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第8章 深まりゆく関係

第135話 オーケストラのお誘い

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 それは何でもない平日の帰り道のことだった。
 いつも通り、優香と下校のバスに乗っていると、

「そうだ。ねぇねぇ蒼太くん、今度の土曜日って空いてる?」

 他愛のない話の合間に、優香が俺の週末の予定を確認してきた。
 予定を確認するということは、つまり何かしら俺に用事があるということに他ならない。
 俺は期待に胸を膨らませながら答えた。

「今週の土曜日なら空いてるぞ。どうしたんだ?」

「よかったー。実はオーケストラのコンサートチケットがあるんだけど、一緒に聴きに行かないかな? お父さんに貰ったんだけど、どう?」

 こ、これは!?
 もしかしてデートのお誘いというやつでは?

 デートとなれば、美月ちゃんと優香と3人で行ったプールデート以来で、俺が浮き足だってしまったのも当然だろう。
 だがしかし、である。

「オーケストラって多分だけど、クラシック音楽をやるんだよな?」
「そうだよ。ベートーベンとモーツァルトとハイドンの演奏会なの」

「ベートーベンとモーツァルトはかろうじて名前だけ知ってるけど、は、ハイドン?」

 なんとなく西郷隆盛を彷彿とさせる名前だな?
『おいどん、西郷でごわす』
 祖父母の家に遊びに行った時に見た時代劇で、そんなセリフがあったのを俺はなんとなく思い出していた。

「ハイドンはオーストリアの作曲家で、『交響曲の父』って呼ばれてる人なんだよ」

「交響曲の父かぁ、それはすごそうだ。でも俺、クラシックの曲はほとんど知らないんだよな。それに鑑賞マナーもよく分からないし。えっと、ドレスコードとかそういうのがあるんだよな?」

 ドレスコードってのはその場にあった服装のことで、高級フレンチレストランに行くのにTシャツ&短パンはダメとか、そういうたぐいのアレだ。

 逆に、運動会にタキシードで参加するのもドレスコード違反になるだろう。
(どこにでもタキシードで現れることが許されたタキシ〇ド仮面様でもなければ)

 つまり要約すると『空気を読め』ってことなんだけど、オーケストラって音楽の中でも一番マナーにうるさそうな気がしないか?

「ふふっ、オーケストラを聴くのに、そんな面倒なマナーなんてないってば」
 しかし優香からは意外な答えが返って来た。

「あれ、そうなんだ?」
「そうだよー」

「なんとなくだけど、
『おやおや? ベートーベンの交響曲を聴くのにそんなラフな格好でお越しになられたのですか? 左様でございますか。お出口はあちらでございますよヤングボーイ』
 とかなんとか、言われちゃいそうなイメージがあるんだけど」

 俺の勝手なイメージだけど、『オーケストラのクラシックコンサート』にはそういう途方もない敷居の高さを感じざるをえない。

「あはは、なにそれ。蒼太くんって時々すごく面白いことを言うよね」
「いやいや、今のは笑いを取ったんじゃなくて、真面目な話なんだってば」

 しかし俺のなんとなくのイメージは、どうやら優香にはギャグだと思われてしまったらしい。

「うーんとね。服装とかも普通の服でいいし、騒いだり踊ったりしなければ全然大丈夫だから。ジーンズにスニーカーでも平気だし」

「なんか意外だな。もっと細かくキッチリ決まっているもんだとばっかり思ってたよ」
「気持ちは分かっちゃうかも」

「だろ?」
「実を言うと、私も最初はそう思ってたんだよね。でも全然そんなことはなくて、初めて行った時に拍子抜けしちゃったから」

「そっかぁ。それなら何の問題もなさそうだから、ご一緒させてもらおうかな?」

 面倒なルールがないのであれば、優香からのデートのお誘いを俺が断る理由はない。

「じゃあ土曜日の11時にJRの駅前で待ち合わせね。軽くご飯食べてから行こうよ?」
「土曜日の11時にJRの駅前な。オッケー」

「楽しみにしてるね♪」
「俺もだよ」

「それと公演中はスマホの電源を切らないといけないから、腕時計をしていった方がいいかも」
「それも了解。教えてくれてありがとな」
「いえいえ、どういたしまして」

 意中の女の子と一緒にクラッシック鑑賞会デート。
 なんて大人感のあるデートだろう。
 男としてのステータスが一気に上がった気がするぞ!
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