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第一章 運命の再会
第7話 運命の再会 ~夜のテラスにて~(4)
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「ははっ、いやいや構わないさ。これはこれでいい経験になったよ。これで次に誰かに断られた時は、無様な顔を晒さないで済むというものだ」
「ジェフリー王太子殿下のお誘いを断るような大馬鹿者は、後にも先にも私以外にはきっといないと思いますわ……」
本当に穴があったら入りたいミリーナだった。
(だめ、恥ずかし過ぎて、とてもじゃないけどジェフリー王太子殿下の顔を見ていられないわ……)
その言葉を最後にプツっと会話が途切れ、わずかな沈黙の時間が流れた。
少ししてから、
「ところで少し気になることがあるんだが――」
ジェフリー王太子はそう言うと、わずかに口籠った。
(あら? 大国ローエングリン王国の王太子ともあろうお方が、下級貴族の娘なんぞになにを口籠る必要があるのかしら?)
しかもやたらと真剣で切羽詰まった声をしているように感じて、ミリーナは内心首をかしげてしまった
「どうされましたでしょうか? なにか言いにくいことなのでしょうか? 私ではお話を聞くくらいしかできないでしょうけれど、良ければお話を聞かせては頂けませんか?」
しかし言いかけた以上は別に言えない話ではないのだろうと判断したミリーナは、臣下の務めとして言いにくそうにしているジェフリー王太子の背中をそっと優しく押してあげることにした。
「いやなに、大したことではないのだが……」
「はい」
「わずかに赤みがかった金髪、なによりその素直な物言いの数々……もしかして昔俺と会ったことがないか? かなり昔のことだからもう覚えてないかもしれないが、今から10年ほど前のことだ」
「……世の女性を魅了してやまないジェフリー王太子殿下ともあろうお方が、今どきそんな手垢の付いた口説き文句で女性を口説いているのですか?」
口籠っていたのがまさかナンパのセリフだったとは思わず、さらにはパーティでの精神的な疲労もあってか、ミリーナはついついそんなことを言ってしまった。
しかもやや呆れたような口調で。
そもそもミリーナは過去にジェフリー王太子と出会ったことなどない。
王宮に奉公に行くようになった今になってやっと、極々稀に遠目から見かけることがあるくらいの、無関係なその他大勢にすぎない。
もちろん言ってしまってから「またやっちゃった! しっかりなさいよ今日の私!? 一体どうしたっていうのよ!?」と内心青ざめたものの、今さらもう遅い。
でもなぜだか知らないけれど、ジェフリー王太子を相手にするとミリーナはつい考えるより先に口が動いてしまうのだ。
まるで昔からの親友と話しているみたいに、気さくに口が動いてしまうのだ。
ミリーナは自分のことながら、なんで自分がこんなことを口走ってしまったのか分からずにいた。
しかし言ってしまったという事実はもう変えられない。
ミリーナは顔からも血の気が引いていくのを感じていた。
ミリーナの家は貴族とは名ばかりの貧乏男爵家だ。
もちろんその日暮らしの庶民よりははるかにいい暮らしではあるものの、中流商家よりもはるかに貧乏だ。
ドレスだってたったの3着しかもっていないから、パーティが続くと恥ずかしい思いをすることになる。
上級貴族の娘の誕生日パーティに呼ばれて、彼女が何度もお色直しするのを羨ましく見つめることもあった。
であるからしてジェフリー王太子の不興を買えば、ミリーナの実家をお家断絶することなど赤子の手をひねるよりもたやすいのだ。
「いやすまない、そんなつもりはなかったんだ。気を悪くしないでくれると嬉しい。ははっ」
しかしジェフリー王太子はそんなミリーナの態度を気にも留めないどころか、なぜかとても楽しそう笑ったのだ。
不意打ちで見せられたその天使のように魅力的な笑顔に、ミリーナは思わず胸を高鳴らせてしまった。
顔がカァァ……!と熱く真っ赤になってしまっているのが、自分でも分かってしまう。
(な、なんですのこれ!? この笑顔、すごく素敵なんですけれど!? ジェフリー王太子殿下ってこんなにも素敵な笑顔もお見せになるの!?)
ミリーナも年頃の女の子でイケメン男性は大好きなので、それもまた仕方のないことだった。
ドキドキと早鐘を打つ胸の高鳴りに、つい思考力や観察眼が損なわれてしまう。
だからミリーナの髪の色や、物おじしない態度を見たジェフリー王太子が、なぜこうまで喜んだ顔をしたのかに思い至ることができなかった。
ミリーナこそが幼いあの日に出会ったミリィであると――あの時街を案内してくれた初恋の女の子であると直感したジェフリー王太子が、それはもう飛び上がらんばかりに喜んでいたことに、悲しいかなこの時のミリーナは気付くことができなかったのだ。
「ジェフリー王太子殿下のお誘いを断るような大馬鹿者は、後にも先にも私以外にはきっといないと思いますわ……」
本当に穴があったら入りたいミリーナだった。
(だめ、恥ずかし過ぎて、とてもじゃないけどジェフリー王太子殿下の顔を見ていられないわ……)
その言葉を最後にプツっと会話が途切れ、わずかな沈黙の時間が流れた。
少ししてから、
「ところで少し気になることがあるんだが――」
ジェフリー王太子はそう言うと、わずかに口籠った。
(あら? 大国ローエングリン王国の王太子ともあろうお方が、下級貴族の娘なんぞになにを口籠る必要があるのかしら?)
しかもやたらと真剣で切羽詰まった声をしているように感じて、ミリーナは内心首をかしげてしまった
「どうされましたでしょうか? なにか言いにくいことなのでしょうか? 私ではお話を聞くくらいしかできないでしょうけれど、良ければお話を聞かせては頂けませんか?」
しかし言いかけた以上は別に言えない話ではないのだろうと判断したミリーナは、臣下の務めとして言いにくそうにしているジェフリー王太子の背中をそっと優しく押してあげることにした。
「いやなに、大したことではないのだが……」
「はい」
「わずかに赤みがかった金髪、なによりその素直な物言いの数々……もしかして昔俺と会ったことがないか? かなり昔のことだからもう覚えてないかもしれないが、今から10年ほど前のことだ」
「……世の女性を魅了してやまないジェフリー王太子殿下ともあろうお方が、今どきそんな手垢の付いた口説き文句で女性を口説いているのですか?」
口籠っていたのがまさかナンパのセリフだったとは思わず、さらにはパーティでの精神的な疲労もあってか、ミリーナはついついそんなことを言ってしまった。
しかもやや呆れたような口調で。
そもそもミリーナは過去にジェフリー王太子と出会ったことなどない。
王宮に奉公に行くようになった今になってやっと、極々稀に遠目から見かけることがあるくらいの、無関係なその他大勢にすぎない。
もちろん言ってしまってから「またやっちゃった! しっかりなさいよ今日の私!? 一体どうしたっていうのよ!?」と内心青ざめたものの、今さらもう遅い。
でもなぜだか知らないけれど、ジェフリー王太子を相手にするとミリーナはつい考えるより先に口が動いてしまうのだ。
まるで昔からの親友と話しているみたいに、気さくに口が動いてしまうのだ。
ミリーナは自分のことながら、なんで自分がこんなことを口走ってしまったのか分からずにいた。
しかし言ってしまったという事実はもう変えられない。
ミリーナは顔からも血の気が引いていくのを感じていた。
ミリーナの家は貴族とは名ばかりの貧乏男爵家だ。
もちろんその日暮らしの庶民よりははるかにいい暮らしではあるものの、中流商家よりもはるかに貧乏だ。
ドレスだってたったの3着しかもっていないから、パーティが続くと恥ずかしい思いをすることになる。
上級貴族の娘の誕生日パーティに呼ばれて、彼女が何度もお色直しするのを羨ましく見つめることもあった。
であるからしてジェフリー王太子の不興を買えば、ミリーナの実家をお家断絶することなど赤子の手をひねるよりもたやすいのだ。
「いやすまない、そんなつもりはなかったんだ。気を悪くしないでくれると嬉しい。ははっ」
しかしジェフリー王太子はそんなミリーナの態度を気にも留めないどころか、なぜかとても楽しそう笑ったのだ。
不意打ちで見せられたその天使のように魅力的な笑顔に、ミリーナは思わず胸を高鳴らせてしまった。
顔がカァァ……!と熱く真っ赤になってしまっているのが、自分でも分かってしまう。
(な、なんですのこれ!? この笑顔、すごく素敵なんですけれど!? ジェフリー王太子殿下ってこんなにも素敵な笑顔もお見せになるの!?)
ミリーナも年頃の女の子でイケメン男性は大好きなので、それもまた仕方のないことだった。
ドキドキと早鐘を打つ胸の高鳴りに、つい思考力や観察眼が損なわれてしまう。
だからミリーナの髪の色や、物おじしない態度を見たジェフリー王太子が、なぜこうまで喜んだ顔をしたのかに思い至ることができなかった。
ミリーナこそが幼いあの日に出会ったミリィであると――あの時街を案内してくれた初恋の女の子であると直感したジェフリー王太子が、それはもう飛び上がらんばかりに喜んでいたことに、悲しいかなこの時のミリーナは気付くことができなかったのだ。
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