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第9章 蒼太、決意の時

第156話 ラブレター(1)

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 ここ数日、俺は様々なことを考えていた。

 今の自分の置かれている状況や、胸の中に想いについてなどなど。
 つまりは優香との関係について、いろいろなことを考えていた。

 優香と同じ時間を過ごすたびに積み重なっていき、今や胸の奥から外へと溢れようとしている恋心を、俺はもはや無視することができなかった。

「優香――」

 名前を呼ぶだけで心がトゥンク、と大きく跳ねる。
 恋い焦れすぎて、心臓が焼けてしまいそうなほどだ。

 だけど告白して振られてしまって優香との関係が悪くなることで、美月ちゃんを悲しませてしまうだろうことが、どうにも心配で。
 だから俺は、優香に自分の気持ちを伝えることをしてこなかった。

 一人の男としての優香への恋心と。
 慕ってくれる美月ちゃんを悲しませたくないという、お兄ちゃんのような気持ち。

 俺はその2つを天秤にかけながら、常に後者に重きを置いてここ最近を過ごしてきた。
 だけど。

「今の俺と優香は過去一番ってほどに、距離が近づいているって思うんだよな」

 もちろんこのままさらに距離が近づく可能性もあるだろう。
 しかし逆にここをピークとして、離れていってしまう可能性もあった。

 それぐらいに今、俺と優香の関係性は近く縮まっている。

 そしてそれは俺の個人的な見立てってわけでも、ないはずだ。
 ついこの間だって、健介が後悔することのないようにと、わざわざしなくてもいいアドバイスをくれたのがいい例だ。

 そういった様々なことを考えた末に、俺は一つの決断を下した。

「俺は優香に告白する」

 俺は一歩を踏み出すことを決めた。



 その日の4時間目は、特別教室で授業が行われる、いわゆる「移動教室」だった。

「それでは授業を終わります。礼は省略で」

 4時間目の終わりを告げるチャイムが鳴ったと同時に、先生が授業の終わりを告げると、

「蒼太、昼休みだし、教室に帰らないで直で食堂行こうぜ」

 いつものように健介が昼飯に誘ってきた。
 しかし俺は首を横に振った。

「悪い。実は、漏れそうなんだ」
 内股になりながら、両手で股間を覆う。

「おまっ、おしっこ漏れそうとか小学生かよ!? エンガチョ!」
「アホか、老若男女を問わない生理現象だっての」

「はいはいそうだな。じゃあ俺は先に食堂行って席取ってるから、蒼太はとっとと出すもん出してから来いよ」
「サンキュー」

「間違っても漏らすなよ。卒業まで言われるぞ。漏ら蒼太もらそうたってな」

「なんだその小学生男子レベルのあだ名は。漏らさねぇっつーの。じゃあな」
「おう。とりま急げよ」
「了解」

 俺は健介と別れるとダッシュでトイレ――ではなく、自分の教室へと駆け戻った。

 クラスメイトはまだ誰一人として戻っていない。
 健介みたいに、教室に帰らずに直で食堂に行くやつも結構いるし、一番乗りだ。

 俺はそのことをしっかりと確認すると、さっきの授業で持って行っていた資料集の間に、あらかじめ挟んでおいたラブレターを取り出した。

 薄緑色のちょっとカッコつけた封筒だ。

「告白が成功しますように」
 そして祈るように呟くと、ラブレターを優香の机の中にシュバっと放り込んだ。

 その直後、クラスメイトたちが続々と教室へと戻ってくる。

 ギリセーフ!

 ふぅ、やれやれ。
 間一髪でミッションは成功だ。

 俺は胸をなでおろした。

 ラブレターには、伝えたいことがあるから放課後に体育館裏に来て欲しい、とだけ書いてある。
 これであとは放課後、やってきた優香に、俺が本気の気持ちを伝えるだけだ。

 どうやって優香に告白するかいろいろと考えたんだけど、俺としてはムードとか特別な雰囲気を大事にしたかった。

 気持ちを伝えるなら電話や手紙じゃなく、直接面と向かってじゃないとダメだと俺は思う。
 だから手紙はあくまで呼び出すだけ。

 ラインやメールではなく、敢えて前時代的な手紙を使ったのもムード作りの一環だ。
 手紙という失われつつあるツールを使うことで生まれる非日常感こそが、告白の始まりを告げるには相応しいだろうと思ったから。

 伝えるための言葉も考えてある。

(俺は、やるぞ!)

 俺は成功への期待と、失敗への不安を半分ずつ胸に抱えながら、健介の待つ食堂へと向かった。
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