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第3章 学園のアイドルと過ごす日々

第29話 スターダム?蒼太

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 優香と公園で待ち合わせて一緒に帰った翌日の朝。

「おい蒼太、聞いたぞ。昨日、姫宮さんとこっそり一緒に帰ったんだってな」

 俺はなぜか学校最寄りのバス停で仁王立ちして待ち構えていた健介から、バスを降りた途端に挨拶もすっ飛ばしてそう告げられていた。

「……さすがに情報が早すぎないか??」

 昨日の件に関しては遅かれ早かれバレるだろうとは思っていた俺も、これにはさすがに驚きを禁じ得なかった。
 そして情報元はどうせまた例の口さがない新聞部だろう。
 あいつら俺に何か恨みでもあるのかな?

「蒼太の話だけなら、美少女に振られた可哀そうなヤツって以外は話題になんてならないだろうけど。なにせ一緒に帰った相手があの姫宮さんだからな」

 そりゃあさ?
 少ないとはいえ他にもバス通学の生徒はいるし、実際帰りのバスにも同じ制服の生徒が乗っていたわけで、いつかはバレるとは思っていたよ?

「それでもさすがに昨日の今日で、既に健介にまで知られているとかこの学校の生徒にプライバシーってもんはないのか?」

 相変わらずの俺は驚きと困惑で内心動揺しつつも、とりあえず遅刻しないように健介と肩を並べて学校に向かって歩き出した。

「学園のアイドル姫宮さんの、入学以来初めての男関連のスクープだぜ? しかもそのお相手が最近振られて話題になったばかりのお前ときた。新聞部は色めき立ってるみたいだぞ」

「スクープって、別にクラスメイトと一緒に帰っただけじゃないか。そこに色めき立つようなことは何もないっての」

「そんなこと言って、学校をわざわざ別々に出た後にこっそり公園で待ち合わせてたんだろ? ネタは上がってんだぞ?」

 ……話題にならないよう人目を避けようとしたのが、裏目に出てしまったか。

「別に付き合ってるからじゃなくて、変な噂が立って優香に迷惑かけたくなかっただけだよ。それこそ向こうは有名人なんだから、俺だって気は使うっての」

「なるほど、一応筋は通ってるな」
「一応ってなんだ一応って。文句なしに筋が通ってるだろ。通りまくりだっての」

「はっ、そりゃあもちろん心の底ではそんな建前は信じてないってことだ!」

「そこは信じようぜ? 俺たち小学校から一緒で、しかも中一からはずっと同じクラスの腐れ縁じゃないか」

「一番の親友な蒼太のことを俺も信じたい、信じたいんだ! だがしかし! どうしても信じられないことってのがあるんだよ!」

 足を止めた健介は、俺の方を向くと肩を掴んでガクガクと揺さぶり始めた。

「んなこと言われてもな」
 俺はウザ絡みしてくる健介を無理やり引っぺがすと再び歩き始める。

「くっそー、お前ときたらスペックは俺と大して変わらないモブ男のくせに、なんでお前だけ次から次へとモテるんだよ? おかしいだろ?」

「さらっと俺をディスるなよな……」

「ディスるだと? 逆だっつーの! 俺はな、お前が羨ましくて羨ましくてしょうがないんだよぉぉぉっ!」

 健介は再び立ち止まって俺の方を向くと、言葉ではとても形容しがたい、それはもう悔しそうな顔をしながら、またもや俺の両肩をガシッと掴んだ。

「羨ましいって……だから俺と優香は別に何の関係も――」

「うるさい黙れカス! なぁ頼む! 一生のお願いだから、俺の灰色の青春とお前のキラキラ輝くアオハルを交換してくれないか?」

「だから優香とはなんでもないし、キラキラなアオハルとかそういうんでもないから。あとなにマジ泣きしてんだよ。もはや怖いまであるぞ。あと声がデカい」

 いつの間にか健介の目は光るもので溢れかえっていた。
 なんだこいつ、マジ泣きしてるんだが。

「くぅぅっ! さっきから必死な俺をあざ笑うかのように余裕ぶりやがって!! これがスターダムに駆けのぼった男だけに許された余裕なのか!? 心底羨ましいぞ! 半分! いや1割でいいから俺に分けてくれ!!」

「はいはい、もう何でもいいよ……でもこの辺りは住宅地なんだから、朝からでかい声で騒ぐなよな。近所迷惑だぞ?」

 我を忘れたかのように必死な形相で取り付いてくる健介を、なだめすかしたり払いのけたりしながら、俺は再び歩き始めた。

 俺と優香は、美月ちゃんを助けた縁で知り合っただけの、それ以外はまったく何でもない関係だ。
 なのに、なんだか想像してた以上に話が大きくなってきたような……。

 ま、健介はいつも反応が過剰だし、今回もきっと大げさに言ってるだけだろう――そう思ってた時期が俺にもありました。
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