7 / 35
CHAPTER2
1
しおりを挟む
二十七日、火曜日、午前八時。
朝一番の捜査会議。
可南子は、例のひき逃げ事故の件を松原に報告するが、
「そのひき逃げ事故と、本件とは関係ないだろう」
と一蹴された。
全く相手にもされない。会議に出た八十人ほどの捜査員が失笑する。恥ずかしさのあまり双頬と耳朶が熱くなる。耐え難い屈辱を受けた感があった。
――今に見ていろ、松原の奴、必ずギャフンといわせてやるからなっ!
腹立たしさのあまり、可南子は下唇を強く噛み締めた。
その間、会議の席上では、捜査員たちが、敷鑑、地取り、ナシ割りの順に、各班捜査の進捗状況を報告していった。
「現場に残されていたゲソ痕(靴跡)から、犯行時犯人たちが履いていた靴が判明しました。中国河北省保定市に本社工場がある○○鞋業有限公司で製造された二七・〇センチと、同じく中国製の二六・五センチ、二六・〇センチのスニーカー三足です。主に中国国内で販売され、他台湾や東南アジア各国に輸出させています。なお、日本国内での販売実績はありません」
可南子の左隣に座る柘植警部補が報告した。してやったりのドヤ顔で可南子を見る。
ここで更に、科学捜査第二係長古畑克己警部が、犯人特定に繋がる有力な情報を報告した。
「科捜研の方で現場に残されていた血痕と精液に付いて調べた結果、全部で四種類の血痕がありました」
「四種類?」
可南子は右隣の席に座る古畑を見た。
古畑は悪戯な笑みを浮かべつつ頷く。
「まず、Rh+A型。これは殺害された犀川昌史さんの血液型です。次に、Rh+B型。遥さんと、長女理乃ちゃんの血液型と一致します。そして、Rh+O型。長男流星君の血液型です。最後に、Rh+AB型。これは犀川一家四人のうち誰とも一致しません」
「ってことは、これが犯人の中の誰か一人の血液型ってこと……?」
「比嘉警部補、会議中です。私語は謹んで下さい」
桜庭が釘を刺す。
「済みません……」
可南子は舌を出し、面目なさ気に頭を下げる。
松原が徐にマイクを手に取った。
「比嘉警部補の指摘通り、現場に残されていたそのRh+AB型の血痕が、犯人のモノである可能性が極めて高い」
松原の発言を受け、再び古畑が挙手した。
「科捜研にて、現場に残されていたこのRh+AB型の血痕のDNAを解析した結果、ミトコンドリアのハプログループと、Y染色体のハプログループが判明しました」
古畑の報告は続く。可南子は、指先でボールペンを弄びクルクルと回しながら聞いていた。
因みに、ハプログループとは、単一の一塩基多型変異を有した共通祖先を持つハプロタイプの集団を指す言葉だ。これを調べることによって、犯人の人種的ルーツを知ることが可能となり、結果的に検挙に繋がる。
文系出身の可南子は、数少ない友人の一人で所謂リケジョの沙織から、殺人事件が発生する度ハプログループに付いて事細かに説明を受けたが、全く理解出来なかった。遂最近まで、遺伝子とDNAと染色体が全て同じモノだと思い、その違いがわからなかったくらいだ。
「……Y染色体は、中国、朝鮮系に多いハプログループO2-M112で、ミトコンドリアのDNAは、ハプログループCで、これも大陸系であることが判明しました。この二点を踏まえて結論付けると、現場に残されていたRh+AB型の血痕の持ち主は、先祖が中国系、或いは自身が中国籍を持つ人物という可能性が高いです。以上です」
古畑の報告が終わると、松原がマイクを手に取った。
「諸君っ!! 犯行は中国人男性の手によるものと考えるのが妥当だ。このところ関東周辺で強盗事件を繰り返す、日本、中国、韓国人混成の国際窃盗団の動きが活発化している。このことからも、これらの犯罪組織が今回の事件に関与している可能性が高いと思われる。これ以上、奴らに卑劣な犯行を繰り返させてはならい。一刻も早い犯人グループの検挙に向けて全力を注いでくれたまえ」
熱血漢の松原は唾を飛ばしながら熱弁を振るった。
松原がマイクを置き、着席するのを見計らって、桜庭が口を開いた。
「他に何かないか?」
指先で老眼鏡を上げ、捜査員全員の顔を見回す。
「なければこれで会議を終了する。以上、解散」
聞き込みなどで会議に出席出来なかった人間を除く八十人ほどの捜査員が、一斉に立ち上がり、講堂がざわついた。皆我先に講堂を出て、捜査の任に就く。誰もが手柄を立てようと必死だった。特に所轄の捜査員はそれが如実に表れて、行動となって出た。ここで名を売れば、本庁勤務も夢ではない。
――国際窃盗団の犯行ね……? 何か腑に落ちないんだけど。顔見知りよる犯行、それもひき逃げ事故絡みの……
私は、この線が濃厚だと思うんだけどなぁ。
可南子は、先ほどの会議で自らが掴んだひき逃げ事故に付いて、松原に全く相手にされなかったため、半分納得いかず、不貞腐れながら資料を整理して鞄に詰め込んだ。
講堂の後方で待機する相棒の高山が、不安気に可南子を見詰めている。
朝一番の捜査会議。
可南子は、例のひき逃げ事故の件を松原に報告するが、
「そのひき逃げ事故と、本件とは関係ないだろう」
と一蹴された。
全く相手にもされない。会議に出た八十人ほどの捜査員が失笑する。恥ずかしさのあまり双頬と耳朶が熱くなる。耐え難い屈辱を受けた感があった。
――今に見ていろ、松原の奴、必ずギャフンといわせてやるからなっ!
腹立たしさのあまり、可南子は下唇を強く噛み締めた。
その間、会議の席上では、捜査員たちが、敷鑑、地取り、ナシ割りの順に、各班捜査の進捗状況を報告していった。
「現場に残されていたゲソ痕(靴跡)から、犯行時犯人たちが履いていた靴が判明しました。中国河北省保定市に本社工場がある○○鞋業有限公司で製造された二七・〇センチと、同じく中国製の二六・五センチ、二六・〇センチのスニーカー三足です。主に中国国内で販売され、他台湾や東南アジア各国に輸出させています。なお、日本国内での販売実績はありません」
可南子の左隣に座る柘植警部補が報告した。してやったりのドヤ顔で可南子を見る。
ここで更に、科学捜査第二係長古畑克己警部が、犯人特定に繋がる有力な情報を報告した。
「科捜研の方で現場に残されていた血痕と精液に付いて調べた結果、全部で四種類の血痕がありました」
「四種類?」
可南子は右隣の席に座る古畑を見た。
古畑は悪戯な笑みを浮かべつつ頷く。
「まず、Rh+A型。これは殺害された犀川昌史さんの血液型です。次に、Rh+B型。遥さんと、長女理乃ちゃんの血液型と一致します。そして、Rh+O型。長男流星君の血液型です。最後に、Rh+AB型。これは犀川一家四人のうち誰とも一致しません」
「ってことは、これが犯人の中の誰か一人の血液型ってこと……?」
「比嘉警部補、会議中です。私語は謹んで下さい」
桜庭が釘を刺す。
「済みません……」
可南子は舌を出し、面目なさ気に頭を下げる。
松原が徐にマイクを手に取った。
「比嘉警部補の指摘通り、現場に残されていたそのRh+AB型の血痕が、犯人のモノである可能性が極めて高い」
松原の発言を受け、再び古畑が挙手した。
「科捜研にて、現場に残されていたこのRh+AB型の血痕のDNAを解析した結果、ミトコンドリアのハプログループと、Y染色体のハプログループが判明しました」
古畑の報告は続く。可南子は、指先でボールペンを弄びクルクルと回しながら聞いていた。
因みに、ハプログループとは、単一の一塩基多型変異を有した共通祖先を持つハプロタイプの集団を指す言葉だ。これを調べることによって、犯人の人種的ルーツを知ることが可能となり、結果的に検挙に繋がる。
文系出身の可南子は、数少ない友人の一人で所謂リケジョの沙織から、殺人事件が発生する度ハプログループに付いて事細かに説明を受けたが、全く理解出来なかった。遂最近まで、遺伝子とDNAと染色体が全て同じモノだと思い、その違いがわからなかったくらいだ。
「……Y染色体は、中国、朝鮮系に多いハプログループO2-M112で、ミトコンドリアのDNAは、ハプログループCで、これも大陸系であることが判明しました。この二点を踏まえて結論付けると、現場に残されていたRh+AB型の血痕の持ち主は、先祖が中国系、或いは自身が中国籍を持つ人物という可能性が高いです。以上です」
古畑の報告が終わると、松原がマイクを手に取った。
「諸君っ!! 犯行は中国人男性の手によるものと考えるのが妥当だ。このところ関東周辺で強盗事件を繰り返す、日本、中国、韓国人混成の国際窃盗団の動きが活発化している。このことからも、これらの犯罪組織が今回の事件に関与している可能性が高いと思われる。これ以上、奴らに卑劣な犯行を繰り返させてはならい。一刻も早い犯人グループの検挙に向けて全力を注いでくれたまえ」
熱血漢の松原は唾を飛ばしながら熱弁を振るった。
松原がマイクを置き、着席するのを見計らって、桜庭が口を開いた。
「他に何かないか?」
指先で老眼鏡を上げ、捜査員全員の顔を見回す。
「なければこれで会議を終了する。以上、解散」
聞き込みなどで会議に出席出来なかった人間を除く八十人ほどの捜査員が、一斉に立ち上がり、講堂がざわついた。皆我先に講堂を出て、捜査の任に就く。誰もが手柄を立てようと必死だった。特に所轄の捜査員はそれが如実に表れて、行動となって出た。ここで名を売れば、本庁勤務も夢ではない。
――国際窃盗団の犯行ね……? 何か腑に落ちないんだけど。顔見知りよる犯行、それもひき逃げ事故絡みの……
私は、この線が濃厚だと思うんだけどなぁ。
可南子は、先ほどの会議で自らが掴んだひき逃げ事故に付いて、松原に全く相手にされなかったため、半分納得いかず、不貞腐れながら資料を整理して鞄に詰め込んだ。
講堂の後方で待機する相棒の高山が、不安気に可南子を見詰めている。
1
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる