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第8章 深まりゆく関係

第137話 蒼太、苦闘の幕開け……

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 ~~~~~~~♪

 おおっ!
 いろんな楽器を持った人がいっぱいいる!
 それに綺麗な音色だなぁ。

 音楽素人の俺、せっかくのオーケストラだというのに、自分で言うのもなんだけど小学生並みの感想だった。

 1曲目はベートーベンのなんちゃらの何番という曲で、俺は最初の最初だけは綺麗な音色に、芸術をたしなむ英国紳士のような高尚な気分で聞き入っていたんだけど――。

 ~~~~~~~♪

 ……くっ、ヤバい。
 マジでヤバい。

 何がヤバいって――だめだこれ、今にも寝てしまいそうなんだが!?

 たいして時間も経たないうちに、俺は襲い来る猛烈な睡魔との、激しい戦いにさらされていた。
 美しいハーモニーが、面制圧砲撃のごとく次から次へと俺の意識を絡めとって、眠りの旅へといざなおうとしてくる。

 寝ちゃいけない、寝ちゃいけない。
 ここで寝たら、誘ってもらったデートで眠りこける最悪な男になってしまう。

 それがどれだけ酷いことかは、立場を逆にして考えてみたら一目瞭然りょうぜんだ。

 もし自分がデートに誘った女の子が、デートが始まってすぐに寝てしまったら、俺の心は悲しみでズタボロになるだろう。
 どう考えても自分に興味なしってことだから。

 だから絶対に寝ちゃいけないんだ!

 でもさ?
 めちゃくちゃ眠いんだよ!!

 空調が絶妙な温度で効いているところに、オーケストラの心地よいハーモニーがあいまって、強烈な眠気が俺を襲ってくるのだ。

 こっくり、こっくり、こっくり……はっ!?

 やっべぇ!?
 いつの間にか意識が遠くなっていた。
 寝落ちする5秒前だった。

 くっ、耐えろ、耐えるんだ紺野蒼太!
 デート中に寝るな!
 せっかくデートに誘ってもらったっていうのに、寝こけてしまって優香を失望させるわけにはいかないんだからな!

 男を見せろ蒼太!
 終了時間まで耐えるんだ!!

 俺は右手親指の爪で、左の手のひらを何度も突いて、襲い来る眠気に果敢に応戦する。

 舐めるなよ睡魔。
 俺はやる時はやる男、紺野蒼太だ!
 うぉぉぉぉぉぉぉ――――――っっ!!

 だがしかし、今日の敵があまりに強大であることを、俺はすぐに思い知ることになる。

 …………
 ……

 襲い来る睡魔に耐えること体感3~40分。
 さてと、だいぶ時間が経ったのではないだろうか?

 俺は暗がりの中、目を凝らして腕時計の針を見た。
(コンサート中はスマホは禁止だと優香に教えてもらっていたので、普段は付けないんだけど付けてきた)

 するとなんということだろうか!

 え、うそん?

 もうゆうに30分以上は経過していると思っていたのに、まだ開始から10分も過ぎていないんだが????

 は?
 え?
 なにそれ、どういうこと?
 もしかしなくても、さっきからぜんぜん時間が進んでいないってこと?

 まるでこの場で俺だけが、時の牢獄に閉じ込められてしまったかのようだった。
 時間の流れが俺だけ完全におかしい。

 だっていうのに既に俺の精神力は限界ギリギリで。
 ほんのわずかでも意識を緩めた瞬間に、確実に寝落ちする――そんなまずい確信が俺の中にあった。

 そんなことを考えている間にも、睡魔はさらにさらにと俺の精神をむしばんでいく。
 精神的な消耗戦に、抵抗する気力がどんどんと削がれていってしまう。

 こっくり、こっくり……はっ!?

 いかんいかん!!
 デート中に寝るとか絶対にダメだから!

 ここは耐えろよ俺!
 デートで寝こけていいのは、女の子を失望させる覚悟のある奴だけだ!
(もちろん俺には、そんな覚悟もつもりもない)

 こっくり、こっくり……はっ!?

 お、おおお起きろ、起きるんだ俺!

 ファイ、オー!
 ファイ、オー!
 ファイ………………こっくり、こっくり、こっくり……はっ!?
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