ストーリー・フェイト──最強の《SS》冒険者(ランカー)な僕の先輩がクソ雑魚美少女になった話──

白糖黒鍵

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RESTART──先輩と後輩──

狂源追想(その二十)

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「クラハ=ウインドア。俺はお前を認められない。だから俺は、お前に決闘を申し込む」

 そう確かに。確実に聞き取れるようにはっきりと、俺は己の目の前に立つ青年────クラハ=ウインドアに向かって吐き捨てた。

 瞬間、まず訪れたのは静寂で。だがそれも、すぐさま破り捨てられることになる。

「……ちょ、ちょっと!ちょっと待ちなさいっ!決闘?決闘って、ライザー貴方一体どういうつもり!?急に、いきなりどうしたのッ!?」

 と、堪らず慌てた様子でメルネさんが悲鳴の如くそう叫んだが、生憎と今の俺に彼女の言葉に反応してやれる程の余裕など、なきに等しかった。

 今、俺の中にあるのは自らを焼き滅ばさんまでの憤怒と、狂おしい程の嫉妬と、とてもではないが堪えられない絶望────後は、まだわからない。けれどまだ何かあるのは、確かだった。それら全ての負の感情が、俺をこのような暴挙に走らせたのだ。

 途端、只事ではないとどよめき、騒つく周囲。しかしそれらを気にすることもなく、俺はただ返事を待っていた。

「け、決闘!?いえ、そんな……こ、困りますよ。どうして、僕とあなたがそんなことを、こんな脈絡もなく突然、いきなりしなきゃいけないんですか?そんなの、おかしいですよ……絶対におかしいですよっ!」

 ……およそ、望んでいたものとは遥か遠くかけ離れた、度を越してふざけたその返事に。俺の理性は瞬く間に削り抉られ、あっという間に冷静さを欠かれる。そして自分の認識は甘かったことを、俺は自覚させられる。先程才能もないと思っていたが、それは間違いだった。一応こんな奴でも最低限の才能があった────これ程までに、人の気分を害すという、最低の才能とやらが。

 俺は堪らず舌打ちしそうになるのを必死に我慢しながら、思わず本能的に出そうになる罵倒の言葉を飲み込み、口を開き、この期に及んで口に出したくもない代わりの言葉を吐き出す。

「おかしくはない。理由ならある。言っただろ、俺はお前を認められない。だから決闘をする。立派な理由の下に、俺とお前は決闘するんだ。おかしいことなんて、何もない」

 ……何やら、俺の言葉に周囲が動揺している気がするが、何故だろう。一体俺の言葉のどこに動揺する要素があったのだろうか。俺にはわからない。理解できない。俺はただ、俺の本心に従っているだけだというのに。

「いやだから、それがおかしいんですよ!僕とあなたはこれで初対面じゃないですか?なのに、一体僕の何が認められないっていうんです?僕があなたのことを全然知らないように、あなただって僕のことを全然知らないはずだ。なのに、一体どうして……?」

 そしてこいつも、一体何をほざいているのだろう?わかりたくもない、理解したくもない。まだ齢一桁の子供ガキでもわかるし理解もできる、そんな簡単なことすらわからず理解もできやしない愚鈍な屑なのだろうか。きっとそうに違いない。ますますもって、こんな奴にブレイズさんがあそこまで入れ込む程の理由がわからない。理解できない。

「全部」

 だから、仕方なく。俺はせめてもの情けとして、一握りの親切心をどうにか捻り出し、答えてやることにした。

「お前の全部が気に入らない。とにかく気に入らない。どうしようもなく気に入らない。だから、俺はどうあってもお前のことを認められそうにない」

「そん、な……」

 どうやら目の前のゴミは礼儀もろくに知らないらしい。こうして人がわざわざ考えなくともわかるし理解できるし察せて当然なことを、手間暇かけて懇切丁寧に教えてやったというのに。礼の一つもまともに述べられず、馬鹿みたいに絶句しやがった。いい加減、頭の血管ブチ切れそうになってくる。

 と、その時。何故かこんなタイミングで。あり得ない乱入が起きた。

「ラ、ライザー!?貴方本当に一体どうしたの!?貴方、本気でそんなこと言ってるの!?」

 乱入者であるメルネさんがそう口を挟んできたが、俺の方こそ何故彼女がそんなことを訊いたのか全くもって意味不明だった。どうしてそんな一々いちいち答えずともわかるような当たり前のことを、さも理解不能で非常識極まっていることのように彼女は言っているのか。その所為で悲しいことに、俺は彼女にまで多少の苛立ちを覚え始めてしまう。

 嘆息したいのを堪えつつ、俺は億劫そうにメルネさんに言葉を返してやる。

「ええ、本気ですよ。俺は何から何まで本気だ。……何です?貴女は俺に、何か文句でもあるんですか?……メルネさん」

 すると予想外のことに、メルネさんも言葉を失ってしまったかのように絶句してしまった。そんな彼女の反応もまた俺には意味不明で、正直────失望してしまった。直後、唐突に俺はまた理解する。

 ──ああ、そうか。そういうことか。メルネさん……貴女も、そうなんですね。

 俺はどうやらメルネさん……否、メルネ=クリスタのことを誤解していたらしい。先程の態度の所為で危うく騙されかけたが、結局のところ、この人も『大翼の不死鳥』側の人間だったということだ。

 ──今ここに、俺の味方なんて誰もいやしない……そういうことだったんだ。誰も彼も、須く、悉くが敵ということだったんだ。……上等だ、そっちがその気だというのならば、俺だってやってやる。とことん、やってやるさ。

「おいライザー……お前、よりにもよってメルネの姐さんに向かってなんて口利いてやがんだ!!」

 と、不意に今まで阿呆のように突っ立ち、こちらのことを傍観することしかできないでいた無能の一人が、何やらほざきながら俺の方に駆け寄ってくる。ので、俺は間抜けにもこちらの間合いに踏み込んだその無能の顔面を────拳で殴った。

 バキャッ──そんな音をさせながら、その無能が吹っ飛び広間ロビーの床を転がる。数秒の静寂の後、それを引き裂くようにメルネさんが悲鳴を上げた。

「きゃあぁあああぁあぁぁあっ!?」

 その悲鳴に突き動かされるようにして、他の無能共も喧しく、その耳障り極まりない声を上げる。

「な、何やってんだてんめえ!!」

「おいザンクロウ!?大丈夫か、しっかりしろザンクロウ!!」

「野朗共!全員であのイカれ、ブッ飛ばすぞ!」

 ──……イカれ?は?イカれてんのは俺のことを邪魔してるお前らだろうが。何言ってんだ、この脳足りんの負け犬共が。

 そう心の中で吐き捨てつつ、こちらに向かって駆け出す無能共を俺は他人事のように眺める。が、その時──────



「止めなさいッ!!!」



 ──────という、メルネの鋭い一喝が広間を貫き、俺の方へ駆けていた全員がその場に縫い付けられたかのように立ち止まった。遅れて、彼女が震える声で絞り出すようにして言う。

「……同じ冒険者組合ギルドに所属している冒険者ランカー同士による私闘は禁止よ。そのことを、貴方たち全員は忘れたというの?」

「い、いやでも姐さん!先に手を出したのはライザーの野朗ですよ!?」

 メルネに窘められるが、しかし納得できない無能の一人がそう叫ぶ。だがそいつの言葉を無視して、彼女は顔を俯かせたまま、言葉を続ける。

「ライザー。このことは、GMには報告しないでおくわ……だから、今日はもうこれ以上何も言わずに、帰って頂戴。……お願い、だから」

 それは切実なメルネの言葉。恐らく彼女は、心から込み上げてくるものを必死に押さえつけ、抑え込み、堪えた上で口にした言葉なのだろう。そんな切実な彼女の言葉を、俺は────

「断る」

 ────即答で。何の躊躇いもなく、一切の情けなく無慈悲に切って捨てた。すると俺のこの返事は予想外の想像外だったのか、メルネがバッと俯かせていたその顔を跳ね上げさせる。彼女の瞳は、愕然としたようにに開かれていた。

「……貴方、自分が一体何を言っているのかわかってるの……!?」

「ええ。わかっていますし、きちんと理解もしている。当然のことじゃないですか」

 俺はそう返事する傍ら、この人に対して失望の念を抱かずにはいられなかった。

 ──まさか、そんなつまらないことを一々訊ねるなんて。仮にも元『六険』が……その名が泣いているぞ。

 そもそも、彼女の言葉は論外だった。聞くに堪えない、あまりにも自分勝手な酷い言葉であった。故に、だからこそ俺はメルネの言葉を、ああやって切り捨てた。

「それに、その規律ルールはあくまでも同じ組合に属する冒険者同士による私闘を禁じているだけじゃないですか。そう、冒険者による私闘をね。けれどそこのそいつは冒険者でも何でもない、ただの旅人じゃあないですか。故に、俺とそいつの私闘は規律に反しはしない……違いますか?」

「それ以前の問題だと私は言っているのよッ!《S》冒険者ランカーがただの旅人に対して決闘を持ちかけること自体、間違っているの!ライザー、貴方はそれをわかってもなければ、理解だって全くできていないッ!!」

 ──……ああ、もう駄目だ。この人も、あの無能共と同じでもう駄目だ。

 俺は己の中でその結論を出し、メルネから目の前に立つ障害物じゃまものへ視線を戻す。そいつはこの状況に追いつけていないのか、間抜け面を晒しながら呆然とその場に立ち尽くしていた。

「俺と決闘しろ。今、すぐにでも」

「……おかしいですよ。こんなの、絶対におかしい……」

 こいつは返事もろくにできない、どうしようもない奴らしい。遅れながら、それを俺は理解する。理解し、この上なく腹が立ち、苛立ちを加速させ募らせる。

 ──俺が求めているのはそんな言葉なんかじゃない。それを、手っ取り早く教えてやろうか……?

 と、心の中で呟きながら。俺は拳を握り締め、そして──────





「クラハ。その勝負、受けてやれ」





 ──────振り上げる前に、淡々と。予想外なことにも、ブレイズさんがそう言うのだった。
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