29 / 57
CHAPTER 5
11
しおりを挟む
「ねえ、柳君」
と私は、一番端の廊下側の席に座る青年に声を掛けた。
「あっ、比嘉さん、お珍しい。殺人班のあなたが泥棒専門の捜査三課に顔を出すなんて、どういう風の吹き回しですか」
柳剛史巡査部長はMacのキーボードを打つ手を止め、見あげるように私の顔を見た。
「劉禅輝っていう中国人知ってる? 蛇頭のリーダーらしいんだけど」
「劉禅輝ですか、はい、もちろん知っています」
「そう」
頷きつつ私は更に質問した。
「その劉が束ねる国際窃盗団のアジトに付いて何か知っている」
問われ、柳は眉間に皺を寄せ、訝し気な表情になった。
「……比嘉さん。あなた一体何を追っているんですか?」
「警視庁管内で発生している連続猟奇殺人事件の被疑者」
「それと、劉が束ねる国際窃盗団と一体どんな関係があるんですか」
私は一瞬躊躇ったあと、柳の耳元に唇を寄せた。
「被疑者が、その国際窃盗団の一味だっていう情報を、とある筋から入手したのよ」
「比嘉さんが追っている事件の被疑者って、確かあの小林清志ですよね」
「そうよ。あの小林清志よ」
「情報の出どころは」
「井の頭公園で暮らす及川っていうホームレス」
「ホームレス」
柳は鸚鵡返しに素っ頓狂な声をあげた。
「情報が本当なのかそれともガセなのか、私にはわからない。だからこうして泥棒専門のキミに訊いてるの」
「小林が、劉と行動を共にしているって情報は、僕も知りませんでした。今初めて知りました」
「そう、無駄足か……。因みにその窃盗団のアジトってどこにあるか知っている」
私に訊ねられ、柳は少し考えこんだ。右の蟀谷辺りを指先で押さえながら、低い声で唸った後、二十代後半の若い男性刑事は口を開いた。
「都内だと、武蔵村山市と八王子、それ以外は、神奈川だと相模原市……」
「八王子市内のアジトって、詳しい住所わかる」
「八王子ですか……。ちょっと待ってください」
柳は一旦私から視線を外した。
「おい、誰か、五係が追っている例の劉禅輝が率いる国際窃盗団のアジト知っている奴いないか」
すると、五係の席に座る一人の女性捜査員が、
「私、知っています」
といって徐に立ちあがった。
私はその女性捜査員に視線を走らせた。
「捜一の比嘉です。彼は、所轄の立花君君です」
「東京湾岸中央署の立花君です」
「捜三五係の岡本です」
「岡本さん。早速ですが、お宅が追っている国際窃盗団のアジトに付いて詳しい情報を教えて頂きたいのですが?」
頷くと岡本渚巡査部長は、デスクの引き出しを開け、中からシステム手帳を取り出した。
「武蔵村山だと、市役所近くの『コーポ○□武蔵村山』二十三号室。八王子は、JR西八王子駅前のアパート『メゾン○○西八王子』二十四号室。相模原は、在日米陸軍相模総合補給廠前の『メゾン相模原○○』二十一号室ですね。でも、行っても無駄ですよ。今現在は全て引き払われていて蛻の殻です……」
「そう、残念ね。八王子市内に連中が利用していたアジトって、その『メゾン○○西八王子』以外に他にないの」
「さあ、わかりません。お役に立てなくて済みません」
「いいえ、こちらこそ、お仕事中手を止めて、ごめんなさいね」
私は渚に目礼した。
その時だった。私の背後に立つ立花君のスマホが最新曲を奏でた。
「公衆電話からだ。誰からだろう」
「早く出なさいよ」
振り返り私は告げた。
「もしもし、はい、立花君です。ああ、及川さんか。ええ、例の窃盗団のアジトの件ですか。住所がわかったって、JR西八王子駅前のアパート『メゾン○○西八王子』二十四号室でしょ。こちらでも調べました。えっ!? 違う。『メゾン○○西八王子』二十四号室じゃないって……ちょっと待って、今、ボールペンとメモを用意するから」
立花君は、スマホを左肩と耳の間に挟んだあと、ボールペンとメモ帳を取り出した。
「はい、どうぞ。京王八王子駅近くの『シティハイツ○○八王子』二十六号室、二階の角部屋ですか。それで、その情報の出どころは? はあ、企業秘密で教えられないって、及川さんちょっとあんたっ」
立花君は首を傾げた。
「あれ、もう切れてる」
「京王八王子駅近くの『シティハイツ○○八王子』二十六号室か……」
私は低い声でいった。
「すぐにうちの捜査員を向かわせます」
捜査三課の女性刑事は、少し興奮気味にいった。
「待って、わたしたちも同行するわ」
そういうと、私は岡本さんの目を見た。
捜査三課の女性刑事は、不満があるのか下唇を少し尖らせて頷いた。
と私は、一番端の廊下側の席に座る青年に声を掛けた。
「あっ、比嘉さん、お珍しい。殺人班のあなたが泥棒専門の捜査三課に顔を出すなんて、どういう風の吹き回しですか」
柳剛史巡査部長はMacのキーボードを打つ手を止め、見あげるように私の顔を見た。
「劉禅輝っていう中国人知ってる? 蛇頭のリーダーらしいんだけど」
「劉禅輝ですか、はい、もちろん知っています」
「そう」
頷きつつ私は更に質問した。
「その劉が束ねる国際窃盗団のアジトに付いて何か知っている」
問われ、柳は眉間に皺を寄せ、訝し気な表情になった。
「……比嘉さん。あなた一体何を追っているんですか?」
「警視庁管内で発生している連続猟奇殺人事件の被疑者」
「それと、劉が束ねる国際窃盗団と一体どんな関係があるんですか」
私は一瞬躊躇ったあと、柳の耳元に唇を寄せた。
「被疑者が、その国際窃盗団の一味だっていう情報を、とある筋から入手したのよ」
「比嘉さんが追っている事件の被疑者って、確かあの小林清志ですよね」
「そうよ。あの小林清志よ」
「情報の出どころは」
「井の頭公園で暮らす及川っていうホームレス」
「ホームレス」
柳は鸚鵡返しに素っ頓狂な声をあげた。
「情報が本当なのかそれともガセなのか、私にはわからない。だからこうして泥棒専門のキミに訊いてるの」
「小林が、劉と行動を共にしているって情報は、僕も知りませんでした。今初めて知りました」
「そう、無駄足か……。因みにその窃盗団のアジトってどこにあるか知っている」
私に訊ねられ、柳は少し考えこんだ。右の蟀谷辺りを指先で押さえながら、低い声で唸った後、二十代後半の若い男性刑事は口を開いた。
「都内だと、武蔵村山市と八王子、それ以外は、神奈川だと相模原市……」
「八王子市内のアジトって、詳しい住所わかる」
「八王子ですか……。ちょっと待ってください」
柳は一旦私から視線を外した。
「おい、誰か、五係が追っている例の劉禅輝が率いる国際窃盗団のアジト知っている奴いないか」
すると、五係の席に座る一人の女性捜査員が、
「私、知っています」
といって徐に立ちあがった。
私はその女性捜査員に視線を走らせた。
「捜一の比嘉です。彼は、所轄の立花君君です」
「東京湾岸中央署の立花君です」
「捜三五係の岡本です」
「岡本さん。早速ですが、お宅が追っている国際窃盗団のアジトに付いて詳しい情報を教えて頂きたいのですが?」
頷くと岡本渚巡査部長は、デスクの引き出しを開け、中からシステム手帳を取り出した。
「武蔵村山だと、市役所近くの『コーポ○□武蔵村山』二十三号室。八王子は、JR西八王子駅前のアパート『メゾン○○西八王子』二十四号室。相模原は、在日米陸軍相模総合補給廠前の『メゾン相模原○○』二十一号室ですね。でも、行っても無駄ですよ。今現在は全て引き払われていて蛻の殻です……」
「そう、残念ね。八王子市内に連中が利用していたアジトって、その『メゾン○○西八王子』以外に他にないの」
「さあ、わかりません。お役に立てなくて済みません」
「いいえ、こちらこそ、お仕事中手を止めて、ごめんなさいね」
私は渚に目礼した。
その時だった。私の背後に立つ立花君のスマホが最新曲を奏でた。
「公衆電話からだ。誰からだろう」
「早く出なさいよ」
振り返り私は告げた。
「もしもし、はい、立花君です。ああ、及川さんか。ええ、例の窃盗団のアジトの件ですか。住所がわかったって、JR西八王子駅前のアパート『メゾン○○西八王子』二十四号室でしょ。こちらでも調べました。えっ!? 違う。『メゾン○○西八王子』二十四号室じゃないって……ちょっと待って、今、ボールペンとメモを用意するから」
立花君は、スマホを左肩と耳の間に挟んだあと、ボールペンとメモ帳を取り出した。
「はい、どうぞ。京王八王子駅近くの『シティハイツ○○八王子』二十六号室、二階の角部屋ですか。それで、その情報の出どころは? はあ、企業秘密で教えられないって、及川さんちょっとあんたっ」
立花君は首を傾げた。
「あれ、もう切れてる」
「京王八王子駅近くの『シティハイツ○○八王子』二十六号室か……」
私は低い声でいった。
「すぐにうちの捜査員を向かわせます」
捜査三課の女性刑事は、少し興奮気味にいった。
「待って、わたしたちも同行するわ」
そういうと、私は岡本さんの目を見た。
捜査三課の女性刑事は、不満があるのか下唇を少し尖らせて頷いた。
2
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる