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第一章 運命の再会
第8話 運命の再会 ~夜のテラスにて~(5)
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「どうしたんだいミリーナ? 少し顔が赤いようだが?」
「べ、別になんでもありませんわ。少し酔いが回ってしまったのでしょう」
素敵な笑顔に見惚れていたと言うのはさすがに気恥ずかしく、ミリーナはお酒のせいにして誤魔化した。
「頬を染めて恥ずかしがる姿も魅力的だよ」
「も、もう……先ほどから何を歯の浮くことを仰っておられるのやら。ジェフリー王太子殿下も少々酔いが回り過ぎているのではありませんか?」
「いいや本当のことだよ。ミリーナ、君はとても魅力的だ。君の前では美の女神アフロディーテすら嫉妬にその身を焦がすことだろう」
「も、もう、ですからバカなことを仰らないでくださいまし……」
あの素敵な笑顔を見せてから急に積極的になったジェフリー王太子と、口ではいろいろ言いながら実はそれが満更でもないミリーナ。
2人が割といい感じで盛り上がっていると、テラスと室内を分ける扉がコンコンとノックされて、
「ご歓談中申し訳ありません。ジェフリー王太子殿下、そろそろパーティにお戻りくださいませ。国王陛下がおいでになる時間です」
灰色の髪をオールバックでまとめたナイスミドルの執事が告げた。
「すまないパーシヴァル、もうそんな時間か。興が乗って時間が経つのを失念していたようだ。分かった、すぐに行くから儀礼用の上着を用意しておいてくれ」
「委細全て整っております。それではお待ちしております」
「ああ、いつもありがとう」
ジェフリー王太子はパーシヴァル――王太子付きの筆頭執事である――を下がらせると、ミリーナに向き直って言った。
「ミリーナ、今日はとても楽しかった。また会おう」
そう言うとジェフリー王太子はどこか嬉しそうな弾んだ足取りで、テラスを後にした。
「こちらこそ、失礼ばかりでたいしたお話もできぬ私を楽しませていただきありがとうございました。感謝の念に堪えません。また機会がありましたらぜひ誘っていただければこれに勝る喜びはありませんわ」
ミリーナもそう答えたものの、実際に2度目があるとは思ってはいなかった。
(こんな偶然は2度とないでしょうね。それに可愛げのない失礼なことばっかり言ってしまいましたし、完全にこれっきりでしょう。あ、でもそうだわ。家に帰ったら両親と弟にジェフリー王太子殿下と2人きりでお話したって、聞かせてあげましょう。きっと驚くわよね。お父様もジェフリー王太子殿下とは直接話したことはないって言っておられましたし、驚きすぎて腰を抜かしちゃうかもしれませんわ)
再び1人になった夜のテラスで、ミリーナはふふっと小さく笑った。
今度実家に帰れるのは夏の休暇の時だから大分先のことだ。
その時にもったいぶって聞かせてあげてみんなが驚く姿をミリーナは想像する。
「ううん、でもやっぱりまずは手紙を書いたほうがいいわよね。いきなり話したらびっくりしすぎてお父様の心臓が止まっちゃうかもしれないから」
しかしミリーナは知らなかった。
これより2日後。
パーティの当日と翌日に休みを頂いてから、王宮にいつものように奉公に戻ったミリーナを突然の異動の辞令が待っていることを。
そして自分が王太子付き女官――実質の妃候補になってしまうということを、この時のミリーナは知る由もなかったのだった。
「べ、別になんでもありませんわ。少し酔いが回ってしまったのでしょう」
素敵な笑顔に見惚れていたと言うのはさすがに気恥ずかしく、ミリーナはお酒のせいにして誤魔化した。
「頬を染めて恥ずかしがる姿も魅力的だよ」
「も、もう……先ほどから何を歯の浮くことを仰っておられるのやら。ジェフリー王太子殿下も少々酔いが回り過ぎているのではありませんか?」
「いいや本当のことだよ。ミリーナ、君はとても魅力的だ。君の前では美の女神アフロディーテすら嫉妬にその身を焦がすことだろう」
「も、もう、ですからバカなことを仰らないでくださいまし……」
あの素敵な笑顔を見せてから急に積極的になったジェフリー王太子と、口ではいろいろ言いながら実はそれが満更でもないミリーナ。
2人が割といい感じで盛り上がっていると、テラスと室内を分ける扉がコンコンとノックされて、
「ご歓談中申し訳ありません。ジェフリー王太子殿下、そろそろパーティにお戻りくださいませ。国王陛下がおいでになる時間です」
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「すまないパーシヴァル、もうそんな時間か。興が乗って時間が経つのを失念していたようだ。分かった、すぐに行くから儀礼用の上着を用意しておいてくれ」
「委細全て整っております。それではお待ちしております」
「ああ、いつもありがとう」
ジェフリー王太子はパーシヴァル――王太子付きの筆頭執事である――を下がらせると、ミリーナに向き直って言った。
「ミリーナ、今日はとても楽しかった。また会おう」
そう言うとジェフリー王太子はどこか嬉しそうな弾んだ足取りで、テラスを後にした。
「こちらこそ、失礼ばかりでたいしたお話もできぬ私を楽しませていただきありがとうございました。感謝の念に堪えません。また機会がありましたらぜひ誘っていただければこれに勝る喜びはありませんわ」
ミリーナもそう答えたものの、実際に2度目があるとは思ってはいなかった。
(こんな偶然は2度とないでしょうね。それに可愛げのない失礼なことばっかり言ってしまいましたし、完全にこれっきりでしょう。あ、でもそうだわ。家に帰ったら両親と弟にジェフリー王太子殿下と2人きりでお話したって、聞かせてあげましょう。きっと驚くわよね。お父様もジェフリー王太子殿下とは直接話したことはないって言っておられましたし、驚きすぎて腰を抜かしちゃうかもしれませんわ)
再び1人になった夜のテラスで、ミリーナはふふっと小さく笑った。
今度実家に帰れるのは夏の休暇の時だから大分先のことだ。
その時にもったいぶって聞かせてあげてみんなが驚く姿をミリーナは想像する。
「ううん、でもやっぱりまずは手紙を書いたほうがいいわよね。いきなり話したらびっくりしすぎてお父様の心臓が止まっちゃうかもしれないから」
しかしミリーナは知らなかった。
これより2日後。
パーティの当日と翌日に休みを頂いてから、王宮にいつものように奉公に戻ったミリーナを突然の異動の辞令が待っていることを。
そして自分が王太子付き女官――実質の妃候補になってしまうということを、この時のミリーナは知る由もなかったのだった。
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