ストーリー・フェイト──最強の《SS》冒険者(ランカー)な僕の先輩がクソ雑魚美少女になった話──

白糖黒鍵

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RESTART──先輩と後輩──

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 突如として出現した熊の魔物モンスター、デッドリーベア。一瞬の油断すらも許されない強敵であったが、僕はそれを何とか倒すことができた。そのことに堪らず安堵の息をそっと吐き出す。

 ──……まだ若い個体で助かった。

 デッドリーベア────というか、この世界オヴィーリスに数多く存在する魔物の殆どは、その歳を経るごとに強く、そして狡猾になっていく。僕が相手にしたデッドリーベアはまだ若く、その上我を忘れてただ暴れ回るだけだった。

 そういう訳で僕一人でも何とか倒すことができたが……もしそうでなかったのならば、このようにはならなかった。ましてや動けないでいる背後の先輩を守りながらなんて──────

「せ、先輩ッ!大丈夫ですか?怪我とかしてませんかっ!?」

 ──────そこまで考えて、僕は先輩の存在を思い出した。そう叫びながら、僕は慌てて背後を振り返る。

「…………」

 先輩は未だ地面に座り込んだままで、こちらを呆然とした表情で見上げていた。そんな様子の先輩を視界に捉え、僕は咄嗟に駆け寄る────直前。

「……ぁ、く、来んなッ!」

「えっ?」

 そんな僕を、ハッと我に返ったように先輩は止めた。だが先輩のその行為は僕にとって予想外のことで、堪らず困惑の声を漏らしてしまう。

 それから先輩は浮かべている呆然とした表情を複雑なものに変えて、立ち止まった僕にこう伝えてくる。

「お、俺は大丈夫だ。大丈夫、だから……本当に」

「……」

 そう言った先輩が、一体どのような心情だったのか。不甲斐ないことに、僕にはわからなかった。……いや、本当のところはわかっていたのかもしれない。

 わかっていながら、わからない振りをして。そうでないと、何処か意地でも認めたくなかったのかもしれない。

 すぐ側にある剣を手繰り寄せて掴む先輩の姿に後ろ髪を引かれながらも、僕は再度口を開いた。

「わかりました。……その、すみません」

 そう言って、デッドリーベアの上下に分断された亡骸へ向き直り、思考を切り替えて疑問を追求する。

 ──それにしても、本当にどうして……。

 やはり常識的に考えて、こんな場所にデッドリーベアが出現するなど異常という他ない。この地域一帯に、この魔物が満足するような餌もなければ、環境だって別に快適な訳ではない。……それに、気になる部分はもう一つある。



『ゴアアアッ!ボアアアアア゛ッ!!』



 デッドリーベアの、あの尋常ではない様子。僕の見立てに間違いがないのならば……明らかに、怯えていた。恐慌状態に陥り、目に映るもの全てが害をなす敵だと言わんばかりの暴れ方だった。

 ──幾ら若い個体といっても、あのデッドリーベアが怯える状況なんて……想像し難いというか、したくないな。

 魔物、というか野生の動物が怯えて暴れ出す原因など、僕には一つくらいしか思い当たらない。それはつまり────自分よりも強大で恐ろしい何かに、襲われたか追われたか。

 だとすれば、デッドリーベアがこの森に出現した辻褄が合うし、僕自身納得できる。だからこそ、そうでないと僕は願ってしまう。

 ──もしそうだとしたら、デッドリーベア以上の脅威が迫ってるってことじゃないか……。

 どうか外れていてほしい憶測を立てる傍ら、僕は得物とはまた別の小さなナイフを懐から取り出しながら、分断されたデッドリーベアの上半身の近くにしゃがみ込み、その耳をナイフで切り落とす。

 ──とにかく、一旦冒険者組合ギルド……グィンさんにこのことを報告しないと。

 デッドリーベア出現と討伐の証拠を簡易な空間魔法──【次元箱ディメンション】に放り込む。これで耳が腐敗する心配はない。

「…………」

 今すべき行動を一通り終えた僕は、気づかれないように、背後に視線をそっと流す。

「く、ぅ……っ!」

 ……その光景は、僕の予想と大まかにだが確かに一致するものであった。

 先程手繰り寄せたばかりの剣を地面に突き立て、それを支えに、地面から立ち上がろうとしている先輩の姿があったのだ。

 必死な表情を浮かべて。一生懸命な様子で。けれど、その努力は無情にも報われない。恐らく完全に腰が抜けてしまっているのだろう。足が震えてしまって、先輩は中々地面から立ち上がれないでいる。

 ──……。

 僕は思い出す。先程言われたばかりの、先輩の言葉を。



『……ぁ、く、来んなッ!』

『お、俺は大丈夫だ。大丈夫、だから……本当に』



「……先輩」

 気がついた時には、もう動いていた。もう声をかけていた。僕に呼ばれて、ビクッと肩を跳ねさせながら先輩が顔をこちらに向ける。立つことに集中し過ぎて、こうして僕が目の前に歩み寄っていたことにすらも気がつけないでいたようだ。

 先程僕に大丈夫だと言ったのに、今の情けない姿を見られたからか。かあっとその表情を羞恥に赤く染めて、ばつが悪そうに先輩は僕から目を逸らす。……だが、僕はそれでも構わずに言葉を続けた。

「構いませんから。気にしませんから。……だから、こんな時くらいは僕なんかでも頼ってください」

 そして、そっと手を伸ばした。

「!……」

 僕の言葉とその行動は、先輩にとっては予想外なものだったのだろう。目を丸くさせ、差し伸べられた僕の手を見つめていた。先輩は数秒の間躊躇いながらも、剣の柄を固く握り締めていた手を開き、恐る恐る僕の手を掴んだ。

 瞬間、僕に伝わるしっとりとした柔らかな感触。これを味わうのは二度目だというのに、僕は思わず一瞬心臓の鼓動を早めてしまった。

 決してそれを表情に出さないようにする僕に、先輩は沈黙を挟みつつ、少し気まずそうに言った。

「…………悪い」

 そうして僕の助けも借りて、ようやっと先輩は立ち上がることができた。

「気にしないでください。とりあえず、一旦街に戻りましょう先輩」

「お、おう……」

 デッドリーベアの件を報告しなければならないということもあるが、気がつけば結構な時間が経っている。そろそろ街に戻らなければ日が沈み、辺りが暗くなってしまう。僕一人であればまだ問題ないが……今は先輩を連れている。

 先輩が頷いたのを確認した僕は、そのまま踵を返して歩き出す────直前、不意に先輩が声を上げた。

「ク、クラハっ」

「?はい、どうかしましたか?」

 先輩に呼び止められ、僕はその場に立ち止まり先輩へ振り返る。先輩はというと、依然気まずそうな様子のままその場で立ち尽くしており、何故か一向に歩き出す気配がない。

 それを僕が不思議に思っていると、最初こそ僕を呼び止めただけで、それからは困ったようにあちこち視線を流していた先輩だったが、やがて観念したように。もじもじと太腿ふとももを擦り合わせながら、消え入りそうな声で僕に告げた。

「まだ、上手く歩けそうにねえんだ……今足動かしたら、たぶん転んじまう」

 ──うぐ……ッ!?

 そう僕に言った先輩の顔は、もう燃え出すのではないかと思う程に真っ赤で。勝気な輝きを灯すその真紅の瞳も、今では薄らと濡れて潤んでいた。その様子は僕にとっては予想も想像もしていない、まさに不意打ちのようなもので。僕の心を乱し、大いに動揺させてくれる。

 だが、しかし。それを表に出す訳にはいかない。それを踏まえて、僕は平静を装い口を開いた。

「……え、あ、ああ……えっと、そ、それは困りましたね。はは、ははは」

 ……わかっていた。僕にそんな器用な真似できるはずがないとわかっていた。けれど、これでも努力した。努力した結果がこれなのだ。

 けれど不幸中の幸いとでも言うべきか、先輩が僕の動揺と戸惑いに気づくことはなかった。まあそれは一旦置いておくとして……しかし、それでは。このままでは僕と先輩はこの場から離れられないということだ。

 それから数秒、微妙に距離を空けたまま沈黙が流れる。そして無意識の内にそれから逃れたいとでも思っていたのか。

「…………で、でしたら」

 特に考えることもなく、僕は言ってしまった。



「僕が背負って歩きますよ。先輩を」



 という、よくよく冷静に考えてみればとんでもないことを。
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