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第2部
第2部 28話 お茶会の終焉
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私が叫んでから少し経ち、外が騒がしくなってきました。
女性の声と複数人の足音がこちらに向かってきます。
そして鍵が開く音がしてドアが開き、イオリリス侯爵令嬢の声が響きます。
「こちらです!プランティエ伯爵閣下とグルナローズ辺境伯令息様が不貞を……え?」
ドアを開けた瞬間、優しげな美貌が引きつりました。それはそうでしょう。
私と不貞をしているはずのグルナローズ辺境伯はおらず、別室に閉じ込められているはずのシアンがいるのですから。
しかも、この部屋は外から鍵がかかっていました。出入り口もなく密室のはずなのに。
私はソファに座ったまま、イオリリス侯爵令嬢たち駆けつけた方々に微笑みました。
あら?護衛騎士や侍女だけでなく、大物もいらっしゃるのね。
ちなみに、私もシアンも目にも止まらぬ早着替えで新しいドレス姿です。
私は白いドレスシャツやサファイアの装飾はそのままで、爽やかな青色のツーピースドレスを着ています。先ほどまで着ていたドレスよりも、よりゆったりしたデザインです。
シアンは淡い水色のドレスです。青紫のリボンで腰を結んでいて、より可憐な印象のデザインです。
流石はシアン。一体何処からドレスを用意したのか、早着替えはどういう技術なのかは謎です。
キッと、水色の瞳を吊り上げて怒鳴ります。
「イオリリス侯爵令嬢様!淑女の控室をノックもせずに開けるとはどういう了見ですか!」
「ええ、驚きました。皆様どうされたのですか?」
「え?あの、何故?ど、どうしてシアン様がこちらに?どうしてプランティエ伯爵と一緒にいるのよ!」
私の側で汚れたドレスを片付けていたシアンは、不思議そうな顔です。演技力すごい……。
「どうしてと仰られても……。お忘れですか?イオリリス侯爵令嬢様が、ルルティーナ様と私をこの部屋に案内されたではありませんか。
そんな事よりも、伯爵閣下に礼を失したことへの謝罪はないのですか?礼儀知らずはご友人だけではないようですね」
「う、嘘よ!そんなはずはないわ!パーレス様がいるはずよ!それにデルフィーヌはちゃんと薬を飲ま……」
「マリーアンヌ・イオリリス!口を慎みなさい!見苦しい!」
叩きつけるように一喝したのは、イオリリス侯爵令嬢と共に駆けつけたサフィリス公爵夫人です。
艶やかなダークブロンド、スターサファイアの瞳。
30歳とまだお若い身で、サフィリス公爵と共に一族と派閥をまとめている女傑です。
また、王妃陛下の義妹でもあらせられます。
常に柔和なお顔は厳しく強張り、イオリリス侯爵令嬢を睥睨しました。
「マリーアンヌ。軽薄な言動は慎みなさい。己や周囲の品位を貶めるなら相応の罰を下します。
私とラピスラズリ侯爵は何度も忠告しました。貴女も心を入れ替えると誓い、問題を起こさなくなりました。
故に王妃陛下はお茶会のホストを任せ、私は招待客の急な変更に応じたのです。
だというのに、参加者に茶をかけるような無作法者達を招待したばかりか、虚言で私のお茶会を中断させて連れ回し、さらには重ねてプランティエ伯爵閣下に礼を失しご迷惑をおかけするなんて……」
サフィリス公爵夫人は、怒りからか悲しみからか身体を震わせ、イオリリス侯爵令嬢を見下ろしました。
「だ、騙してなんか……」
「言い訳は結構。今回の件と貴女の素行について、イオリリス侯爵に抗議し適切な処罰を求めます。
今までのようにお咎めなしとはいきませんよ!」
「そ、そんな……」
イオリリス侯爵令嬢は崩れ落ちてしまいました。サフィリス公爵夫人の侍女が連れて行きます。
サフィリス公爵夫人は、イオリリス侯爵家の侍女と護衛騎士たちにも別室で待機するよう命じます。
そして彼らが去ってから私に頭を下げました。
「プランティエ伯爵。この度はご迷惑をおかけしました」
「お気になさらず。イオリリス侯爵令嬢については友人になれず残念ですが、彼女の今後に関してはお任せいたします。こちらから賠償や謝罪を求めることはございません」
私からは以上です。ですが少し確認したいことがあります。慎重に言葉を選びました。
「サフィリス公爵夫人。今回の件、ご満足頂けましたでしょうか?」
サフィリス公爵夫人は頭を上げ、凄みのある笑みを浮かべました。
「ええ。私共の問題は解決いたしました。プランティエ伯爵のご協力と寛容な御心に感謝いたします。ラピスラズリ侯爵も満足でしょう」
なるほど。この反応。そしてイオリリス侯爵令嬢の言葉。
サフィリス公爵夫人とラピスラズリ侯爵は、以前からイオリリス侯爵令嬢とあの男の関係を知っていたのですね。
私を貶めようと企んでいたことも。
「マリーアンヌは、淑女にあるまじき行いを重ねていました。その行いを隠し通すなり、利用して家と派閥に利益をもたらす強かさがあれば別でしたが……」
確かに。今回の件がなくとも、イオリリス侯爵令嬢は問題を起こしていたでしょう。
その内容によっては、サフィリス公爵家派閥はもとより王妃陛下の威信に関わります。
「マリーアンヌに甘かったイオリリス侯爵も、これで考えを改めるでしょう。そうでなければ二人とも……。
うふふ。ここから先は、言わぬが花ですわね」
「左様でございますわね。ほほほ……」
き、貴族怖いですううう!早くミゼール領に帰りたい!ポーション作りたい!薬の勉強したい!
サフィリス公爵夫人は、ふわっとした優しい笑みを浮かべました。
いつもの柔和なお顔です。
「マリーアンヌは度重なる失態に気を病んで退出し、彼女のお茶会は終わりました。
貴女はこのまま私のお茶会においでなさい」
そういう筋書きなのですね。ここであったことも、全て無かったことになるのでしょう。
「かしこまりました。他の参加者はどうされますか?」
「マリーアンヌと同じ症状の令嬢は別室に。そうでない令嬢はスフェーヌ侯爵令嬢が引き受けます」
なるほど。同じ症状。つまりパーレスに誑かされて言いなりになっていた方々ですね。
私にお茶をかけた方もそうなのでしょう。
他の方々は、私の友人でもあるイザベル・スフェーヌ侯爵令嬢のお茶会に参加。なるほどです。
イザベルさんは王太子殿下の婚約者。有能な方ですから問題ありませんね。
それはそうと、あの方は大人しく拘束されているのでしょうか?
パーレスの愛人で、イオリリス侯爵令嬢と結託して私を陥れようとしたあの方……。
ポーションを光らせた私を睨みつけ、媚薬を飲ませたデルフィーヌ・アザレ伯爵令嬢は。
◆◆◆◆◆◆
ここまで閲覧頂きありがとうございます。まだまだ物語は続きます。明日は夕方に更新予定です。
お気に入り登録、エール、コンテスト投票、いいね、感想、レビュー等反応頂ければ幸いです。
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「こちらです!プランティエ伯爵閣下とグルナローズ辺境伯令息様が不貞を……え?」
ドアを開けた瞬間、優しげな美貌が引きつりました。それはそうでしょう。
私と不貞をしているはずのグルナローズ辺境伯はおらず、別室に閉じ込められているはずのシアンがいるのですから。
しかも、この部屋は外から鍵がかかっていました。出入り口もなく密室のはずなのに。
私はソファに座ったまま、イオリリス侯爵令嬢たち駆けつけた方々に微笑みました。
あら?護衛騎士や侍女だけでなく、大物もいらっしゃるのね。
ちなみに、私もシアンも目にも止まらぬ早着替えで新しいドレス姿です。
私は白いドレスシャツやサファイアの装飾はそのままで、爽やかな青色のツーピースドレスを着ています。先ほどまで着ていたドレスよりも、よりゆったりしたデザインです。
シアンは淡い水色のドレスです。青紫のリボンで腰を結んでいて、より可憐な印象のデザインです。
流石はシアン。一体何処からドレスを用意したのか、早着替えはどういう技術なのかは謎です。
キッと、水色の瞳を吊り上げて怒鳴ります。
「イオリリス侯爵令嬢様!淑女の控室をノックもせずに開けるとはどういう了見ですか!」
「ええ、驚きました。皆様どうされたのですか?」
「え?あの、何故?ど、どうしてシアン様がこちらに?どうしてプランティエ伯爵と一緒にいるのよ!」
私の側で汚れたドレスを片付けていたシアンは、不思議そうな顔です。演技力すごい……。
「どうしてと仰られても……。お忘れですか?イオリリス侯爵令嬢様が、ルルティーナ様と私をこの部屋に案内されたではありませんか。
そんな事よりも、伯爵閣下に礼を失したことへの謝罪はないのですか?礼儀知らずはご友人だけではないようですね」
「う、嘘よ!そんなはずはないわ!パーレス様がいるはずよ!それにデルフィーヌはちゃんと薬を飲ま……」
「マリーアンヌ・イオリリス!口を慎みなさい!見苦しい!」
叩きつけるように一喝したのは、イオリリス侯爵令嬢と共に駆けつけたサフィリス公爵夫人です。
艶やかなダークブロンド、スターサファイアの瞳。
30歳とまだお若い身で、サフィリス公爵と共に一族と派閥をまとめている女傑です。
また、王妃陛下の義妹でもあらせられます。
常に柔和なお顔は厳しく強張り、イオリリス侯爵令嬢を睥睨しました。
「マリーアンヌ。軽薄な言動は慎みなさい。己や周囲の品位を貶めるなら相応の罰を下します。
私とラピスラズリ侯爵は何度も忠告しました。貴女も心を入れ替えると誓い、問題を起こさなくなりました。
故に王妃陛下はお茶会のホストを任せ、私は招待客の急な変更に応じたのです。
だというのに、参加者に茶をかけるような無作法者達を招待したばかりか、虚言で私のお茶会を中断させて連れ回し、さらには重ねてプランティエ伯爵閣下に礼を失しご迷惑をおかけするなんて……」
サフィリス公爵夫人は、怒りからか悲しみからか身体を震わせ、イオリリス侯爵令嬢を見下ろしました。
「だ、騙してなんか……」
「言い訳は結構。今回の件と貴女の素行について、イオリリス侯爵に抗議し適切な処罰を求めます。
今までのようにお咎めなしとはいきませんよ!」
「そ、そんな……」
イオリリス侯爵令嬢は崩れ落ちてしまいました。サフィリス公爵夫人の侍女が連れて行きます。
サフィリス公爵夫人は、イオリリス侯爵家の侍女と護衛騎士たちにも別室で待機するよう命じます。
そして彼らが去ってから私に頭を下げました。
「プランティエ伯爵。この度はご迷惑をおかけしました」
「お気になさらず。イオリリス侯爵令嬢については友人になれず残念ですが、彼女の今後に関してはお任せいたします。こちらから賠償や謝罪を求めることはございません」
私からは以上です。ですが少し確認したいことがあります。慎重に言葉を選びました。
「サフィリス公爵夫人。今回の件、ご満足頂けましたでしょうか?」
サフィリス公爵夫人は頭を上げ、凄みのある笑みを浮かべました。
「ええ。私共の問題は解決いたしました。プランティエ伯爵のご協力と寛容な御心に感謝いたします。ラピスラズリ侯爵も満足でしょう」
なるほど。この反応。そしてイオリリス侯爵令嬢の言葉。
サフィリス公爵夫人とラピスラズリ侯爵は、以前からイオリリス侯爵令嬢とあの男の関係を知っていたのですね。
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確かに。今回の件がなくとも、イオリリス侯爵令嬢は問題を起こしていたでしょう。
その内容によっては、サフィリス公爵家派閥はもとより王妃陛下の威信に関わります。
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うふふ。ここから先は、言わぬが花ですわね」
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いつもの柔和なお顔です。
「マリーアンヌは度重なる失態に気を病んで退出し、彼女のお茶会は終わりました。
貴女はこのまま私のお茶会においでなさい」
そういう筋書きなのですね。ここであったことも、全て無かったことになるのでしょう。
「かしこまりました。他の参加者はどうされますか?」
「マリーアンヌと同じ症状の令嬢は別室に。そうでない令嬢はスフェーヌ侯爵令嬢が引き受けます」
なるほど。同じ症状。つまりパーレスに誑かされて言いなりになっていた方々ですね。
私にお茶をかけた方もそうなのでしょう。
他の方々は、私の友人でもあるイザベル・スフェーヌ侯爵令嬢のお茶会に参加。なるほどです。
イザベルさんは王太子殿下の婚約者。有能な方ですから問題ありませんね。
それはそうと、あの方は大人しく拘束されているのでしょうか?
パーレスの愛人で、イオリリス侯爵令嬢と結託して私を陥れようとしたあの方……。
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