【第1部、第2部完結】魔力無し令嬢ルルティーナの幸せ辺境生活

花房いちご

文字の大きさ
73 / 107
第2部

第2部 9話 アメティスト子爵家のお茶会 中編(モブ視点)

しおりを挟む
 セシル以外の招待客も、ルルティーナの参加に驚き注目している様子だ。
 それにしても、ルルティーナ、アメティスト子爵夫人、シトリン子爵夫人は仲が良さそうだ。

(それぞれデザインが大きく違うとはいえ、同じ青紫色のドレスを着ているしね。
あの青紫はアメティスト子爵家の色だわ。プランティエ伯爵のジュエリーに使われているのも、アメティスト子爵領の水晶でしょうね。独特の照りがあるもの)

 セシルは高位貴族の侍女をしていたので、ある程度の目利きが出来る。また、人間関係についてもそれなりに察することはできる。

 ルルティーナは安心した様子で義母と義姉と話し、招待客とも歓談している。
 アメティスト子爵夫人らは、ルルティーナの好きに話させつつフォローしている。時に、こっそり扇子の先でたしなめている様子だが優しく叩く程度だろう。

(アメティスト子爵夫人は厳しそうな方だけど、ゼルマンの言う通り良い人そうね。ゼルマンの働きを褒めて下さったし。プランティエ伯爵のことも、きっと大切にされている……いえ、決めつけるのは早いわ)

 色々と考えているセシルに、ふんわりと柔らかい笑みと声が話しかけた。

「ブランカ男爵夫人の生家は、蜂蜜とマロニエの名産であるシャタン男爵家でしたね」

「はい。プランティエ伯爵閣下に存じて頂けているとは、光栄でございます」

 セシルは内心で叫んだ。

(まさか、たかが男爵夫人の私の生家まで知ってるなんて!それに、蜂蜜はともかくマロニエを褒められたのは初めてよ。
 確かに実家のマロニエは評判がいいらしいけど、あくまで蜂蜜の味をよくするため植えたもの。産出量も多くないし有名ではないわ。
 シャタン男爵家がマロニエ畑を所有していることすら、ここにいる大半の方がご存知ないはず)

 ルルティーナの薄紅色の瞳がきらめき、頬がパッと染まった。

「私はポーション作成と生薬作成が好きです。そのため、薬草になる植物とその産地にも強い興味がございます。
 マロニエの実は解熱、関節痛、脚の痙攣などに効力があり、洗濯にも利用できる素晴らしいものです。
 特にシャタン男爵家が卸されているマロニエは、数が少ないですが質が良くて人気で……」

(え?なになに?物凄い早口なんですが?しかも楽しそう)

「ルルティーナ、薬草談義はそこまでになさい。皆様が驚かれていますよ」

「はっ!し、失礼いたしました。皆様とお会いできたことが嬉しくて、ついはしゃいでしまいました」

「い、いいえ、お気になさらず。実家の特産品を褒めて頂けて嬉しいですわ」

(なんだか可愛らしい方ね。表情も声も生き生きとされているし、とても虐げられているようには見えないわ。
 身なりもそう。指先まで整えられているし肌艶もいい……。
 アメティスト子爵夫人とシトリン子爵夫人もだわ。【夏星の大宴】でお見かけした時より10年は若返って見える)

 どちらも元から美しい女性ではあるが、明らかに違っていた。肌艶も張りも良い。小皺が完全に消えている。

(プランティエ伯爵の噂の真偽だけでなく、お二人の美容法についても知りたいわね。プランティエ伯爵が作成したポーションか、東方の品が関係していそうだけど。
 さて、どう探りを入れようかしら?)

 セシルが考えている内に会話は移り変わり、本日の茶菓子の話になった。
 まず、青髪が鮮やかなブリジット・ラピスラズリ侯爵が茶菓子を褒めた。大きくスリットの入ったシンプルなドレスと細身のズボンという、凛々しい女性である。
 彼女は侯爵家当主であり、王妃の近衛騎士を務めている女傑だ。この中で最も爵位が高く権力を持っている。

(ラピスラズリ侯爵閣下!素敵!)

 また、女性の憧れの的でもある。
 セシルは、中性的な顔立ちと鍛えられた体躯に惚れ惚れする。48歳という年齢も、彼女の凛々しい美しさに風格を与えていた。
 皆、ラピスラズリ侯爵の張りのある声に聞き惚れた。

「いつものことだが、シトリン子爵夫人の用意した茶菓子は本当に美味しいな。特にこの緑茶だ。緑茶とは思えない爽やかな風味が良い。シトリン商会で扱う新作かな?」

「恐れ入ります。ですが、このお茶は緑茶ではございません。ルルティーナが作った翡翠蘭ジェードオーキッドのハーブティーです」

「これが翡翠蘭だって!?」

 翡翠蘭は高額で取引される薬草だ。その茶は美容に良く、肌を若返らせて色艶を良くしてくれる。高位貴族御用達の高級品だ。
 ただし。

「確かに風味は翡翠蘭に似ているか?だが……」

「あの不快なえぐみがありませんよね」

「ええ、爽やかで口当たりが良い。苦味も抑えられているようです」

「色合いも綺麗ですわね。私が飲んでいる物は、もっと濁った色です」

 ラピスラズリ侯爵をはじめ、ナルシス伯爵夫人など高位貴族の面々が盛り上がる。
 翡翠蘭のハーブティーは、効能は素晴らしいが飲みづらいので有名だった。
 なお、セシルら下旧貴族の面々は内心で震えていた。

(翡翠蘭のハーブティー!輸入品である緑茶よりも高価なお茶じゃない!それを惜しげもなく茶会に出すなんて!アメティスト子爵家の財力は凄まじいわね!
 しかも、高位貴族の方々の口に合うハーブティーを作ったのはプランティエ伯爵ですって!?)

「皆様のお口にあって良かったです。お出しした甲斐がありますわ」

 ルルティーナは心から嬉しそうな顔になった。
 ブリジットは、野に咲くプリムローズのようなそれに目を細めながら問いかけた。

「プランティエ伯爵、この翡翠蘭のハーブティーは特殊な製法で作ったのかい?それとも翡翠蘭自体を品種改良したのかな?」

「製法は従来と殆ど変わらないかと存じます。特別なのは、魔境を浄化した土地で栽培した翡翠蘭を使っていることでしょうか」

(まっ!魔境だった場所で採れた薬草!?飲んで大丈夫なの?!魔獣になったりしないでしょうね!?)

「ほう!魔境だった土地で栽培したのか!」

 セシルはひきつった口元を扇子で隠したが、ラピスラズリ侯爵は興味深そうに身を乗り出した。
 ナルシス伯爵夫人も「まあ、貴重なお茶ですのね」と、微笑みながら口にしている。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます

さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。 望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。 「契約でいい。君を妻として迎える」 そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。 けれど、彼は噂とはまるで違っていた。 政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。 「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」 契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。 陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。 これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。 指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

赤貧令嬢の借金返済契約

夏菜しの
恋愛
 大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。  いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。  クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。  王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。  彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。  それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。  赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

もてあそんでくれたお礼に、貴方に最高の餞別を。婚約者さまと、どうかお幸せに。まぁ、幸せになれるものなら......ね?

当麻月菜
恋愛
次期当主になるべく、領地にて父親から仕事を学んでいた伯爵令息フレデリックは、ちょっとした出来心で領民の娘イルアに手を出した。 ただそれは、結婚するまでの繋ぎという、身体目的の軽い気持ちで。 対して領民の娘イルアは、本気だった。 もちろんイルアは、フレデリックとの間に身分差という越えられない壁があるのはわかっていた。そして、その時が来たら綺麗に幕を下ろそうと決めていた。 けれど、二人の関係の幕引きはあまりに酷いものだった。 誠意の欠片もないフレデリックの態度に、立ち直れないほど心に傷を受けたイルアは、彼に復讐することを誓った。 弄ばれた女が、捨てた男にとって最後で最高の女性でいられるための、本気の復讐劇。

処理中です...