ストーリー・フェイト──最強の《SS》冒険者(ランカー)な僕の先輩がクソ雑魚美少女になった話──

白糖黒鍵

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RESTART──先輩と後輩──

狂源追想(その終)

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「……オールティア。一年間、住んだだけだったけど……良い街だった」

 薄明の空の下、ヴィブロ平原の辺境にてそんな呟きが風に乗り、宙へ混ざって溶けて、消える。それは人の目には決して映らないはずの光景ではあったが、まるでそれを察したかのように。独りその場に立ち尽くし、遠方から明けの陽光に照らされる街を見つめていた青年が、踵を返し背を向け、ゆっくりと歩き出す。

 青年の瞳は、昏く虚ろであった。意思なきそれは先を見据えているのか、何処を見定めているのか。側から見てもそれを判断することはできないし、恐らく青年自身にもできはしないだろう。

 そう、青年の瞳はただひたすらに────空虚だったのだ。

 目的地を決めているとは到底思えない足取りで進んでいた青年だったが、ふとその場で歩みを止める。それから周囲を見渡し────刹那。

 ジャララララッ──突如無数の鎖が出現し、青年を囲むようにして超巨大な輪を作り上げた。

「……」

 突然の事態。しかし、それに対してその青年は特に反応らしい反応を見せることは全くなく。それから大した間も置かず、ヴィブロ平原辺境の地にて声が響き渡る。

「とりあえずお久しぶり、と言っておくわぁ。ねえ、覚えているかしら……私たちのこと」

 声がした方向に、青年が顔を向ける。青年の視線の先には、二人の人間が立っていた。

 一人は女性。白の外套ケープを羽織っており、しかしその下に衣服の類は身に付けておらず、また下着すらも上下共に付けてもいなければ穿いてもいない。鎖を雑に巻き付け、辛うじて局部を隠しているという、全裸とそう大して変わらない、新手の露出狂と言っても過言ではない格好の女性である。

 一人は男性。こちらはその女性とは違い、ちゃんと衣服の類を身に付けていた。散切り頭の若い男で、しかしその背には己の身の丈を遥かに越す、大剣の枠組みからもはや逸脱した武器────謂うなれば、巨大剣を背負っていた。

 どう見ても、誰の目から見ても明らかに普通ではない二人組。そんな二人を見やって、青年はまず鬱屈としたため息を吐いて。それから億劫そうに口を開き、言った。

「……確か、チェーンさんとブレイドさんだったか?」

「あら嬉しいわぁ。ちゃんと覚えていてくれてありがとう。安心したわ。これで覚えていないとか言われてたら……」

 白の外套を羽織った新手の露出狂たる痴女────チェーンが。その表情に妖艶な笑みを浮かべると共に、そう言った瞬間。

 ズドッ──突如、青年の足元が深く抉られ、土と草が宙に飛び散った。

「ついうっかり、すぐに殺しちゃうところだったわねぇ」

 と、依然その顔に笑みを浮かべたまま、冗談には聞こえない声で言うチェーン。その時、ジャラジャラと金属同士が擦れ合う音が突然響き。そしてその音は、彼女の足元から発せられていた。

「これのことだって勿論覚えてるわよねぇ?この、魔力で遠隔操作できちゃう特殊な鎖のこぉと」

「……ええ、まあ」

 チェーンの足元で蛇のように独りでに揺れ動いている鎖を見つめながら、青年はそう答える。それを満足げに聞きながら彼女は頷き、そして。

「ちなみにねぇ。一年前とは違って、今はこういうことだってできるのよ?」

 ズドッ──チェーンが言うが早いか、彼女の足元で揺れ動いていた鎖が急速にブレて。瞬間、再び青年の足元が抉られる。しかし今度は一箇所ではなく、一瞬にして数箇所が抉られていた。

「どぉ?見えたかしらぁ?ちなみに私が使っている鎖はこの一本。そう、私はこの一本で、今の一瞬で、複数の場所を。抉って、みせたのよぉ?」

「……」

 チェーンの言葉に対して、何も言わずにいる青年。その反応をきっと恐れ慄いているのだと、彼女は自らそう解釈し。その口元を僅かばかりに歪ませる。と、その時。

「おい。いい加減にしとけよ、お前ら。今ここにいるのは、お前ら二人だけじゃねえだろうが」

 今の今までその口を閉ざし、無言でその場に突っ立っていた巨大剣を背負う男────ブレイドが。突如口を開き、明らかに不機嫌そうな声でそう言った。透かさず、チェーンが彼に対して言葉をぶつける。

「何?何よ?何なのよ、いきなり?」

「先にらせろ、チェーン。お前はとりあえず、引っ込んでろ」

 ブレイドがそう言った、その瞬間。凄まじい勢いで、とんでもなく濃密な殺気がこの場を包み込む。それを発しているのは言うまでもなくチェーンであり、それを当てられているのはブレイドであった。

「……ブレイドォ、アンタ自分で言ってること理解できてるんでしょうねぇ?だったらそれがどういうことになるんだか……当然わかってるわ、よ、ねぇ?」

 と、零れ落ちるのではないかと思わず危惧する程に見開かれたチェーンの目は、殺気立って血走っており。また彼女の殺気に反応しているのか、彼女の身体に巻き付いていた鎖が解け、無数の先端がブレイドへ向けられる。

 恥ずかしげもなく大っぴらに、己の局部を外気に晒すチェーンに。先程あのように地面を抉ったことから、人体など容易に貫くことができるであろう鎖の先端を向けられながらも、ブレイドは至極冷静に言葉を返す。

「ああ。だからこそ、って奴だな。あの時だって、お前に先に戦らせてやったんだろうが。それによ、第一お前は俺に借りがあるだろうが。一体どこの誰が、クソみてえなお前の糞の後始末してやったんだと思ってんだ、あぁ?」

「…………」

 そこでチェーンとブレイドは互いに無言になって、互いを睨めつけ合い────結果、先に折れたのはチェーンの方だった。

「もういいわよ。好きにすればぁ?その代わり、アンタだけは後で絶対に殺してやるから、ブレイド。今の内に精々覚悟しておくこと、ねぇ」

 そう言い終えるが早いか、先程までブレイドを狙っていた鎖が再びチェーンの身体に巻き付き、彼女の局部を隠す。そんな彼女を一瞥しながら、ブレイドがうんざりとしたように言う。

「上等だ。いい加減、お前みたいな糞漏らしのくっせえ女とはもう付き合い切れないと思っていたところでな。坊主をぶった斬ったら、次はお前の番にしてやるよ。チェーン」

「それ一々いちいち引っ張るの、止めてくれないかしら」

 チェーンの非難の言葉を無視して、ブレイドはその場から一歩、前に出ると。彼が今背負っている巨大剣が独りでに背中から離れ、彼はその柄を掴む。そして握り込み、ゆっくりと。彼は巨大剣を仰々しく構え、その切先を青年へと向けた。

「待たせたな坊主。今度こそ、ぶった斬ってやるよ」

 言って、即座に。ブレイドはその巨大剣を振るう。一瞬、無音の静寂がその場を漂ったかと思えば。



 ザンッッッ──突然地面に深い切れ込みが走り、それは青年のすぐ真横を抜けて。その奥にあった巨大な岩石を真っ二つに断ち斬った。



「……」

 少し遅れて、青年が真横に視線をやる。切れ込みは深く、ちょっとした断層となっていた。

「どうだ?一年前とは比べ物になりやしねえだろうがよ、今の俺の一振りは。その気になれば、俺はここから一歩も動かずに坊主をぶった斬れるんだぜ?ハハッ、怖いか?恐ろしいか?なあ、どうだよ?」

 と、得意げになって饒舌に語ってみせるブレイドを。真横の断層から視線を移し、青年は見やる。その眼差しは────草臥くたびれていた。

 そんな眼差しと全く同じ声音で、青年は言う。

「一回しか言わない。俺を放っておいてくれ。俺に、関わらないでくれ」

 そう、青年が言い終えるか終えないか。その間に、ブレイドは青年の目の前にまで迫り、巨大剣を振り上げていた。

「あばよ坊主。俺の剣、直に受けて逝けや」

 そう言うや否や、何の躊躇いもなく。一切の遠慮容赦なく、ブレイドは振り上げていたその巨大剣を、青年の脳天目がけて振り下ろした。

 宙を左右に分けながら、重力を上乗せした刃が青年へと落下していく。それは常人が視界に捉えられる速度を遥かに逸しており、一流の戦士だけが辛うじて認識できる程の振り下ろし。そしてあくまでも認識ができる訳で、躱そうとしても身体の反応が追いつくことはなく、また防御したところで、その防御ごと呆気なく両断されてしまうことだろう。

 そんな、必殺の一撃を。青年は──────剣身の中央を右手の五指の先で摘み、掴み止めた。

 衝撃の暴風が逆巻き、青年の足元が軽く沈み、周囲の地面がひび割れ砕けて宙に土埃を舞わさせる。一拍置いて、頬に一筋の汗を伝わせるブレイドが口を開く。

「こ、この化けも」

 ブレイドがその言葉を最後まで言い終えることはなかった。何故ならば、言い終えるその前に。

 バキンッ──青年が巨大剣の剣身をその半ばまで手折り。

 ザシュッ──そして目にも留まらぬ速さを以て、手折った半ばの剣身をブレイドへと振り下ろしたのだから。

「……のがっ」

 ブシャアッ──脳天から股座まで、剣身の刃に斬りつけられたブレイドがそんな短い悲鳴を上げた直後。勢いよく血を噴き出させ、宙を真っ赤に染めた。

 ブレイドの手から手折られた巨大剣が滑り落ち、それに続くようにして彼の身体もまた力なく崩れ落ち、地面に倒れ込む。そんな彼を、青年は無表情で、無感情な目で見下ろし。

「ブ、ブレイド……ッ!?」

 と、驚きの声を上げずにはいられなかったのだろうチェーンに。青年は視線を移したかと思えば、その手に握っていた半ばまでの剣身を無造作に投げ飛ばした。

 ヒュッ──動揺するチェーンに向かって、横回転しながら宙を斬り裂く剣身が飛来する。

 剣身の飛来速度が凄まじいもので、あまりにも呆気ない仕事仲間の最期を目撃し、狼狽えたチェーンにそれを躱す猶予などなく。だがそれでも、彼女の判断は迅速であった。

 ──甘いわぁ!

 ジャラララッ──チェーンの身体に巻き付いていた鎖の全てと、彼女の周囲に複数展開された【次元箱ディメンション】からも新たな鎖が飛び出す。

 全ての鎖がそれぞれ絡み合い、結び合い、縫い合わさる。そして刹那にも満たない内に出来上がったのは、鎖の防壁であった。

 ──この鎖の防壁は物理は勿論、上級魔法だって完全に、そして完璧に防ぎ切れる。その上さらに私の【強化ブースト】までかかっているのよ。そんななまくら、何てことはないのよぉッ!!

 そう、自信満々に心の中でチェーンが叫ぶのと、青年が乱雑に投げた剣身が鎖の防壁に衝突するのは同時のことで。

 ガギギャギィンッ──直後、剣身が鎖の防壁を断ち切った。

「ッ!?」

 その勢いを全く衰えさせず、剣身はさらに宙を飛び、そして。



 ザシュッ──チェーンの胴体を通過した。



「…………」

 呆然と立ち尽くすチェーンの背後で、なおも剣身は飛び続け。やがて、明後日の方向に消える。それから少し遅れて、チェーンの口端から血が垂れ、彼女の顎に伝い、滴り────直後、彼女の上半身が僅かに

 プツ、と。チェーンの腹部に赤い線が浮き出て。それから間を置かず、彼女の上半身が下半身から滑るようにして地面に落下する。ボチャボトと切断面から零れ落ちた内臓が次々と地面に叩きつけられる最中。

 ドチャッ、という。一際重く、柔らかく、水を多く含んだ物体の落下音が。妙に生々しく、最後に響いた。

 上半身を失ったチェーンの下半身は、数秒独りでに立ってはいたが。やがて切断面から流れ出した血が、太腿に幾筋もの線を引いた直後、グラリと大きく揺れ動き。そのまま、腸を鎖のように宙に踊らせ、真っ赤な線を出鱈目に描きながら倒れる。

 そんな、目の当たりにした者のほぼ全員がその場で吐いてしまうような光景を。しかし青年は至って平然と、最後まで見届けて。それから、ゆっくりと歩き出した。

 そして青年はチェーンのすぐ近くにまで歩み寄り。すると、表情を歪ませ、彼女が口を開かせた。

「ガフッ……ふ、ふふふ。驚いた……驚いたわぁ。まさか、ここまで……ゴフッ」

 血を吐きながらも、言葉を紡ぐチェーンのことを。青年は黙って見下ろす。その顔にも瞳にも、感情らしい感情は全く感じ取れない。だがそれでも、チェーンは口を閉ざすことなく、さらに言葉を続ける。

「本当、才能って残酷、よねぇ。心底嫌になる……ゴホッ……わぁ」

 けれど、着実にチェーンの時間切れは迫っている。彼女の声に勢いが失せ始め、弱々しく震え出し、やがて途切れ途切れになっていく。

 ……だがそれでも、青年の顔と瞳に感情は宿らない。そんな青年を次第に濁っていく瞳で下から見上げて、チェーンは────何故か満足そうな笑みを浮かべた。笑みを浮かべて、彼女は勝手に千切れて離れていく言葉を無理矢理に繋げて、それを口に出す。

「あ、ら……今、気づい、た……わ…ぁ。……ふ、ふ……そう、そ、うなの、ね…ぇ……」

「……」

 スッ、と。今の今まで見下ろすだけだった青年が、突如として足を振り上げる。青年の足の影がチェーンの顔に影が重なり、だがそれを全く意に介さず、彼女は続ける。

「歓迎、するわよぉ。……この、最低最悪の……同類、どう……ぞ……」

 そこまで言い終えたところで、チェーンの瞳から生気の光が消え失せ。その直後、青年は振り上げていたその足を。

 何の躊躇いもなく、そして一切の遠慮容赦なく振り下ろした。


















「……すみません。また、ここへ来るのがこんなにも遅くなってしまって……すみませんでした」

 そう言いながら、青年は懐から一本の酒瓶を取り出し。その栓を開け、それを一気に逆さにする。酒瓶の口から透明な液体が大量に流れ出し、その下にあった石にぶち撒けられ、その全体を徐々に濡らしていく。

「この酒、好きでしたよね。俺が何度も身体に毒ですよって言っても、飲むの止めませんでしたよね」

 石に酒をかけながら、青年は独り言を呟き続ける。光を失った、何処までも昏く虚ろな瞳で。

「ですが、今ならもう関係ありませんから。満足するまで、また堪能してくださいね」

 やがて酒瓶の中身全てがその石に注がれ。青年は空となった酒瓶を持ったまま、呆然と立ち尽くしていたが。不意に、またその口を開かせた。

「この一年、色々なことがありました。……本当に色々、あったんですよ」

 そう、青年は語る。何も言わず、何の相槌も打つことのないその石相手に。青年は独り、語り続ける。

「実は言うと、冒険者ランカーになってすぐ死にかけたんです。殺されかけたんですよ、俺。けどまあ、あの時は何とかなって、今もこうして生きています」

 という、衝撃的なことを。青年は至極冷静に、これ以上にない程真面目に語る。

「でも、そのおかげで。俺は気づけたんです。自分には夢と目標と、そして憧れしかないと思っていた。大切で大事なものはそれくらいしかないと思っていた。……けど、それとは別にもう一つ、同じくらい大切で大事なものがあるんだって……俺にはもう、大切で大事な存在モノができていたんだって気づくことができた」

 そこで初めて、ここに至るまで。ずっと無表情であった青年の顔が────僅かばかり、綻んだ。しかしそれが続くことはなく、すぐさま青年の顔から感情が失せて。それから青年は顔を俯かせてしまう。

「……けれど、俺は失ったんです。俺は夢と目標と、憧れ……その全部を、あの日に……自ら、手放して、しまって……ッ」

 そしてとうとう、堪え切れなくなったように。青年は膝を折り、その場に蹲り。弱々しく,ただひたすらに震えるその声音で、目の前の墓標に切実な言葉を漏らして、抱え込んだその気持ちを吐露していく。

「教えてください。どうか、この不出来な弟子に教えてください……俺は、俺はあの日あの時、どうすればよかったんですか?一体どうすれば、あんなことには……こんな結末にはならなかったんですか?一体何をすれば、俺はまたやり直せるんですか?夢と目標と憧れをもう一度手にすることができるんですか?……俺は、一体どうしたら、赦されるんですか……?」

 青年の言葉に、返事がされることはない。それは青年自身、一番よくわかっていたことだった。

 数秒、その場に静寂が訪れ。そして、それを破ったのは、無論青年であった。

「……ええ、わかっていますよ。わかって、いたんですよ……わかっていたのに、俺はそうすることができなかった。……できる訳がなかった」

 そう呟いて、蹲っていた青年は。ゆっくりと、再び立ち上がる。その瞳からは────透明な雫が流れ、一筋の線を頬に引いていた。

「だって、俺はそういう人間だったんですから。シュトゥルムさん……俺はそういう人間だったんです。貴方から引き出された才能を、力を……俺は他人の為に振るうことができなかった。他が為にではなく、己が為に振るってしまった。自らの薄汚い、浅ましい私欲なんかの為に。俺は貴方の言いつけを破った。俺は貴方のことを……裏切って、しまった」

 そこまで言うと、青年は微かに肩を震わせる。それはまるで何かを抑えようとしているような、堪えようとしているような仕草で。しかしそれも次第に激しくなり、また同時に青年の口から渇いた笑い声が徐々に漏れ出す。

「ハ、ハハハ……ああ、そうです。そうなんですよ。そう、俺は最低最悪の……ク、ククッ」

 誰の目から見ても、青年が危険な雰囲気を醸し始めているのは明白で。依然渇いた笑い声を微かに漏らし、響かせ────不意に、青年の肩の震えが止まった。止まったと同時に、青年がポツリと呟く。

「だから、決めました」





 ドガッ──瞬間、青年は足を振り上げ。振り上げたその足で、すぐ目の前の石を蹴り砕いた。





「そう、俺は決めたんですよ!もうこれからは俺の才能は、この力は俺の為だけに振るうって、使うって!己が為にではなく他が為に、なんて馬鹿げてる!馬鹿げ過ぎているッ!」

 ……青年が抑え込もうと、必死に堪えようとしていたのがそれだということは、もはや明らかであった。だが、むしろ下手にそうしてしまったことで、より強烈な反動を伴って。青年は解き放ってしまったのだ。

「結局、人は自分の為にしか強くなれない!何もできやしない!何も得られやしない!ただただすぐ目の前で取り零して失っていくだけッ!それをあの日あの時、俺は悟った!だからそう決めたァ!」

 もはや石の破片と欠片になったそれを、何度も蹴りつけ、何度も踏みつけ。そんな行為を執拗に繰り返しながら、およそ正気とは全く思えない歪んだ顔つきで、青年は言葉を吐き捨て続ける。

「シュトゥルムさん!もう逝って消えた我が偉大なる師、シュトゥルム=アシュヴァツグフさぁんッ!安心してください、別に貴方の教えは忘れはしませんよ。ええ、ええッ!絶対に忘れませんとも」

 破片を蹴り飛ばし、欠片を地面にめり込ませ。血反吐を吐く勢いで、青年は言葉を続ける。

「俺は忘れない!この世のどんな塵芥ゴミにも劣る、こんな愚かな教えを俺は忘れませんよォ!クズのカスみたいな赤の他人なんかに才能を、力を振るえと宣い、俺の人生を滅茶苦茶にしやがった貴方の教えをねェッ!!ハハハッ!ヒャハハハァアッ!!!」

 森の静寂を破り捨てて、青年の笑い声が高々に響く。限界を来し、壊れに壊れ、狂いに狂ってしまった青年の笑い声が響き渡っていく。

「クヒャハハハッ!ハハハッハァッ!!俺の力は俺のものだ!俺の力は俺の為に振るう!使う!使い潰すッ!たとえこの身朽ち果てようと!滅び去ろうと!それで、それであいつを……クラハ=ウインドアをォ…………イヒ、イヒャヒャッハハハハハハァッ!!!」

 青年は笑う。笑い続ける。独り森の中で、永遠と。笑いながら、己の内側に秘めていたその狂気を爆ぜさせ、溢れさせ、周囲に撒き散らす。狂気が、広がっていく。

「アィイヒハハハヒヒャヒャヒャアアアアアアッ!!アヒャヒャヒャハハハッハッッッ!!!クラハ=ウインドア、クラハ=ウインドアァァ……クラハ、クラハクラハクラハクラハクラハクラハクラハァアギャギャギャギャァアハァハァハァッ!!!」

 天を仰ぎ見るその目はもはや焦点が合っておらず。血走り、零れ落ちそうになる程に、限界のギリギリまで見開かれていて。そして最後に────────青年の笑い声がピタリと止んだ。

 今一度、森は元の静寂を取り戻し。それから数分後、黙っていた青年は頭上を仰いだまま、静かに呟く。

「覚えていろ、クラハ。いつか必ず、絶対に……お前も俺と同じにしてやる。俺と同じ、最低最悪の……」

 そしてその途中で、青年は────ライザー=アシュヴァツグフは笑い出した。笑って、その場で笑い続けた。




















 それがライザー=アシュヴァツグフの狂気の始まり。彼の狂気の源。

 その狂気に呑まれ、侵され、害され。

 抱いた夢は

 目指した目標は

 追いかけた憧れは

 そしてその三つは度し難い彼の狂気に掻き混ぜられ────結果、一つの地獄が。ライザーの頭の中に生まれて、埋め尽くした。
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