捜査一課 猟奇殺人犯捜査官 比嘉可南子 

繁村錦

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INTERLUDE 5

INTERLUDE 5

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 稲城市向陽台一丁目○‐○○。閑静な家が建ち並ぶ住宅街の一角に、椎名秀幸は息子夫婦と二人の孫娘たちと暮らしていた。秀幸は一年前まで、T外国語大学外国語学部でフランス語を教えていた。退職後は、教授時代から趣味として行っていた執筆活動を本格的に開始し、阿笠久利須のペンネームで推理小説家として文壇デビューを果たした。
 午前七時、秀幸はいつものように、向陽台一丁目○‐○○の自宅を出た。三十年近く勤めた大学を退官して以来、毎朝日課にしている愛犬の散歩のためだ。孫娘たちにせがまれ、昨年の夏から飼い始めた雌のトイプードル。名前はモモと孫たちが名付けた。
 お決まりの散歩コースは、この閑静な住宅地を一周して、隣接する都道十九号線堅谷戸大橋交差点まで行き、自宅へ戻るというコースだった。所要時間して約三十分ほどだ。
 堅谷戸大橋交差点に近付いた時だった。犬が何かを発見し、急に吠え出した。

「どうしたんだ?」

 秀幸は訝し気に首を傾げた。

「何をそんなに吠えているんだ。モモちゃん?」

 秀幸が強くリードを引っ張っても、モモは全く動こうとはしない。

「疲れたので、抱っこして欲しいのかモモ?」

 秀幸は勘違いして犬を抱きあげた。

 だが、モモは一向に鳴き止まず、堅谷戸大橋の高架下に向かって吠え捲っていた。

「ん?」

 秀幸は目を凝らした。モモが吠えるその先に何があるのか確かめる。
 高架に何か赤黒い物体がぶらさがっていた。どうやらモモは、あれに向かって吠えていたらしい。

「何だろうあれは?」

 秀幸も、それが何か気になり始め、正体を確かめることにした。
 ゆっくりとそれが確認できるところまで歩いて行く。
 異臭がした。錆びた鉄の匂いと肉の匂いだ。音も聞こえる。蠅の羽音だ。数十匹、いや百匹以上も飛んでいる。更に血の臭いを嗅ぎ付け、獲物にあり付こうと数羽のカラスまでいた。
 何だ、あれは?
 人間、なのか……?
 あの下にぶら下がっているものは、あれは、内臓なのか?
 秀幸の思考は完全に停止した。
 遠くの方で犬が吠えていた。
 あれは、モモか……?
 おい、モモ、待ちなさい……。
 私をおいて行かないでくれ……。
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