捜査一課殺人犯捜査第四係 異常犯罪捜査班 比嘉可南子

繁村錦

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CHAPTER2

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 武蔵野市○○総合病院勤務看護師殺人並び死体遺棄事件
 被害者氏名、葛城早苗、事件当時の年齢二十七歳
 本籍、千葉県船橋市飯山満町三丁目 
 住所、東京都三鷹市下連雀一丁目○○○
 血液型、Rh+A型
 身長、百六十四センチ、体重、四十八キロ
 平成○○年七月八日木曜日午後六時十分頃、勤務先の武蔵野市の○○総合病院から帰宅途中に、三鷹市下連雀一丁目○○、井の頭公園前の都道一一四号線通称吉祥寺通りの路上で、何者かによって拉致される。四日後の十三日金曜日午前五時二十分頃、東京都西多摩郡日の出町平井の山中で、絞殺体(全裸)となって発見される。第一発見者は、農作業に訪れていた西多摩郡日の出町平井在住の四十九歳の男性、柏木聡一郎。発見時遺体は、全頭レザーマスクで顔を覆われ、SMグッズの拘束棒を使って、両腕、両足の自由を奪われていた。容疑者の特定に至らず。

 T中央銀行赤羽支店勤務女性行員殺人並び死体遺棄事件
 被害者氏名、吉川由唯、事件当時の年齢二十五歳
 本籍、東京都青梅市根ヶ布一丁目○○
 住所、東京都北区昭和町三丁目○○
 血液型、Rh+B型
 身長、百五十九センチ、体重、四十九キロ
 平成○○年八月十日火曜日午後九時二十分頃、勤務先のT中央銀行赤羽支店から帰宅途中に、都道三〇六号線通称明治通り北区昭和町二丁目交差点付近の路上で、何者かによって拉致される。四日後の十二日月曜日午前五時五分頃、埼玉県川口市荒川町の河川敷で、刺殺体(全裸)となって発見される。第一発見者は、犬の散歩に訪れていた川口市飯塚町四丁目在住の五十九歳の女性、松戸佳代。発見時死体は、縫い針と糸で唇を綴じられ、指を後ろ手に拘束バンドで縛られていた。容疑者の特定には至らず。

 国立市富士見台私立□□小学校女性教諭殺人並び死体遺棄事件
 被害者氏名、安城典子、事件当時の年齢三十一歳
 本籍、神奈川県逗子市桜山七丁目○○ 
 住所、東京都多摩市連光寺三丁目○○ 
 血液型、Rh+AB型
 身長、百六十二センチ、体重、五十キロ
 平成○○年十一月十五日月曜日午後五時五十分頃、勤務先の国立市富士見台二丁目の私立□□小学校から帰宅途中に、○○バス富士見台二丁目バス停付近で、何者かによって拉致される。五日後の二十日土曜日午前六時五十分頃、大田区西六郷の東海道本線高架橋下で遺体の一部(左腕)、翌二十一日日曜日から二十二日月曜日に掛けて、都内及び神奈川県側の多摩川の河川敷で、相次いで遺体の一部(胸部、右肢、頭部)が発見される。なお、右肢には生活反応が認められ、生きたまま足を切り取られたことを示唆している。遺体の一部は未発見のままである。事件当時、警察関係者は、被害者女性が勤務する□□小学校の同僚教師徳田覚を本件重要参考人としてマークしていたが、同年、十二月四日土曜日午前六時頃、府中市住吉町一丁目のアパート○○荘の一室で、首を吊って自殺。後日、真犯人から安城典子の死体解体時の映像を録画したDVDが、捜査本部に送られてきた。容疑者の特定に至らず。

 三つの資料と、それに付随する写真にざっと目を通す。勿論、民間で入手できる情報に限られているが。
 この三つの事件は、数年前に起こったものだった。
 可南子がまだ学生の頃に世間を騒がせた事件ばかりだ。

「ありがとうございます先生」

 と頭をさげ、可南子は左隣で先ほどから蒼白い顔のまま頻りに生唾を呑み込んでいる田村に、

「あとでコピー機借りといて」

 と冷たく告げた。

「わ、わかりました。しかしよく平気っスね……」

「慣れよ、慣れ。刑事の仕事は慣れるしかないのよ」

「慣れろって言われても、やっぱ、無理なもんは無理っス」

 田村は愚痴を零しつつ資料を受け取った。その顔には精がなく、まるで老人のようだった。

「三つとも全部、コピーだから持って帰ってもいいわよ、刑事さん」

 山口が意味あり気に微笑する。

「重ね重ね感謝致します」

 可南子は対座する恩師に頭をさげつつ、ゆっくりと立ちあがった。
 そして振り向き様、田村のしょぼくれ顔を見る。

「いつまで座ってんの、いくよ。そこ邪魔だから退いて。キミが退いてくれなきゃ、通れないじゃない」

「す、済みません。気つきませんで……」

 田村が憮然と謝る。

「ごめんなさいね、刑事さん。なんせ、研究室が狭いもので」

 面目なさ気に東谷は苦笑する。

「あっ、先生、済みません。別にそう言う意味じゃなく、私、その……」

「いいのよ気にしなくて、狭いってのは、本当のことだから。ね、山口さん」

「ええ、まあ、その……」

 山口も、どう答えていいのかわからず、卑屈な作り笑いを浮かべる。

「ほら、見なさい。キミの所為でみんな、困ってんじゃないっ!」

「えっ、全部僕が悪いんですか……?」

 田村は自分の顔を指差す。

「当ったり前でしょーがぁ、ぼうっとしてないで、ほら、さっさと退く」

 可南子は、自分よりも身体の大きい身長一八七センチもある田村を押し出すように、一歩前に進んだ。
 ドアの前でもう一度頭を下げ、礼の言葉を述べる。

「本日はお忙しい中、貴重なお時間を割いて頂きありがとうございました」

「比嘉さん、それにそちらのお若い刑事さんも、身体には十分気をつけてね」

 東谷に見送られ、二人は研究室を後にした。
 捜査本部がある代々木中央署に戻る車中で、田村は前を向いたまま、可南子に話し掛けた。

「可愛かったスね」

「はあ?」

 空返事だ。
 可南子の頭の中は、先ほど恩師東谷朱美教授から特別に提供してもらった研究資料のことで一杯だった。

「僕の話聞いているんですか」

「えっ、何」

「あの子、可愛かったスね」

「学生さんのこと」

「違いますよ、ほら、助手の女の子。確か名前は、山口優奈さんだったかな」

「えっ!? 田村君、もしかしてキミ、あんな子が趣味なの? ふうん、そうなんだ」

「わ、悪いっスか。別にいいじゃないっスか、僕がどこの誰を好きなろうと、比嘉警部補には関係ないでしょ」

 と少し不貞腐れ、アクセルを踏み込む。
 図星だ。どうやら田村の奴、本当にあの娘の惚れているようだ。

「おいおい、飛ばし過ぎよ。いくら覆面パトとは言え、もう少しスピード抑えて抑えて」

 可南子は真顔で制す。
 こんなところで事故でも起こしたら洒落にならない。
 そのあと、車内がちょっと気拙い雰囲気のまま、代々木中央署へ戻った。
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