捜査一課 猟奇殺人犯捜査官 比嘉可南子 

繁村錦

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CHAPTER8

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 警視庁に戻ると、私は刑事部の入ったフロアにあがった。捜査一課殺人班四係の自分の席に着く。口の中で欠伸を噛み殺し、引き出しを開け中からコーヒー味のキャンディーの袋を取り出した。一粒摘み、口の中に放り込む。

「駄目だ。やっぱり彼女に繫がらない」

 と私の背後に立つ立花君が、焦ったよう
な声でいった。

「どうしたの?」

 首だけで振り返り、完全に憔悴したキャリア刑事を見る。

「さっきから何度も電話を掛けているんですけど、全く繫がらなくて」

「そう、きっと仕事中だから出ないだけでしょ」

 私は素っ気なくいった。

「いつもなら仕事中でも、後から必ず電話かメールかLINEで返信があるのに」

「ふうん。それは変ね。きっと仕事が忙しいのよ。外務省も最近色々とゴタゴタが多いでしょ」

「心配だな。外務省、この近くだから今から僕見に行ってきます」

 私は左腕のG‐ショックに視線を落とした。

「待ちなさい、立花君君。この後、午後六時三十分から会議あるから駄目っ」

「そんな。いいじゃないすっか、一回くらい会議すっぽかしても」

「駄目に決まってるでしょ。キャリアとはいえ、あなたも一応今回の連続殺人事件の被疑者を追っている捜査員の一人なんだから」

 私は眉間に皺を寄せ、険しい表情でいい放った。

「……わかりました」

 立花君は憮然と項垂れた。

「さあ、時間よ。まだ五分あるけど、会議室の方へ移動しましょう」

 私は両腕を机に置き、体重を掛けて回転椅子から腰をあげた。

「どっこいしょ」

 無意識に年寄り染みた言葉が出てしまった。
 聞き込みで出払っている捜査員を除き、今日の収穫を報告するための会議が開かれた。司会進行役は、いつも通り庶務担当の強行班四係の桜庭さん係長だ。

「起立っ」

「敬礼っ」

 の号令で、捜査会議が始まった。
 敷鑑、地取り、証拠品の順番で報告が続いた。
 しかし、どれも似たり寄ったりの報告ばかりで、犯人検挙に繫がる新しい情報はなかった。捜査状況の進捗率を報告するだけの、実につまらなく内容の全くない会議だった。

「諸君。これでもキミたちは栄光ある捜査一課の人間かっ! 何のためにS1S(Search 1 Select)選ばれし捜査第一課員のバッジをつけているだっ!」

 会議の終盤まで傍観していた刑事部参事官が、声を荒げた。
 私は鬱陶しそうに顔を顰め、首筋を掻いた。

「捜査一課に選ばれたからでしょ」

 小声で嫌味をいった。
 いつもならここで私のツッコミに反応して、一言か二言茶々を入れて来る筈の立花君が全く無反応だった。右隣、壁際から二列目に座る立花君を横目で見る。
 俯いたまま、長机の下で何かをやっている。キャリア刑事の挙動が気になり、私は指で机をコンコンと叩いた。それに反応して立花君が顔をあげた。私の方を向く。深刻そう表情をしている。顔色がなっていない。視線がぶつかった。
 どうしたの? と声を出さず、唇だけを動かし訊ねてみた。

「おいっそこ、会議中だぞ。さっきから一体何をやっている。私語は慎め」

 桜庭さんは、鼻の頭の上に皺を刻んだ険しい表情で私を睨み指差した。

「済みません」

 私は小さく頭を下げた。バツ悪そうに舌を出した。
 あんたの所為で怒られたじゃないの、といみ意味を込めて、肘で立花君左脇腹を突く。しかしキャリア刑事は全く無反応で、授業中にスマホを操作する学生のように、机の下で弄っていた。
 それを横目で確認すると、私は舌打ちした。呆れたように溜め息を吐いた。
 松原管理官は、ゴホンと咳払いして、

「過去にお蔵入りした未解決事件の中で、今回と同様の手口での犯行はなかったか、もう一度徹底的に洗い直せ。些細な見落としもあってはいけない。いいな、捜査員各位、それを肝に銘じ一刻も早く事件解決に向けて一丸となって全力で捜査に当たれ」

 と訓示した。

「起立」

「敬礼」

「解散」

 捜査会議終了を伝える桜庭さんの掛け声のあと、捜査員たちは皆資料を鞄に詰め込むと、それぞれの相棒バディと一緒に、自分に与えられた任務に就いた。
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