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第六章 2
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職員室を出ると、美鈴は顧問を受け持つ茶道部の部室に久し振りに顔を出した。期末試験も終了し、今日から文化部も活動が再開されたのだ。
ドアを開け、室内を入った。
「あら、水野さんは……? それに細川さんもいないのね。二人とも期末試験はちゃんと受けていたのに……」
怪訝そうに顔を顰めながら部員の真下香織に尋ねる。
「先生……あのこれ」
といって香織は、二人から預かった退部届を美鈴に手渡した。
「退部届って……一体何があったの……」
(まさか、あの子たち、痴漢被害に遭ったことを気にし、私に気兼ねしているのかしら)
「部員がたったの三名じゃ存続も怪しい……」
少し曇りがちな表情で真野純恋がいう。
「えぇっ、そんなんですか先輩」
今年城北学園に入った一年生の速水恵梨香が、困惑気味に問い掛けると、香織と純恋が頷き合った。そして顧問の美鈴の顔に視線を向けた。
「まあ、そう簡単に廃部にはならないと思うけど、来年新入部員が入って来なかった場合何ともいえないわ」
(取り敢えず明日あの子たちに会って、真意を確かめなくっちゃ……)
美鈴は、突然退部届を提出した真由子と愛実のことが気になり、考え込んでしまった。
「あの……先生」
と香織に声を掛けられ、ハッと我に返る。
「今日はどうするんですか……?」
夏服の白いブラウスに身を包んだ清らかな女生徒は、如何にも不安そうな眼差しを人妻女教師に向けた。
こんなことをしていても時間の無駄だ。美鈴は鬱陶しい気分を晴らすため、
「では、今日は速水さんあなたが亭主になって私たち三人に濃茶を練って下さい」
「えっ!? 私がですか」
「はい」
美鈴は肉厚の唇の端に笑みを作り頷いた。
亭主役を任された恵梨香は、赤楽茶碗に濃茶を練り始めた。
「どうぞ」
と主客を務める香織の目の前に茶碗を置いた。
香織は作法に則り濃茶を飲むと、次の客の純恋に回した。彼女も茶碗に唇を着け濃茶を飲んだ。最後に顧問の美鈴が、恵梨香が初めて練った濃茶を味わった。
「うぅん、少し練り方が足りないようね……」
感想を口にすると、美鈴は濃茶の練り方について指導する。
この日の部活が終了したのは、午後四時を少し回った頃だった。生徒たちと一緒に部室を離れると、美鈴は一旦私物を取りに職員室に戻った。
午後四時二十分、校舎を出ると数人の教職員や生徒たちと一緒に駅までの道を歩いた。真夏のこの時期は午後四時過ぎでもまだ日が高く、容赦なく照りつける。少し歩いただけで汗だくになって、パンツスーツの中が蒸れて気持ち悪い。半袖シャツの胸元を抓んでハタハタと叩く。薄っすらと汗ばんで、白いブラジャーが透けて見える。男子生徒や男性教師には悩ましい光景であるに違いない。痴漢被害に遭ってからというもの美鈴は、男性たちを刺激しないよう特に服装には気を使っていた。しかし、こう暑いと如何に服装に気を使っても、蒸れた汗の匂いは中々消すことは難しい。美鈴は地下鉄に乗る前に、女性専用トイレに入り、脇の下やデリケートゾーンにデオドラントスプレーを吹き掛けた。清楚感漂うシトラスの香りが彼女の鼻腔を擽った。
(うん、これで良し)
幸いにも、期末試験の初日に公衆トイレに連れ込まれ横井たちの凌辱を受けて以来、一度も彼らと遭うことはなかった。
女性トイレを出ると、美鈴は地下道をホームへ向かって歩き出した。ホームでると乗車待ちをする乗客たちの列に加わった。暫くして、案内放送が流れ、間を置かずホームに列車が到着した。
ドアを開け、室内を入った。
「あら、水野さんは……? それに細川さんもいないのね。二人とも期末試験はちゃんと受けていたのに……」
怪訝そうに顔を顰めながら部員の真下香織に尋ねる。
「先生……あのこれ」
といって香織は、二人から預かった退部届を美鈴に手渡した。
「退部届って……一体何があったの……」
(まさか、あの子たち、痴漢被害に遭ったことを気にし、私に気兼ねしているのかしら)
「部員がたったの三名じゃ存続も怪しい……」
少し曇りがちな表情で真野純恋がいう。
「えぇっ、そんなんですか先輩」
今年城北学園に入った一年生の速水恵梨香が、困惑気味に問い掛けると、香織と純恋が頷き合った。そして顧問の美鈴の顔に視線を向けた。
「まあ、そう簡単に廃部にはならないと思うけど、来年新入部員が入って来なかった場合何ともいえないわ」
(取り敢えず明日あの子たちに会って、真意を確かめなくっちゃ……)
美鈴は、突然退部届を提出した真由子と愛実のことが気になり、考え込んでしまった。
「あの……先生」
と香織に声を掛けられ、ハッと我に返る。
「今日はどうするんですか……?」
夏服の白いブラウスに身を包んだ清らかな女生徒は、如何にも不安そうな眼差しを人妻女教師に向けた。
こんなことをしていても時間の無駄だ。美鈴は鬱陶しい気分を晴らすため、
「では、今日は速水さんあなたが亭主になって私たち三人に濃茶を練って下さい」
「えっ!? 私がですか」
「はい」
美鈴は肉厚の唇の端に笑みを作り頷いた。
亭主役を任された恵梨香は、赤楽茶碗に濃茶を練り始めた。
「どうぞ」
と主客を務める香織の目の前に茶碗を置いた。
香織は作法に則り濃茶を飲むと、次の客の純恋に回した。彼女も茶碗に唇を着け濃茶を飲んだ。最後に顧問の美鈴が、恵梨香が初めて練った濃茶を味わった。
「うぅん、少し練り方が足りないようね……」
感想を口にすると、美鈴は濃茶の練り方について指導する。
この日の部活が終了したのは、午後四時を少し回った頃だった。生徒たちと一緒に部室を離れると、美鈴は一旦私物を取りに職員室に戻った。
午後四時二十分、校舎を出ると数人の教職員や生徒たちと一緒に駅までの道を歩いた。真夏のこの時期は午後四時過ぎでもまだ日が高く、容赦なく照りつける。少し歩いただけで汗だくになって、パンツスーツの中が蒸れて気持ち悪い。半袖シャツの胸元を抓んでハタハタと叩く。薄っすらと汗ばんで、白いブラジャーが透けて見える。男子生徒や男性教師には悩ましい光景であるに違いない。痴漢被害に遭ってからというもの美鈴は、男性たちを刺激しないよう特に服装には気を使っていた。しかし、こう暑いと如何に服装に気を使っても、蒸れた汗の匂いは中々消すことは難しい。美鈴は地下鉄に乗る前に、女性専用トイレに入り、脇の下やデリケートゾーンにデオドラントスプレーを吹き掛けた。清楚感漂うシトラスの香りが彼女の鼻腔を擽った。
(うん、これで良し)
幸いにも、期末試験の初日に公衆トイレに連れ込まれ横井たちの凌辱を受けて以来、一度も彼らと遭うことはなかった。
女性トイレを出ると、美鈴は地下道をホームへ向かって歩き出した。ホームでると乗車待ちをする乗客たちの列に加わった。暫くして、案内放送が流れ、間を置かずホームに列車が到着した。
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