【第1部、第2部完結】魔力無し令嬢ルルティーナの幸せ辺境生活

花房いちご

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第2部

第2部 9話 アメティスト子爵家のお茶会 中編(モブ視点)

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 セシル以外の招待客も、ルルティーナの参加に驚き注目している様子だ。
 それにしても、ルルティーナ、アメティスト子爵夫人、シトリン子爵夫人は仲が良さそうだ。

(それぞれデザインが大きく違うとはいえ、同じ青紫色のドレスを着ているしね。
あの青紫はアメティスト子爵家の色だわ。プランティエ伯爵のジュエリーに使われているのも、アメティスト子爵領の水晶でしょうね。独特の照りがあるもの)

 セシルは高位貴族の侍女をしていたので、ある程度の目利きが出来る。また、人間関係についてもそれなりに察することはできる。

 ルルティーナは安心した様子で義母と義姉と話し、招待客とも歓談している。
 アメティスト子爵夫人らは、ルルティーナの好きに話させつつフォローしている。時に、こっそり扇子の先でたしなめている様子だが優しく叩く程度だろう。

(アメティスト子爵夫人は厳しそうな方だけど、ゼルマンの言う通り良い人そうね。ゼルマンの働きを褒めて下さったし。プランティエ伯爵のことも、きっと大切にされている……いえ、決めつけるのは早いわ)

 色々と考えているセシルに、ふんわりと柔らかい笑みと声が話しかけた。

「ブランカ男爵夫人の生家は、蜂蜜とマロニエの名産であるシャタン男爵家でしたね」

「はい。プランティエ伯爵閣下に存じて頂けているとは、光栄でございます」

 セシルは内心で叫んだ。

(まさか、たかが男爵夫人の私の生家まで知ってるなんて!それに、蜂蜜はともかくマロニエを褒められたのは初めてよ。
 確かに実家のマロニエは評判がいいらしいけど、あくまで蜂蜜の味をよくするため植えたもの。産出量も多くないし有名ではないわ。
 シャタン男爵家がマロニエ畑を所有していることすら、ここにいる大半の方がご存知ないはず)

 ルルティーナの薄紅色の瞳がきらめき、頬がパッと染まった。

「私はポーション作成と生薬作成が好きです。そのため、薬草になる植物とその産地にも強い興味がございます。
 マロニエの実は解熱、関節痛、脚の痙攣などに効力があり、洗濯にも利用できる素晴らしいものです。
 特にシャタン男爵家が卸されているマロニエは、数が少ないですが質が良くて人気で……」

(え?なになに?物凄い早口なんですが?しかも楽しそう)

「ルルティーナ、薬草談義はそこまでになさい。皆様が驚かれていますよ」

「はっ!し、失礼いたしました。皆様とお会いできたことが嬉しくて、ついはしゃいでしまいました」

「い、いいえ、お気になさらず。実家の特産品を褒めて頂けて嬉しいですわ」

(なんだか可愛らしい方ね。表情も声も生き生きとされているし、とても虐げられているようには見えないわ。
 身なりもそう。指先まで整えられているし肌艶もいい……。
 アメティスト子爵夫人とシトリン子爵夫人もだわ。【夏星の大宴】でお見かけした時より10年は若返って見える)

 どちらも元から美しい女性ではあるが、明らかに違っていた。肌艶も張りも良い。小皺が完全に消えている。

(プランティエ伯爵の噂の真偽だけでなく、お二人の美容法についても知りたいわね。プランティエ伯爵が作成したポーションか、東方の品が関係していそうだけど。
 さて、どう探りを入れようかしら?)

 セシルが考えている内に会話は移り変わり、本日の茶菓子の話になった。
 まず、青髪が鮮やかなブリジット・ラピスラズリ侯爵が茶菓子を褒めた。大きくスリットの入ったシンプルなドレスと細身のズボンという、凛々しい女性である。
 彼女は侯爵家当主であり、王妃の近衛騎士を務めている女傑だ。この中で最も爵位が高く権力を持っている。

(ラピスラズリ侯爵閣下!素敵!)

 また、女性の憧れの的でもある。
 セシルは、中性的な顔立ちと鍛えられた体躯に惚れ惚れする。48歳という年齢も、彼女の凛々しい美しさに風格を与えていた。
 皆、ラピスラズリ侯爵の張りのある声に聞き惚れた。

「いつものことだが、シトリン子爵夫人の用意した茶菓子は本当に美味しいな。特にこの緑茶だ。緑茶とは思えない爽やかな風味が良い。シトリン商会で扱う新作かな?」

「恐れ入ります。ですが、このお茶は緑茶ではございません。ルルティーナが作った翡翠蘭ジェードオーキッドのハーブティーです」

「これが翡翠蘭だって!?」

 翡翠蘭は高額で取引される薬草だ。その茶は美容に良く、肌を若返らせて色艶を良くしてくれる。高位貴族御用達の高級品だ。
 ただし。

「確かに風味は翡翠蘭に似ているか?だが……」

「あの不快なえぐみがありませんよね」

「ええ、爽やかで口当たりが良い。苦味も抑えられているようです」

「色合いも綺麗ですわね。私が飲んでいる物は、もっと濁った色です」

 ラピスラズリ侯爵をはじめ、ナルシス伯爵夫人など高位貴族の面々が盛り上がる。
 翡翠蘭のハーブティーは、効能は素晴らしいが飲みづらいので有名だった。
 なお、セシルら下旧貴族の面々は内心で震えていた。

(翡翠蘭のハーブティー!輸入品である緑茶よりも高価なお茶じゃない!それを惜しげもなく茶会に出すなんて!アメティスト子爵家の財力は凄まじいわね!
 しかも、高位貴族の方々の口に合うハーブティーを作ったのはプランティエ伯爵ですって!?)

「皆様のお口にあって良かったです。お出しした甲斐がありますわ」

 ルルティーナは心から嬉しそうな顔になった。
 ブリジットは、野に咲くプリムローズのようなそれに目を細めながら問いかけた。

「プランティエ伯爵、この翡翠蘭のハーブティーは特殊な製法で作ったのかい?それとも翡翠蘭自体を品種改良したのかな?」

「製法は従来と殆ど変わらないかと存じます。特別なのは、魔境を浄化した土地で栽培した翡翠蘭を使っていることでしょうか」

(まっ!魔境だった場所で採れた薬草!?飲んで大丈夫なの?!魔獣になったりしないでしょうね!?)

「ほう!魔境だった土地で栽培したのか!」

 セシルはひきつった口元を扇子で隠したが、ラピスラズリ侯爵は興味深そうに身を乗り出した。
 ナルシス伯爵夫人も「まあ、貴重なお茶ですのね」と、微笑みながら口にしている。

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