ストーリー・フェイト──最強の《SS》冒険者(ランカー)な僕の先輩がクソ雑魚美少女になった話──

白糖黒鍵

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DESIRE──欲望──

先輩の『あの』日——おんなのこはやわらかい

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 日常と変わらない朝。今日も今日とて暇を持て余していた人族最強の一角——《SS》冒険者ランカー、『極剣聖』サクラ=アザミヤはこの街オールティア冒険者組合ギルド大翼の不死鳥フェニシオン』にへと訪れていた。

 理由は至極単純——暇だから。

 ——なにか、手応えを感じられる依頼クエストはないものか……。

 《E》ランクから、《S》ランクまでの、様々な依頼書が貼られた看板ボードを眺めて、彼女はそう思う。

 ——結局『灰燼』は一秒も相手にならなかった。強過ぎるというのも、少し考えものだな。

 想起される先日の記憶。遠方の火山を根城にしていた『灰燼』フレイソル=クロナガンド——〝絶滅級〟という、一応最高の危険度を誇る二つ名持ちの年経た火竜だったが……ほんの肩慣らしのつもりで軽く刀を振っただけで、かの火竜は僅かな抵抗もなく真っ二つに両断され、絶命した。

 ——全く、〝絶滅級〟などという肩書きは当てにならんな。

 Lv100の彼女からすれば、〝絶滅級〟も〝微有害級〟も大して変わらない。それが、人としてのある種の極致に至った存在モノの認識であった。

 そしてそれは、サクラ=アザミヤに限定されていることではない。

「おはようございます、サクラさん」

「む、フィーリアか。おはよう」

 看板を眺めていたサクラの背後から、そう声をかけたのは、真白のローブに身を包んだ、それと全く同じ色をした髪の少女。

 その少女こそ、今ではサクラのその苦悩を唯一共感し、共有できる存在——もう一人の《SS》冒険者、『天魔王』フィーリア=レリウ=クロミアである。

 サクラの隣に立ち、彼女もまた看板を見上げる。

「……なにか、楽しそうな依頼ありました?」

「……残念ながら、ないな」

 はあ、と。《SS》冒険者二人はため息を吐く。それは何処までも深く、虚無めいたため息だった。

「あ、そういえば」

 不意にフィーリアが声を上げる。

「結局、大丈夫だったんですかね?……ブレイズさん」

「ラグナ嬢か。確かに、今彼女はどうしているのだろうな……」

 彼女たちは三日ほど前の記憶を掘り起こす。一人の、赤髪の少女の姿を。

 その少女の名は、ラグナ=アルティ=ブレイズ。………以前までは、サクラとフィーリアの苦悩を理解でき得ただろう、最後の《SS》冒険者。

 しかし今では、まあ……複雑な事情(本人談)というか、数々の不幸(本人談)というか……そういう色々なことが積み重なって、現在では100だったLvは5に、しかも男だった(本人談)はずなのに誰もが認める美少女にへと変わり果ててしまった。

 ——まあ私としては全く構わないのだが。むしろ女になってくれてありがたいのだが。

「まあ、女性には切っても切れない問題ですからねえ………『あの』日は」

「ああ、切っても切れんな………『あの』日は」

 うんうんと、二人が頷き合っている——その時だった。



「いっよーうっ!」



 バンッ——まるで元気そのものというような声と共に、勢いよく冒険者組合の扉が開け放たれ、赤髪を揺らした一人の少女が飛び込んできた。

「俺、復活!」

 誰もが目を向けると、そこには件の少女——元男で元《SS》冒険者、『炎鬼神』ラグナ=アルティ=ブレイズの姿があった。

 そして、その後ろには。

「…………おはよう、ございます」

 …………一体なにがあったのか、三日前とは似ても似つかないほどに、憔悴し切った『大翼の不死鳥』所属の《S》冒険者にして、ラグナの後輩でもあるクラハ=ウインドアの姿もあった。

 元気よく冒険者組合のロビーに飛び込んだラグナに、まるで生気を感じさせない足取りでクラハが続く。

「ちょ……ど、どうしたんですかウインドアさん?なんでそんな状態に……?」

 一睡もしていないのか、目の下に相当濃い隈を作っているウインドアの様子を見兼ねて、慌てて彼の元にフィーリアは向かう。

「い、今にでも倒れそうだな……」

 そしてサクラもそこで看板を見るのを止めて、彼女と同じくウインドアの元に歩み寄った。

「よっ。久しぶりだな、サクラ。フィーリア」

「……お久しぶり、です。サクラさん、フィーリアさん」

 まるで向日葵が咲いたような、燦々と眩しい満天の笑顔のラグナと、この世界の全てという全てに、疲れ果ててしまったような、力ない乾いた笑みを浮かべるクラハ。

 対照的な二人の様子に、サクラとフィーリアはただ困惑することしかできない。

 すると、フッとまるでなにかを悟ったように乾いた笑みを零しながら、そんな《SS》冒険者二人にクラハは告げる。

「……この三日間で、わかりましたよ」

 一体なにがわかったというのか——明らかに普通ではないクラハのその様子に、サクラとフィーリアは気圧されていた。

 そして、クラハはその続きを話す。



「女の子って……柔らかいんですね……はは」



 …………そのクラハの言葉には、まるで三日三晩の死闘を潜り抜け、その末にこの世界の真理の一部を垣間見たかのような、漢の重みがあった。
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