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第一章 1
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午前七時過ぎ、沢村美鈴は十五階建て自宅マンションの一二五号室を出た。エントランスの階段の踊り場で、心地よい春風が彼女の頬を撫で、肩の辺りまで伸びた黒髪が靡いた。
葉桜の季節が来た。春たけなわ、育児休暇明けのこの日、美鈴は今年三歳になる愛娘和葉を保育園に預けると、最寄りの地下鉄の駅へ向かった。
閑静な住宅街を駅に向かって歩く美鈴の横を、通学通勤のために駅へ向かって歩く人々が通り過ぎる。左手の腕時計に目を落とす。間もなく午前七時三十分になる。
白いブラウスに濃紺のレディーススカートスーツを合わせた美鈴は、心持ち足早になる。身長一六八センチ、バストサイズは八十七のFカップ、ウエストサイス五十八、ヒップはプリっとして上を向いた八十七センチ。とても子供を一人産んだとは思えない程見事なプロポーションをしている。スカートスーツが少し窮屈そうだ。美鈴は北口から駅構内に入り、都心方面行のホームへ向かう。
夫沢村翔馬と知り合ったのは、四年前陽光学園に国語教師として赴任していた時だった。その翌年、長女和葉を出産すると同時に、育児休暇を取得した。今年、娘が三歳を迎えるのを機に、美鈴は教職に復帰することを決めたのだ。この春から彼女が勤務する先は、都心にある城北学園だ。そこで国語教師として働くことになった。しかし、夫翔馬はそれを快く思わなかった。
「そんなに慌てず復帰しなくてもいいだろう」
翔馬は眉を顰め反対した。
だが、結婚した時以来の夫婦の夢であるマイホームを持つため、美鈴は共働きの道を選択するに至った。
大学卒業後、初めて教壇に立った時以来の新鮮な気持ちで胸が高鳴り、美鈴は妙な興奮を覚えた。パンパンと両頬を手で打ち、気合を入れる。
美鈴は、C県内で暮らす両親の勧めで、特に父親の影響で、小学生の頃から彼手を習っていた。現在では黒帯二段の実力者だ。地元のインターハイ予選では準優勝までいったこともあった。
美鈴はホームに下り、辺りを見回す。地下鉄駅構内は通勤通学の客で溢れていた。美鈴は都心方面行の列車を待つ人々の列に加わった。ホームに案内放送が流れる。程なくして午前七時三十四分発の列車が、ホームに入って来た。ドアが開き、乗車を促すメロディが流れ、乗車待ちの客たちが乗り込む。
美鈴は人混みに押され、車両の奥へと進んだ。始発駅の次の駅でこの混み具合だから、その次の駅では、更に乗客が乗り込んで来て、列車内はまさに鮨詰め状態となった。悪いことにこの地下鉄には、女性専用車両がなかった。
列車が走り出すと同時に、車両が揺れた。背後に立つ男が美鈴に密着する。最初は、車両が揺れたため、男性の下半身が彼女の臀部に当たったのかと思った。だが、直ぐにそれは間違いだと気づいた。
(えっ!? 何……!?)
美鈴は臀部に違和感を覚え、込み合う車内で、首だけで振り向き、密着する男を見やった。
五十代半ば、もしかするとアラ還かも知れないが、濃紺のビジネススーツを着たバーコードハゲの男性が真後ろに突っ立っていた。
美鈴はその男を睨みつけ、身体全体でゆっくりと振り返った。先ほど違和感を覚えた男の下半身に目をやると、勃起した赤黒い男根があった。
「ひいぃぃぃぃ……」
美鈴は思わず声を上げてしまった。
彼女の周りにいる乗客が何事かと思い、こちらを見詰めて来る。
美鈴に痴漢行為を働く男は、分厚いたらこ唇の端に、泡状の唾を蓄え下卑た笑みを浮かべているではないか。
普通の女性なら、痴漢に遭遇した恐怖で身体が委縮し、なし崩しになされるがまま臀部を弄られるに違いない。しかし美鈴は正義感の強い女性だった。痴漢行為を働くような卑劣極まりない男を許すことはなかった。
「この人痴漢ですっ」
声を上げると同時に、卑劣な中年男性の左頬を右手で平手打ちする。
「痛ぇっ」
顔を歪める男の手首を鷲掴みすると、美鈴は次の駅で痴漢男とともに下車した。そして痴漢男を駆け付けた駅員に引き渡した。
葉桜の季節が来た。春たけなわ、育児休暇明けのこの日、美鈴は今年三歳になる愛娘和葉を保育園に預けると、最寄りの地下鉄の駅へ向かった。
閑静な住宅街を駅に向かって歩く美鈴の横を、通学通勤のために駅へ向かって歩く人々が通り過ぎる。左手の腕時計に目を落とす。間もなく午前七時三十分になる。
白いブラウスに濃紺のレディーススカートスーツを合わせた美鈴は、心持ち足早になる。身長一六八センチ、バストサイズは八十七のFカップ、ウエストサイス五十八、ヒップはプリっとして上を向いた八十七センチ。とても子供を一人産んだとは思えない程見事なプロポーションをしている。スカートスーツが少し窮屈そうだ。美鈴は北口から駅構内に入り、都心方面行のホームへ向かう。
夫沢村翔馬と知り合ったのは、四年前陽光学園に国語教師として赴任していた時だった。その翌年、長女和葉を出産すると同時に、育児休暇を取得した。今年、娘が三歳を迎えるのを機に、美鈴は教職に復帰することを決めたのだ。この春から彼女が勤務する先は、都心にある城北学園だ。そこで国語教師として働くことになった。しかし、夫翔馬はそれを快く思わなかった。
「そんなに慌てず復帰しなくてもいいだろう」
翔馬は眉を顰め反対した。
だが、結婚した時以来の夫婦の夢であるマイホームを持つため、美鈴は共働きの道を選択するに至った。
大学卒業後、初めて教壇に立った時以来の新鮮な気持ちで胸が高鳴り、美鈴は妙な興奮を覚えた。パンパンと両頬を手で打ち、気合を入れる。
美鈴は、C県内で暮らす両親の勧めで、特に父親の影響で、小学生の頃から彼手を習っていた。現在では黒帯二段の実力者だ。地元のインターハイ予選では準優勝までいったこともあった。
美鈴はホームに下り、辺りを見回す。地下鉄駅構内は通勤通学の客で溢れていた。美鈴は都心方面行の列車を待つ人々の列に加わった。ホームに案内放送が流れる。程なくして午前七時三十四分発の列車が、ホームに入って来た。ドアが開き、乗車を促すメロディが流れ、乗車待ちの客たちが乗り込む。
美鈴は人混みに押され、車両の奥へと進んだ。始発駅の次の駅でこの混み具合だから、その次の駅では、更に乗客が乗り込んで来て、列車内はまさに鮨詰め状態となった。悪いことにこの地下鉄には、女性専用車両がなかった。
列車が走り出すと同時に、車両が揺れた。背後に立つ男が美鈴に密着する。最初は、車両が揺れたため、男性の下半身が彼女の臀部に当たったのかと思った。だが、直ぐにそれは間違いだと気づいた。
(えっ!? 何……!?)
美鈴は臀部に違和感を覚え、込み合う車内で、首だけで振り向き、密着する男を見やった。
五十代半ば、もしかするとアラ還かも知れないが、濃紺のビジネススーツを着たバーコードハゲの男性が真後ろに突っ立っていた。
美鈴はその男を睨みつけ、身体全体でゆっくりと振り返った。先ほど違和感を覚えた男の下半身に目をやると、勃起した赤黒い男根があった。
「ひいぃぃぃぃ……」
美鈴は思わず声を上げてしまった。
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「この人痴漢ですっ」
声を上げると同時に、卑劣な中年男性の左頬を右手で平手打ちする。
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