュール家を継ぐことを拒否しているからだろう。
ファルロは満面の笑みを浮かべ、最敬礼で挨拶を返した。よく通る声が平野に響き渡る。
「改めてご挨拶させて頂きます。私はファルロ・ルイシャーン。ラズワートの番で、生涯を共にする者です。申し訳ございませんが、私はラズワートを愛しています。一生、離しません」
あまりに露骨な言いように、イオリートは軽く目を見開き、周囲はまた悲鳴をあげた。ラズワートはにやりと笑う。
「おいファルロ、役職を言わない奴がいるか。……わかってるだろうが、俺もお前を離してやらないからな?」
「ええ、離さないで下さいね」
いつもの調子で甘く見つめ合って戯れる。が、第三者……イオリートの冷たい視線に固まった。
「仲がよろしいのはよく分かりました。さっさと戦の話をして下さい。私たちもこのまま合流し、混成軍を成して王都に進軍するんですよね?違うなら早く作戦内容を説明して下さい」
「合流で合っている。脱線して悪かった」
「申し訳ございませんでした」
イオリートの淡い菫色の目は、なかなかの威力だった。なるほど、ラズワートがアンジュール領と辺境軍を委ねられるわけだ。ファルロは納得した。
これは極端な例だが、その他にも多くの領地がゴルハバル帝国に恭順し、混成軍に加わっていった。
アンジュール領のように、初めからゴルハバル帝国に好意的な領もあったが、それ以上にファルロの作戦の効果が高かったためだ。
本隊が到達する前に、斥候たちが領内に侵入し、ジャルルの無礼と末路の映像を投影させたのだ。鏡に映った映像は、大きな壁さえあればどこでも拡大して再生出来る。
ジャルル王子の失態と悪名はすでに知れ渡っていた。その上、最期まで浅ましい姿をさらしていたと知り、国民のジャルル王子への畏怖は軽蔑に変わった。
しかも、映像の最後でアリュシアンはこう述べた。
「愚かな王侯貴族によって虐げられてきた民よ。誇り高く勤勉なルフランゼの民よ。耐える時は終わり、戦う時が来た。諸悪の権化たる王侯貴族を打倒せよ。さすれば余は、そなたらをゴルハバル帝国の民と認め、その生命と生活を保証しよう」
力無き民は力無きがゆえに、時代の変化と強者の気配に敏感である。
ルフランゼ王国の民、特に平民は王侯貴族を恐れ敬っていた。その王侯貴族の象徴とも言えるジャルル王子が無様をさらし、あっさりと死んだ。しかも、死に追いやったのはジャルル王子に冤罪を着せられて処分されたはずのラズワートであり、これから進軍してくるゴルハバル帝国だ。
たちまち、各地で王侯貴族に対する不満と憎しみが爆発した。圧政を敷いていた貴族は血祭りにあげられ、民たちは喜んでダルリズ守護軍の進軍を受け入れた。受け入れない場合は、なるべく土地や民を傷つけないように気をつけながら、逆らう者を皆殺しにした。各種の魔法兵器と身体強化魔法、物質強化魔法が大活躍した。一番容赦なく戦ったのは、やはり辺境軍の者たちだった。
家臣達が強化された剣で切り裂かれていく様を見て、ある領地の貴族が叫んだ。
「何故だ!同じルフランゼ人じゃないか!何故裏切った!」
普段は朗らかな辺境軍の騎士たちは、冷徹に返した。
「同じ?散々守らせておいて『用が済んだらケダモノ混じりはさっさと出て行け』と、言ったのは貴様らだろうが」
「全く。都合のいい時だけ同胞扱いされても不快なだけだ」
「ですよね。あっ!そいつ俺にやらせて下さい。王城勤めだった俺と弟を犯そうとした下衆です!生きたまま引き裂いてやる!」
こうして、進軍を開始して一月で北部全域が、次の半月で中央部と王都が、さらに次の一月で東部と西部が陥落したのだった。
国境を越えてすぐのところで、辺境軍は陣を張って待ち構えていた。
「ファルロ、まずは俺たちだけで行こう」
「わかりました」
騎竜に乗って陣の中に足を踏み入れたラズワートとファルロを、大勢の家臣たちが囲んだ。
「ラズワート様!ご無事でよかったです!例の将軍と結婚したんですよね?おめでとうございます!離婚して戻ってきて下さい!」
「馬鹿お前!それってこの将軍だろ?本人の前で言うな馬鹿!こっそり手引きできないだろうが!」
「おかえりなさい!お怪我は……おや?ちょっと太っ……体格が良くなりました?」
ラズワートは、気安い家臣たちとの再会に目元を和ませた。
「素直に太ったと言え。幸せ太りだから自慢してやるぞ。あとファルロとは結婚ではなく番になったのだ。どちらにせよアンジュールには戻らない。諦めろ」
悲鳴が上がるが、ラズワートは適当に流した。
「イオリート・ド・アンジュール殿はおられるか?拝謁させて頂きたいのだが」
「ラズワート様、家臣相手に殿と敬語は止めて下さいませ」
話しているうちに本人が来たらしい。ラズワートの従兄弟の名だ。ファルロは名前だけしか知らなかったが、黒髪、淡い菫色の目、ラズワートに似た鋭さを持つ顔を見て思い出す。三年、いや四年前の捕虜交換の時にゴルハバル帝国側の外務大臣と話していた下級官人だ。
「久しいなイオリート!壮健そうで何よりだ!」
「ラズワート様もお元気そうで何よりです。ルイシャーン将軍閣下もお久しゅうございます。改めてご挨拶させて頂きます。私はイオリート・ド・ヴァンルージュと申します。アンジュール領領主代行と辺境軍総司令官代行を兼任しております」
イオリートはことさら代行と、ヴァンルージュという言葉に力を入れた。話に聞いていた通り、アンジュール家を継ぐことを拒否しているからだろう。
ファルロは満面の笑みを浮かべ、最敬礼で挨拶を返した。よく通る声が平野に響き渡る。
「改めてご挨拶させて頂きます。私はファルロ・ルイシャーン。ラズワートの番で、生涯を共にする者です。申し訳ございませんが、私はラズワートを愛しています。一生、離しません」
あまりに露骨な言いように、イオリートは軽く目を見開き、周囲はまた悲鳴をあげた。ラズワートはにやりと笑う。
「おいファルロ、役職を言わない奴がいるか。……わかってるだろうが、俺もお前を離してやらないからな?」
「ええ、離さないで下さいね」
いつもの調子で甘く見つめ合って戯れる。が、第三者……イオリートの冷たい視線に固まった。
「仲がよろしいのはよく分かりました。さっさと戦の話をして下さい。私たちもこのまま合流し、混成軍を成して王都に進軍するんですよね?違うなら早く作戦内容を説明して下さい」
「合流で合っている。脱線して悪かった」
「申し訳ございませんでした」
イオリートの淡い菫色の目は、なかなかの威力だった。なるほど、ラズワートがアンジュール領と辺境軍を委ねられるわけだ。ファルロは納得した。
これは極端な例だが、その他にも多くの領地がゴルハバル帝国に恭順し、混成軍に加わっていった。
アンジュール領のように、初めからゴルハバル帝国に好意的な領もあったが、それ以上にファルロの作戦の効果が高かったためだ。
本隊が到達する前に、斥候たちが領内に侵入し、ジャルルの無礼と末路の映像を投影させたのだ。鏡に映った映像は、大きな壁さえあればどこでも拡大して再生出来る。
ジャルル王子の失態と悪名はすでに知れ渡っていた。その上、最期まで浅ましい姿をさらしていたと知り、国民のジャルル王子への畏怖は軽蔑に変わった。
しかも、映像の最後でアリュシアンはこう述べた。
「愚かな王侯貴族によって虐げられてきた民よ。誇り高く勤勉なルフランゼの民よ。耐える時は終わり、戦う時が来た。諸悪の権化たる王侯貴族を打倒せよ。さすれば余は、そなたらをゴルハバル帝国の民と認め、その生命と生活を保証しよう」
力無き民は力無きがゆえに、時代の変化と強者の気配に敏感である。
ルフランゼ王国の民、特に平民は王侯貴族を恐れ敬っていた。その王侯貴族の象徴とも言えるジャルル王子が無様をさらし、あっさりと死んだ。しかも、死に追いやったのはジャルル王子に冤罪を着せられて処分されたはずのラズワートであり、これから進軍してくるゴルハバル帝国だ。
たちまち、各地で王侯貴族に対する不満と憎しみが爆発した。圧政を敷いていた貴族は血祭りにあげられ、民たちは喜んでダルリズ守護軍の進軍を受け入れた。受け入れない場合は、なるべく土地や民を傷つけないように気をつけながら、逆らう者を皆殺しにした。各種の魔法兵器と身体強化魔法、物質強化魔法が大活躍した。一番容赦なく戦ったのは、やはり辺境軍の者たちだった。
家臣達が強化された剣で切り裂かれていく様を見て、ある領地の貴族が叫んだ。
「何故だ!同じルフランゼ人じゃないか!何故裏切った!」
普段は朗らかな辺境軍の騎士たちは、冷徹に返した。
「同じ?散々守らせておいて『用が済んだらケダモノ混じりはさっさと出て行け』と、言ったのは貴様らだろうが」
「全く。都合のいい時だけ同胞扱いされても不快なだけだ」
「ですよね。あっ!そいつ俺にやらせて下さい。王城勤めだった俺と弟を犯そうとした下衆です!生きたまま引き裂いてやる!」
こうして、進軍を開始して一月で北部全域が、次の半月で中央部と王都が、さらに次の一月で東部と西部が陥落したのだった。
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